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2016年12月15日 (木)

鶏寒上樹鴨寒下水

 来年の書初めの課題を出しました。
 ニワトリにちなんだ言葉を捜していて見つけ出したのがこの禅語です。
 鶏寒上樹 鴨寒下水
(鶏寒くして樹に上る 鴨寒くして水に下る)
 中国の宋代の智昭によって1188年に編纂された「人天眼目(にんでんがんもく)」にある禅宗五門の要義です。
 
 鳥も、種類によって状況に応じた対処の仕方が異なる事を述べたもので、人もまた同じ様にそれぞれの思いによって、異なる考えで行動をしながら悟りに至るとでも解すればいいのでしょう。もっと日常的な処に置き変えれば、人は夫々なのでしょう。
 何でもかんでも同じ思想を持ち、同じ様に行動をしなければいけないなどと無理強いして、折角夢を持って門を叩いて来た者を潰しているとも知らずに、自分の我を押し付ける事はまま有ります。
 もっとおおらかに、一人一人をよく観て、何を求めにやってきたのか、よく聞いて指導してあげられないものでしょうか。
 かと言って、何の方針もないまま、好き勝手にやってもらうわけにも行かないのも人の世の定めです。
 習いごとに来ていながら、何を得ようとするのか目指すものが無いまま、その日その日が愉快であるのもいいかもしれません。集いの場であったり、ちょっとした居場所という価値もあるでしょう。しかし、それでは何も得られないでしょう。
 初段の審査を受けるために、稽古に励んで居た30代の女性です。「段位相応の力を持てとか、規約に縛られるなどは求めていなかった」と言うのか、メール一つで審査当日ドタキャンしてきました。
 審査を受けるための基本となる所作の一つ一つ、それらは彼女にとって今までに無かったプレッシャーだったのでしょう。
 着付けが不十分なため、袴がずり落ちたり、胸がはだけてしまったりして、下着が丸出しで目のやり場に困ったものでした。
 書道でも、武道でも、やるべき事をやっておかなければ、次の動作が、充分生きてこないものです。
 お遊戯や、棒振り体操、楽しい仲間が居ればいい、とでも思って居たのでしょうか。人それぞれとは言え、理解できても迎合する程に悟り切れないまま頭を抱えてしまいます。
 ある道場の、40代の女性は「段位や競技に興味はないの、伝統と云われる業技法は無理にやらせないで」と言っていました。教え魔の古参も遠のき、それでも見よう見まねで一人で稽古に励んでいたようです。
 先日たまたま一人稽古の際その方にお会いしました。稽古をしながら、業の切れ間にそれと無く拝見していました。
 順番通りに業は出来て居ます、見様見真似であっても5~6年も続けているのですから当然と云えば当然です。
 しかし、全く勝手な、武術には程遠い、棒振りです。習いに徹する時期を持てば、スルスルと、先人が教え示している事が出来て、何故そうするのかも解るのに、無駄な時間が経つばかりです。
 柄握りすら出来て居ない為でしょうか、それとも稽古が過ぎたのでしょうか、柄糸が擦り切れてビニールテープでほぐれを捲いてあります。
 他人にいじられるのを嫌うのか、指導されても出来ない不器用を恥じて思うのか、プライドとも違う様です。
 三カ月ほどの個人教授で見事昇段した女性がいます、毎回の稽古で疑問にぶつかると「何故そうするのですか」と聞いてきます。
 武術ですから、対敵がいる事、その敵に応じる為に心得を実技を見せながら聞いてもらいます。
 坐し方一つもその理合を解きほぐします。納得できれば、即座に其の通りやり始めます。其の日に出来なくとも次の稽古日にはかなり出来ています。そしてぐんぐん腕が上がっていました。
 「この子は何時もそうなの」と、パティシェを目指すために修行しているお店のおかみさんも笑って彼女の調理場に臨む心掛けを聞かせてくれました。
 プロを目指し励む人には、廻りの人も助けてくれるのでしょう。審査当日、彼女が居なければ店は回らないのでしょう、彼女の為に店を休んでくれています。そんなプレッシャーもしっかり受け止めていた女性です。
 高齢者の入門も多くなって、真面目に指導を受けて稽古していても、心身の弱体化は避けられません。高齢初心者が生涯続けられ歳相応に進歩していく仕組みも必要でしょう。若い人と同じような稽古法や昇段基準では嫌気がさして、棒振り体操に甘んじたり心ある人は去って行かれます。
 他の武術やスポーツで鍛えられた人は、古参を直ぐに追い越してしまいます。怠け者のへぼを追い越す仕組みも必要でしょう。
 若いころから励んで来られた方も、年を取れば、衰えは隠せません。「昔はこうだった」は幻です。最も自分に適した道具と術の研鑽が必要でしょう。
 一頃80歳までは進歩すると聞いていましたが、元気で90歳を迎えらえる方も大勢おられます。昔の思い出に浸るのではなく昨日よりは今日、今日よりは明日へと、情けないへぼ踊りでは無い、いぶし銀の様な世界を自ら切り開いていく以外にないのでしょう。
 ある人曰く「長生きも術の内」そうかもしれません。長生きしても使える武術は自分だけのものです。
 興味を持って入会されても、「やってみたが思っていた事と違う」、カルチャーショックを受けている人も多いようです。
 指導者が自分の価値観を押しつければ、想いはお互いに通じ合わないものです。
 メンツばかりで、闇雲に弟子の数を競いあえば、総じてレベル低下は避けられません。一人の師匠が心を尽くして弟子と対せる人数は15名位までが限界でしょう。
 号令一過、大勢の弟子が全員で同じ業を抜きつけても、戦場に送り出す従順な兵士を作る、或はこれから稽古する準備運動になっても大した効果は望めません。
 そんな中でも、師匠の日常の立居振舞や先輩に稽古を付ける姿をよく観て、ひたすら、眼と耳で学ぶ人もいます。やって見て、「是でよいでしょうか」と素直に尋ねる心もある人もあります。
 何十年と他の事をやって来ていても、習う時は全てフリーにして習いに徹する。その上で樹の上でも水の中でも少しも遅くは無い筈です。
 保守的なのか、自分を変える勇気がないのか、昔取った杵柄ばかり主張して、勝手な理論を振り回して居たりするのもいるでしょう。
 習うふりをして、無駄な時間を潰しているのを見ると・・・そのままずっとそうしてそこを居場所として落ちつくのも勝手です・・・或は、其の内へぼでも古参になって、人生唯一の威張れる場所となるでしょう・・・でも誰も・・・それぞれです。
 周囲を見直しませんと伝統文化の継承には、とても厳しい時代になったとも云えると思います。
 古伝の研究は基より、せっせと講習会にも通い良く観・よく聞き・よく読み・よく考えての気付き、そこで得られた多くの知人や知識も、形ばかりを演ずる者には、勝手な事をやって居る不心得者にしか思えないものでしょう。
 昔から、廻国修行に出る者も見られます。師匠はそれを快く送り出したものです。・・・自分の価値観しか認められない狭量では、鶏や鴨にも劣るかも知れません。
 
