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2019年9月13日 (金)

曽田本その2を読み解く33スクラップ日本刀談義居合で勝負する

曽田本その2を読み解く
33、スクラップ日本刀談義 居合で勝負する
大連日々新聞昭和18年1月22日掲載
満州刀剣会監事 永淵清次

 世或は居合を以て徒に長い刀を一瞬に抜くものと考へるが如きは思はざるも亦甚だしいものであります。居合は即ち剣道でありまして両者の間に稽古の形式で使用する道具が異っている為これを区別する便宜上片方は剣道、片方は居合と言って居る次第であります。
 剣道は剣道具を用ひ相手に向って竹刀で激突を行ひますが、居合は道具を附けず相手も無く自分で攻防の法を研究するものであります、居合とは現在の姿即ち人が坐って居る、立って居る、歩いて居る、寝て居る等を指したもので合とは合はす、応ずる、即ち電光石火臨機応変直に事を処する意味であります。
 要するに人間居るその儘で如何なる場合にも変に応じ勝を一瞬の裡に制するやう千磨必死の意気込み以て心身技術の修養鍛錬を行ふ道であります。又試合より居合と剣道の異なる点を見れば居合は剣道勝負の始まる前の試合法であり、剣道は居合で勝負のつかない後の試合法とも言へます。真剣の場合は居合と今の剣道とを合せて完全な試合法と言えます。で勝負を争ふ際鞘から刀を敵より一寸でも早く抜き得れば一寸の勝を生じます。居合を鞘の内と呼びますのはこの意味であります。又刀が鞘を放れると同時に勝負がついて了ふ事も指して居ります。居合の応用に就ては支那事変で面白い例があります。准尉居合錬士の方の話であります。
 最初の戦闘で白兵戦になって日本刀を抜いて向ふと支那兵は非常に日本刀を恐れて逃げ廻り中々うまく斬る事ができませぬので居合の応用を考へました。次の戦からは刀は鞘に納めて突撃します敵は逃げぬのみか却って攻撃に出て来たので近附きながら抜打に敵の右の腕又は股に切りつけ、怯む所を体当たりで倒して致命傷を負はしたのであります。この方法で六十六人切って而も刃こぼれ一つ出来なかったといふことであります。
 然し刀を抜いて人を斬るのみが居合の全部だと思ふのは非常な誤りでありまして抜かない事が大切であります。人に交わるに愛敬虔温和を第一として何事も先づ人を立てゝ自分を後に苟くも大儀名分の明かなる時のほかは刀の柄に手をかけぬ、抜かざるに敵を制する精神が居合の本旨とされている事は申す迄もありません。
 日本刀は日本人と離るゝ事の出来ないものでありまして日本人にして三尺の秋水を見ますと厳粛な感に打たれると共に非常になつかしい感じが湧いて参ります。決してこれを以て人を害しようと言ふ感じは怒らないのが普通であります。却ってその刀剣から祖先の武勲を偲び又日本歴史を思ひうかべ軈ては(やがては)建国の精神迄会得する事が出来るのであります。居合はその尊厳なる刀の正確有効なる用法を講ずるものでありますから之に依って始めて人と刀の一致を見る事が出来るのであります。人剣一致の妙境に達しまして居合は剣に依り剣は居合に依り益々その徳が現れて参るのであります。
 居合修行に大切なる刀の條仲を簡単に申述べますと身長五尺三四寸の人なれば刃渡り二尺三四寸迄が適当であり重さは軽くなく重くない手頃のものを選びます。刃は最初から研ぎ出した刀を用ひなるべく刃引は避け度いものです。但し年の者初歩の稽古、一斉指導の場合書物に依る独習は手加減を要します。次に柄は居合巻といふ平巻きに作りますが普通の太刀巻きで結構であります。初心の時は鯉口を損ぜぬ様金具を嵌めるのも一つの方法であります。鍔は稍々小さい方が無難です。修行上の詳細なる点は与へられた紙数では之を露す事が出来ないので割愛致します。
 近代戦は新兵器の戦ひであり科学の戦でありまして居合の如きは迂遠千萬のものゝやうに思はれる方もありませうが、平素居合におうて鍛錬した精神体力こそは実に近代戦においても沈着果敢冷静水の如く勇猛烈火の如き活躍をなす根幹なすものであります。勝敗の決は依然として日本刀銃剣を以てする白兵戦が握っている事を考へれば思い半に過ぎるものがありませう。

 このスクラップは満州刀剣会監事の永淵清次という人が大連日々新聞に書いたものを、曽田先生は斬り抜いて曽田本その2に張り付けたのでしょう。
 昭和18年には既にニューギニアのブナで日本軍全滅、連合艦隊司令長官山本五十六ソロモン上空で戦死、アッツ島全滅、前年の末にはガダルカナル島撤退が始まっています。決してこの様な日本刀による白兵戦などの世界とは思えません。意味不明の日本刀による精神の昂揚を説いて見ても、何の感動も起こらない、寧ろ嫌悪感の方が先に立ちます。近代兵器の前に多くの同胞を失い、守るべき妻や子まで巻き込まれて死んでいった、私にとっては父母の時代です。その一つにこの様な精神論があって他国から見れば無差別殺戮止む無しであったかもしれません。

 相変わらず真剣を以て居合の稽古をするのと模擬刀に依るのとは違うなどとおかしなことを言って居る人も居ます。材質が違えば感じが違うのは当たり前ですが、そんな事に拘っていては木刀や棒や竹刀など意味のないものになってしまい高い日本刀での居合以外に稽古する事もおかしなことになってしまいます。
 そんな人に限って、高段位になっても指から血を流している、初心の頃に形ばかり指導され、嘘の精神論を信じているへぼ居合人です。本物の修行の行きつく先は無刀であり、進んで神妙剣であるものです。

 スクラップはここまでで終わります、次回から再び曽田先生の直筆のメモになります。
 

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