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2019年5月28日 (火)

曾田本その2を読み解く20スクラップ無雙直傳英信流居合術20の4居合術業書正座之部1前

曾田本その2を読み解く
20、スクラップ無雙直傳英信流居合術
20の4居合術業書
正座之部1、前

 正面に正座し、十分気の充ちたる時、左手を鯉口に取り左指にて鯉口を切り、右の全指を延ばしたる儘柄に掛けて握り、膝を少し中央に寄せる様にし、腰を左にひねりて刀を抜きつゝ両足先を爪立て、膝を伸び切るや右足を前に踏出すと同時に刀を抜き払ひ、(胸の通り横一文字に)更に雙手上段に振り冠りて真向に割付け、左手を柄より離し左の腰(鯉口の少し下帯の處)に軽くあて、刀先を右に円を描く如く頭上に取りて血振すると同時に立上り、左足を右足の位置に踏み揃ふ(此時膝は伸び切らざる事)夫より右足を一歩大きく後方に引きて、刀を納めつゝ右膝を跪くと同時に納め終りて後、立上りて前足に右足を踏み揃へ、直立の姿勢となりて更に左足より一歩退りて座し次の業に移る。

 この業書は、のっけから動作ばかりを順を追って書き込まれています。何のためにその動作をするのか動作から推測する事になります。居合は対敵相手の武術です、「十分気の充ちたる時・・」は何を意味するのでしょう。第18代穂岐山波雄先生が稽古用に考えられた事としてもおかしい。これでは、一方的に相手に抜き付ける事になってしまいます。現代居合でも何の疑問も無く、気の充ちた時とか二呼吸半から作動するなどでは、何時如何なる変にも応じられる訳はないでしょう。今日入門したばかりの新人相手の事としてももう少し考えるべきでしょう。
 人と対して、自分の思いを伝えるには、十分な心構えであるべきものです、武術はコミュニケーションの最後の手段と思います。方便としての「二呼吸半」とか「十分なる気充れば」にまどわされず、「何時如何なる変に応じる」心と体を持ちたいものです。

 このスクラップと同じ文言で昭和8年1933年に「無雙直傳英信流居合術全」は発行されました。第17代大江先生の「剣道手ほどき」の抜き方及び納め方の解説では「丹田に気力充つるとき静かに左手にて刀の鞘鯉口を握り右手は第二関節を折り拇指の股を柄の鍔元に入れ。五指を静かに握り肘を落し右肩を稍斜め前に出す。左手にて鞘を少しく後へ引き、右手を斜前に出し刀を静かに抜く。此時両足の趾先を立て上体を自然とあげ右足を少し前に出しつつ刀尖三寸の鞘に残し、右足を充分前に踏み出し同時に残りし尖先三寸は抜き・・」大江先生の教えは「丹田に気充つるとき・・」です。

 河野先生の昭和13年1938年発行の「無雙直傳英信流居合道」には、更に克明な抜付けの動作が書き加えられます。そして業の意義として「吾が前面に対座せる敵の害意を認むるや機先を制し直ちに其の首に(又は顔面或は抜刀せんとする腕、以下同じ)斬り付け、倒るゝ所を更に上段より斬り込みて勝つの意なり」。敵の害意を認めるや抜き付けるのだそうです。それでは相手の動作に先を取らなければなりません。のんびり二呼吸や二呼吸半などやってられません。丹田に気充ちるのも待って居られません。

 河野先生の昭和18年1943年発行の「大日本居合道図譜」の正座の部一本目前「意義ー正面に対座する敵の害意を察知するや機先を制して其の抜刀せんとする腕より顔面にかけ斬付けんとする。抜き懸けー敵を確かに見定むる心持にて抜きかける。・・初心の間は剣先三寸位迄極めて徐々に抜き出すも幾千の錬磨を重ねて次第にその速度を早やめ、抜きかけの鍔元より剣先に至るに従ひ抜刀の速度を次第に早くするものとす。抜刀の速度と気をこめる心得に古来序・破・急の教へあり。」ここまで来るのに大正7年1918年から昭和18年1943年ですから25年もかかっています。居合の修行を心の修行とするのは良しとしても、それを強調し過ぎるとバランスを失います。

 初心の頃に身に着けた動作は簡単に抜けないものです。相手をよく見て相手の動きに応じて序破急をもって抜き付ける事に依り先を取る事を学ばなければ、ただ形を演じているばかりになってしまいます。
 このところ、稽古法に工夫の必要の有る所で、目的に向っての習い・稽古・工夫の無いものは只の形ばかりでしょう。

 古伝神傳流秘書では大江先生の正座之部は大森流居合之事と言われます。其の前書きは:「此居合と申は大森六郎左衛門之流なり、英信と格段意味相違無き故に話して守政翁是を入候、六郎左衛門は守政先生剣術之師也、真陰流也、上泉伊勢守信綱之古流五本の仕形有と言、或は武蔵守卍石甲二刀至極の伝来守政先生限にて絶。(記 此の五本の仕形の絶へたるは残念也守政先生の伝書見當らず 曽田メモ)」

 曽田本その1の古伝神傳流秘書の居合兵法伝来には、「目録には無雙神傳英信流居合兵法とあり、是は本重信流と言べき筈なれども長谷川氏後の達人なる故之も称して英信流と揚げられたる由也」と有ります。第9代林六太夫守政が江戸から持ち帰った無雙神傳英信流居合兵法には大森流は目録には無い、林六太夫が話したのは、たぶんこの居合の師江戸での第8代荒井勢哲(兵作信定)に話したのだろうと思います。

 大森流居合之事初発刀:「右足を踏み出し向へ抜付け打込み扨血震し立時足を前の右足へ踏み揃へ右足を引て納る也」

 大江先生の言う正座之部前は大森流居合之事略して大森流初発刀でした。古伝の業手附も何のためにこの業動作を行うかの意義とか理合が示されていません。恐らく習う時に口頭で解説されたのでしょう。初発刀の業名称は大森流の初めに発する刀法だと云うのでしょう。正座に座すとは手附に書かれていません。是も口頭で説明されたのでしょう。現代居合の立膝之部や奥居合居業之部は全て右膝を立て左足を寝かせた居合膝です。
 江戸時代に入って江戸城での座し方が正座に統一されて武士にも町人にも普及して来た時代です、その時代に添ったものとして稽古されて来たのでしょう、その名残が大森流は正坐に座すわけです。
 刀法としては「右足を踏出し向へ抜付け打込み」だけしか書かれていません。「向へ」は前、前面に相対する敵を示しています。抜付は刀を鞘から抜き出すや横一線による斬り付けでしょう。何処へ抜き付けるかは書かれていません。林崎甚助重信の居合の極意業は根元之巻から推察すれば相手の拳へ抜き付けるのですが、初心のうちは肩とか首、こめかみと指導されたかもしれません。そして上段に振り冠って真向に打込む。
 真陰流の抜刀ならば、鞘を倒さず腰に差した状況から、刃を上にしたまま一気に切先を抜き出し、その瞬間目標に切先を向かわせて行きます、目標は敵の柄手でしょう。打込はとどめでしょうから、上段から真向に打ち下すのですが、左面又は右面もあり得ます。
 古伝神傳流秘書の業手附はやるべき事だけしか書かれていませんが、ポイントは外して居ませんから動作を追えば意義が見えてきます。そして武術ですから一つの形から幾つもの動作を思い描くことができます。

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