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2015年12月18日 (金)

曽田本免許皆伝目録その39福井春政先生の道歌

曽田本免許皆伝目録

39.福井先生の道歌
*第19代福井春政先生に依る、河野百錬先生への免許皆伝目録には、前回の不思議な「流名」の次に「名称」と題をつけて居合道歌が書かれています。(2015年12月11日曽田本免許皆伝目録35福井春政先生の根元之巻1)
 従来の皆伝では、根元之巻の後に無双直伝英信流目録が来るのですが、是も独特の構成です。
流名
林崎無想流
             重信流
林崎夢想流
 
名称
横雲   深山には嵐吹くらし三吉野の
             花か霞か横雲の空
 
虎一足  猛き虎の千里の歩み遠からず
             行より速くかへるあし引
 
稲妻   諸共に光と知れど稲妻の
             跡なる雷の響き知られず
 
浮雲   麓より吹上げられし浮雲は
             四方の高根を立つゝむなり
 
山颪   高根より吹下す風の強ければ
            麓の木々は雪もたまらず
 
岩浪   行く舟のかぢ取り直す間もなきは
             岩尾の浪の強くあたれば
 
鱗返   滝津波瀬上る鯉の鱗は
             水せき上げて落つる事なし
 
浪返   明石潟瀬戸越す波の上にこそ
             岩尾も岸もたまるものかわ
 
滝落   滝津瀬の崩るゝ事の深ければ
             前に立添ふ岩もなきかな
*この構成を見て、気が付いたのは、曽田本の古伝神傳流秘書の構成が「抜刀心持引歌」から始まって、順に居合兵法伝来—大森流居合之事-英信流居合之事-太刀打之事・・・でした。その「抜刀心持引歌」の後半にここにある歌が有ります。
業名も歌も其の儘です。(2014年9月12日~9月20日抜刀心持引歌8~16)
 
・横雲
 遠い三吉野の奥山には春の嵐が吹いているのだろう、さくら吹雪が横雲になって霞の空を吹きつけている。
横雲の横一線の抜き付けを当てたのでしょう。
やたら気張って、力いっぱい振り回したり、恐ろしい般若の形相で演じる人などはこのような業歌を口ずさんで、業をイメージして見るのもいいかも知れません。
・虎一足
 虎は千里往って千里還る
虎は1日に千里の遠くへ行ってまた戻ってくる。勢い盛んなことのたとえ。
寅年の干支の処でこんな諺があったのを思い出します。
虎は大きいものは胴長250cm、体重280kg位で縄張りは10~20平方km、一日に徘徊する距離10~20kmだそうです。
この歌は、立膝に座し前面の敵の抜き付けを、左足を引いて切先を下にして抜き打ちに受け払い真向に斬り下す、すさまじい業です。その抜き付ける際の左足は後方に引く其の足捌きの素早い動作を歌に詠み込んだものでしょう。
・稲妻
 この歌は稲妻の様子を歌ったもので、稲光の後に音がすると歌っています。
英信流の三本目稲妻にこじつけると、敵が上段から打込んで来るのを立ち上がり様刀を抜いて小手に抜打ちに切り付ける、ここが稲光の閃光の様に鋭く素早い処でしょう、即座に振り冠って真向に打ち下す処は後から追ってくる雷鳴でしょう。
敵は雷鳴を聞く猶予も無く両断されているのです。
・浮雲
 谷間から湧き出る様に雲が山頂を目指して吹き上げられて行きます。山頂付近は浮雲が集まって頂きが見えなくなってしまいます。
この歌と英信流(立膝の部)四本目浮雲をイメージするのですが、立膝から右側の敵が我が柄を取ろうとする手を避けて、ふわ~と立上り、敵が「しまった」と退がろうとするのに合わせて、足を踏みもじて抜き付けて行く。
其の時、勢いよく動作を付ければ敵は慌てて間を離れてしまいそうです。
 ふわ~と仕留めるのが心理的にはよさそうです。などとごつごつ演じている人を見て思っています。
・山颪
 山颪は山の上の方から吹き降ろされる風で、其の風が強く、麓の木々には雪も降り積もらない、と詠んでいます。
英信流(立膝の部)の颪にこの歌をイメージすると、敵が我が刀を取らんと手を出すのを外し、しまったとする敵の顔面を打ち据える、この場面に当てるか、敵の手をするりと外して、ドンと顔面を打ち据え、逃がさじと胸に抜き付ける場面にイメージするか、颪は相手次第です。
・岩浪
 岩礁に打ち寄せる浪が強くて、舵を取り直す間もなく乗り上げてしまったと言うのでしょう、    岩浪の場合、対敵の害意が動作に現れないうちに先んじて攻撃して居る様な教えをしている処も有る様です。
 刀を抜く処を敵に見せない様に抜出し、敵に向くや否や刺突する。
或は、敵が柄を取りに来るので刀を抜出し、柄を取らせない様にして敵に振り向いて刺突する。
・鱗返
 左脇の敵が我に仕掛けんとする機先を制して、中腰に立ち上がり右に振り向き、左足を後ろに引くや横一文字に抜き付け、真向に切り下す業です。
 瀧を遡上し鱗を光らせる鯉は、瀧の落ち口まで上がっても落ちることはない。と言うのでしょう。
 歌と業がマッチしているような気がしませんが、鱗返の業名から読まれた歌で、鱗の文字があればよい、程度でしょう。
・浪返
 明石の海峡に打ち寄せる波に岩尾も岸もたまったものではない。という歌でしょう。
 浪返は、後ろに座す敵の害意を察し、振り向きざま抜き打ちに斬り真向に切下ろすという業です。
 歌のイメージを被せれば、怒涛の様に打ち寄せるが如く、後ろに振り向き、左足を後ろに引いて横一文字に抜きつけ即座に上段に振り冠って真向に打ち下ろし勝つ、敵には何もさせない様な鋭く威圧する気を持った振り向きの動作が必要でしょう。
 敵にすれば押し寄せる波のように迫ってくる我に、一瞬戸惑う瞬間です。
 我は左足を引いて抜きつけます。敵には引く波の中から切っ先が不意に顔面に伸びて来る様に思えるでしょう。
・瀧落
 流れ落ちる瀧の勢いに岩も削り取られ、落ちる瀧を阻む者も無い様だ。
 瀧落は、座している処、後ろから鐺を取られたので、敵の手を振り捥いで、刀を抜くや振り向いて敵の胸部に刺突し真向に切り下ろす、という大技です。
 敵に後ろから鐺を取られ静かに立ち上がる処は、緩い渓谷の流れで、そこから瀧の落ち口を一気に落ちるように敵の手を振り捥ぎ、刀を抜き出し後ろに反転し刺突する処は瀧の落下の如く怒涛の様に突き込んで行く・・留目は滝壺。
*第19代福井春政先生は、河野先生への伝書の根元之巻の後に意味不明な「流名」を書き、続いて「名称」と称して英信流の業名に付けられた歌を書き込まれました。
 業技法には長けている当時の土佐の剣士に何か語り懸けたかったのでしょうか。
 それとも河野先生に歌心も無双直伝英信流にはある程のものなのだから、それも「正しく伝承する様に頼むよと」言っているのでしょうか。
 そう言えば、河野先生は「大日本居合道図譜の第12章先哲の明教」の居合理歌としてこれらの歌も、この伝書を授与される前にご存知だったようです。
 

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