女剣士

2017年3月20日 (月)

あれこれ(鶏寒上樹鴨寒下水より)

 畠の隅に植えておいた佐藤錦とナポレオンが春の日差しを浴びて満開になりました。今年もサクランボの食べごろに小鳥たちと競争で収穫するのが思い出されワクワクしてきます。
 家庭ゴミ集積所の脇に樹齢五十年は超える染井吉野の蕾も膨らんであと数日で咲き出すでしょう。ごみ袋を抱えながらご近所の方達と上を見上げて顔を見合せ微笑んでいます。
 
 昨年暮れ、今年は酉年なのでそれにふさわしい言葉から「鶏寒上樹鴨寒下水」を書初めの言葉としました。
 悟りは、人それぞれでしょう。
 何とも、かわいい女剣士に出会って、苦笑いしています。
 
 初段の審査を受けるために、稽古に励んでいた30代の女性です。「段位相応の力を持てとか、規約に縛られるなどは求めていなかった」と言うのか、審査当日メール一つでドタキャンしてきました。
 審査を受けるための基本となる所作の一つ一つ、それらは彼女にとって今までに無かったプレッシャーだったのでしょう。
 着付けが不十分なため、袴がずり落ちたり、胸がはだけてしまったりして、下着が丸出しで目のやり場に困ったものでした。
 書道でも、武道でも、やるべき事をやっておかなければ、次の動作が、充分生きてこないものです。
 お遊戯や、棒振り体操、楽しい仲間がいればいいとでも思っていたのでしょうか。人それぞれとは言え、理解できても迎合する程に悟り切れないまま頭を抱えてしまいます。
 ある道場の、40代の女性は「段位や競技に興味はないの、伝統と云われる業技法は無理にやらせないで」と言っていました。教え魔の古参も遠のき、それでも見よう見まねで一人で稽古に励んでいたようです。
 先日たまたま一人稽古の際その方にお会いしました。稽古をしながら、業の切れ間にそれと無く拝見していました。
 順番通りに業は出来ています、見様見真似であっても5~6年も続けているのですから当然と云えば当然です。
 しかし、全く勝手な、武術には程遠い、棒振りです。習いに徹する時期を持てば、スルスルと、先人が教え示している事が出来て、何故そうするのかも解るのに、無駄な時間が経つばかりです。
 柄握りすら出来ていない為でしょうか、それとも稽古が過ぎたのでしょうか、柄糸が擦り切れてビニールテープでほぐれを捲いてあります。
 他人にいじられるのを嫌うのか、指導されても出来ない不器用を恥じて思うのか、プライドとも違う様です。
 三カ月ほどの個人教授で見事昇段した女性がいます。
 毎回の稽古で疑問にぶつかると「何故そうするのですか」と聞いてきます。武術ですから対敵がいる事、その敵に応じる為の心得を実技を見せながら聞いてもらいます。
 坐し方一つもその理合を解きほぐします。
 納得できれば、即座に其の通りやり始めます。其の日に出来なくとも次の稽古日にはかなり出来ています。そしてぐんぐん腕が上がっていました。
 「この子は何時もそうなの」と、パティシェを目指すために修行しているお店のおかみさんも笑って彼女の調理場に臨む心掛けを聞かせてくれました。プロを目指し励む人には、廻りの人も助けてくれるのでしょう。
 審査当日、彼女がいなければ店は回らないのでしょう、彼女の為に店を休んでくれています。そんなプレッシャーもしっかり受け止めていた女性です。
 彼女はめでたく長年付き合ってきたイタリア料理を目指す愛する人と結ばれてお店を出すために彼の故郷へ旅立って行かれました。
*
 競技会では、優勝をするアスリート女剣士が素晴らしい演武をして楽しませてくれます。その陰にこんな女剣士も居るのもまたよしでしょう。
 
 この、女剣士は先に掲載した書初めの「鶏寒くして木に上り 鴨寒くして水に下る」の女剣士を抜書してこのカテゴリーに掲載しておきました。
 

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2015年12月18日 (金)

復帰

 何時もの様に、扉を押して道場に入ると、先客が帰り支度をしていますので「お帰りですか、使わせてもらいます」と一声かけます。軽く会釈して顏を上げますと奥から走り寄って来る女性がいます。
 
 もう二年以上もお会いして居なかった太極拳をされる方が、満面に笑みを浮かべて懐かしそうに手を差し伸べて来られます。思わずその手を握ってしまいました。
 「お元気だったのですね、心配していました」
彼女とはもう何年になるのでしょう、個人稽古に出かけると良く二人きりで広い道場でそれぞれ鏡に向かっていました。
 中休みの時には、足の運びや体の動かし方など、太極拳の裁きを丁寧に教えていただいていたのです。
 