 この書初めの語句の意味を味わい、文字をじっと眺めていますと、何故か、こみあげて来るものが有ります。
 難しい文字も無いのですから、無心になって、筆を走らせればいいだけなのに・・・思いつくままに。

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コメント

こんばんは
お久しぶりです。
稽古事というのは、自分が習うより人に教えるほうが二倍も三倍も大変だと思います。
その為には技をやって見せて、どんな疑問にも答えられる稽古を、普段からしていなければならないと思います。
どうしてそうするのか?こうではダメなのか?と聞かれた時に、
そう習ったから、そうゆう型だから、そうゆう決まりだから、などと答える稽古はしないようにと思います。
すいません、稽古不足でわかりません、
と答えたほうがまだいいのかなと思います。

ときどき先生と仲の良かった神伝流の先生が
道場に来て教えてくださるときがあります。
こうだからこうだと自分なりの考えをおっしゃられ、刀の振り方、抜きつけ、手の内、納刀など
それではダメだと直されます。
近くに直伝の先生がいないので仕方がないとは思いますが、稽古に行くたびに亡くなった先生の教えと違うことをみんなが一所懸命しているのを見ると、なんだか悲しくなってきます。
何やっているんだろう?それって英信流?
亡くなった先生は、水鴎流や伯耆流、戸山流なども抜かれたので、それぞれ技の使い分けができるようにならなければならないとおっしゃっていましたけど…
難しいです。

ながながと書いてしまいました。
また機会がありましたら、
稽古会のほうよろしくお願いします。

かめさんさま
コメントありがとうございます。
お久しぶりです。
先師亡き後の道場は一本筋が抜けたようになって、抜け殻だけでは悲しいですね。
先だって、違師伝交流稽古会で政岡壱實先生の高知と金沢の孫弟子の方の居合を拝見させていただきました。
初顔合わせにもかかわらず、些細な違いがあっても一本筋が通った同門の居合でした。
40年以上の歳月にもかかわらず、交流も無いのによくぞそこまで同じ教えが保たれたと思うと、心和むものでした。
また、ご一緒しましょう。
        ミツヒラ

投稿: かめさん | 2016年12月22日 (木) 00時54分

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