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2015年12月18日 (金)

復帰

 何時もの様に、扉を押して道場に入ると、先客が帰り支度をしていますので「お帰りですか、使わせてもらいます」と一声かけます。軽く会釈して顏を上げますと奥から走り寄って来る女性がいます。
 
 もう二年以上もお会いして居なかった太極拳をされる方が、満面に笑みを浮かべて懐かしそうに手を差し伸べて来られます。思わずその手を握ってしまいました。
 「お元気だったのですね、心配していました」
彼女とはもう何年になるのでしょう、個人稽古に出かけると良く二人きりで広い道場でそれぞれ鏡に向かっていました。
 中休みの時には、足の運びや体の動かし方など、太極拳の裁きを丁寧に教えていただいていたのです。
 
 少し肉が落ちて、お顔もちょっと張りが亡くなった様です、懐かしそうに微笑む顔には人懐っこいえくぼが昔のままでした。
「実は病気をして二年間何も出来ず引きこもっていました、ようやく癒えて稽古を始めました。
その間に仕事も止めてしまいました。もう昔の様に出来ないかもしれませんが体力を取り戻して今度昇段試験を受けて見ようと思います。」
 話しによると、頑張り屋さんでしたから、稽古も仕事も一生懸命だったのでしょう。疲れが溜まって足裏の筋肉に炎症を起こして歩行困難になり、何も出来なくなったそうです。
 この方は、勇気の有る方で、人相の悪い空手の人が数人で大声で稽古して居ますと、「静かにして」と文句を言いに云ったことなど思い出されます。
 この道場に通って何年にもなるのですが、もう何人かが見られなくなってしまいました。稽古中に倒れてしまって、それきりの御老人。
 最後の挑戦と、昇段を目指して毎日来られていたご婦人は、審査に落ちてやめてしまった。
 御主人の転勤で、移って行かれた若いご婦人、この方は相当の使い手でした。
  自転車で転び複雑骨折をされて、間々ならぬ体で弟子を育て上げ道場を任された先生も居られました。この先生からも多くの秘伝の書き付けを弟子でも無い私は頂戴したものです。
 「この世界は、余計な事を言ったり、書いたりすれば頭を叩かれ足を引っ張られるよ」と逢う度に諭されたものです。そのお弟子さんと今では剣を交える事もしばしばです。
 又別に、早抜きがやりたいと言っておねだりする私に、80歳を過ぎて若い時からの修行がたたって足腰を痛められたある先生は、2度も繰り返して見せてくださいました。
 あの人も、この人もお会いする度にいつも、私に稽古場所を譲ってくださいました。
 返り咲いたこのご婦人も、私の為に早速ご自分の場所を提供して呉れて、「さあどうぞ」と仰います。「是からは、健康の為にお稽古をしに来ます。」と仰っています。
 
 先日50年のキャリアの有る方が、「腰が痛くてこれ以上続けられない、私の居合をやめます」と言って去って行かれました。「私の居合をやめます」の「私の居合」とは何だったのかとお聞きしたい気持ちで一杯です。
 きっと、元気な時の、ご自分の演武に酔っておられた頃の「幻を追って」その様に出来ない自分に結論を出されたのでしょう。
 誰にでも訪れる、老いによる衰え、不慮の事故、ご家族の事、仕事の事、環境の変化いろいろあるでしょう。
 然し50年何を大事にされてきたのでしょう・・・ある先生は90歳を過ぎた母親から「お前は何時まで棒振りしとる」と叱られたと頭をかいて居ました。何度も入院しながら今でも、後進の指導や海外の剣士のお世話などされておられます。その方の、ゆっくり丁寧な居合には、幾つかの手術で斬り刻まれ、骨にはボルトを通し、生死の境を乗り越えて、道場の隅で抜いて居られた姿が眼に焼き付いています。
 
 50年も「棒を振って居ただけ」なら止めてしまっても別におかしな事ではないでしょう。それとも「私の居合」はやめて、是からは「本来の居合」を求め続けられるのでしょうか・・・・そうでなければ今日までは健康維持の為、それとも師匠の「幻に追われて」の棒振りだったかも知れません。
 何糞とばかりに、我が眼前に現れる日を待って居ます。居合は棒振りでは無い・・まして人殺しの稽古などでは決してない。
 
 
 
 
 
 
 
 

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コメント

おはようございます。無銘です。
毎朝楽しみに拝見しております。
私、枯れた居合が好きなんです。(笑)
時と共に変化していく、出来なくなる事があっても出来る方法を模索しているような居合が好きです。もちろん、五体満足で居合道を歩める事を感謝しつつ…。

無銘さま
コメントありがとうございます。
仰る通りですね。
見た目穏やかでも、相対して抜かせてもらいますと良くわかります。
       ミツヒラ

投稿: 無銘 | 2015年12月19日 (土) 07時37分

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