 少し肉が落ちて、お顔もちょっと張りが亡くなった様です、懐かしそうに微笑む顔には人懐っこいえくぼが昔のままでした。
「実は病気をして二年間何も出来ず引きこもっていました、ようやく癒えて稽古を始めました。
その間に仕事も止めてしまいました。もう昔の様に出来ないかもしれませんが体力を取り戻して今度昇段試験を受けて見ようと思います。」
 話しによると、頑張り屋さんでしたから、稽古も仕事も一生懸命だったのでしょう。疲れが溜まって足裏の筋肉に炎症を起こして歩行困難になり、何も出来なくなったそうです。
 この方は、勇気の有る方で、人相の悪い空手の人が数人で大声で稽古して居ますと、「静かにして」と文句を言いに云ったことなど思い出されます。
 この道場に通って何年にもなるのですが、もう何人かが見られなくなってしまいました。稽古中に倒れてしまって、それきりの御老人。
 最後の挑戦と、昇段を目指して毎日来られていたご婦人は、審査に落ちてやめてしまった。
 御主人の転勤で、移って行かれた若いご婦人、この方は相当の使い手でした。
  自転車で転び複雑骨折をされて、間々ならぬ体で弟子を育て上げ道場を任された先生も居られました。この先生からも多くの秘伝の書き付けを弟子でも無い私は頂戴したものです。
 「この世界は、余計な事を言ったり、書いたりすれば頭を叩かれ足を引っ張られるよ」と逢う度に諭されたものです。そのお弟子さんと今では剣を交える事もしばしばです。
 又別に、早抜きがやりたいと言っておねだりする私に、80歳を過ぎて若い時からの修行がたたって足腰を痛められたある先生は、2度も繰り返して見せてくださいました。
 あの人も、この人もお会いする度にいつも、私に稽古場所を譲ってくださいました。
 返り咲いたこのご婦人も、私の為に早速ご自分の場所を提供して呉れて、「さあどうぞ」と仰います。「是からは、健康の為にお稽古をしに来ます。」と仰っています。
 
 先日50年のキャリアの有る方が、「腰が痛くてこれ以上続けられない、私の居合をやめます」と言って去って行かれました。「私の居合をやめます」の「私の居合」とは何だったのかとお聞きしたい気持ちで一杯です。
 きっと、元気な時の、ご自分の演武に酔っておられた頃の「幻を追って」その様に出来ない自分に結論を出されたのでしょう。
 誰にでも訪れる、老いによる衰え、不慮の事故、ご家族の事、仕事の事、環境の変化いろいろあるでしょう。
 然し50年何を大事にされてきたのでしょう・・・ある先生は90歳を過ぎた母親から「お前は何時まで棒振りしとる」と叱られたと頭をかいて居ました。何度も入院しながら今でも、後進の指導や海外の剣士のお世話などされておられます。その方の、ゆっくり丁寧な居合には、幾つかの手術で斬り刻まれ、骨にはボルトを通し、生死の境を乗り越えて、道場の隅で抜いて居られた姿が眼に焼き付いています。
 
 50年も「棒を振って居ただけ」なら止めてしまっても別におかしな事ではないでしょう。それとも「私の居合」はやめて、是からは「本来の居合」を求め続けられるのでしょうか・・・・そうでなければ今日までは健康維持の為、それとも師匠の「幻に追われて」の棒振りだったかも知れません。
 何糞とばかりに、我が眼前に現れる日を待って居ます。居合は棒振りでは無い・・まして人殺しの稽古などでは決してない。
 
 
 
 
 
 
 
 

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2014年3月24日 (月)

春を求めて(旅立ち)

今日一人の女剣士が旅立って行きました。

この春大学を卒業して、専攻の学問をもっと深く学びたいと北への旅立ちです。
春は別れと出会いの季節だったと、久しぶりに思い出しました。

「居合は?」
「続けたい、向うに稽古する処を探します。今の私には居合は心のより所です」

居合をこよなく愛する女剣士がここにも居ました。
是から、いろんな出会いがあって、磨き上げられて行くのでしょう。

お別れの演武をお願いして拝見します。
少しも臆する振りもせず、いたずらに気を入れる事もなく、静かに抜く居合にしばし見とれていました。

きっと、新しい所への膨らんでいく夢の数々、毎週通った道場の事々が一振り一振りに思い出されているのかも知れません。

こんな格言を思い出しています「思いの種を蒔き、行動を刈り取る、行動の種を蒔き、習慣を刈り取る、習慣の種を蒔き、人格を刈り取る、人格の種を蒔き、運命を刈り取る」

居合は如何に劇しい業務にある人でも容易に出来るので練習時間はと云えば僅かに五分間の短時間に心身綿の如く疲れ、加之其短時間の運動は身体を最も均斉的に発達せしむるのであります。又白刃を振るときは自ら強烈なる男性的の気力も練れ、其上に相手いらずで、場所は座敷で整備の如きはなんにもいらない実に経済的であります。(大江・堀田共著剣道手ほどきより)

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2011年7月13日 (水)

女剣士2

前に、書道でも武道でも本当に好きならば、人間関係でスピンアウトするのは変だと書きました。

素晴らしい剣捌きでその技の切れは見るものを魅了します。

その技への探求心は、なまじの先輩剣士ではたじたじです。理屈よりも身体で覚えるタイプの先輩は腹を立てて遠のいてしまいます。

そして、自分の世界に篭っていつの間にか一人ぼっちの自分になっています。

道を求めると言う事は、そういうものかもしれません。

中途半端に稽古してこなかったために蒔いた種が芽を吹き出し、覆いかぶさって来ているのでしょう。

稽古を遠ざかってみても、先輩をこき下ろしても、じれてみても解決しないでしょう。

更に烈しく厳しい稽古に打ち込むしか無いでしょう。それは孤独です。

「武道」を志すと思った自分は錯覚で、「上手いですね、凄いですね」と、おだてられる事が嬉しかった甘えん坊な「女の子」に過ぎなかったのでしょうか。

この時代、流派の掟を継承しその真諦に触れることは「かっこいいやってみたい」の願望では難しそうです。

家族の愛に見守られながら、生涯を習い・稽古・工夫の終わり無き道を歩む、求道の女性の剣士は夢でしょうか。

「入無窮之門宥遊無極之野」無窮の門に入りて以って無極の野に遊ぶ(荘子外篇)

2,009年11月9日に書き込んだものです、残念ながらこの女剣士は退会してしまいました。

点取り虫の居合に片寄った為に自滅したと思います。

何処かで再び剣を握って現れる事を願っています。

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