英信流目録15-8

2015年10月 3日 (土)

英信流目録 3.大森流居合之位11抜打

英信流目録

3.大森流居合之位

11.抜打(原本に記載なきも之にて十一本となる□筆之置く 曽田メモ)

以上11本也

*実はこの英信流目録には、この十一本目は書き込まれていないのです。業の頭に本数を入れてありますが、原本は無印なのです。便宜上Noを打ったのですが、順番は現在の大森流、無双直伝英信流正座の部の順番の通りです。
虎乱刀の跡に「以上十一本也」と記入されています。十五代の谷村亀之丞自雄の書写の際に欠落したのか、原本が欠落していたかはわかりません。

ここでは、古伝神傳流秘書大森流居合之事抜打を記入しておきます。

抜打
坐して居る所を向より切て懸るを其のまま踏ん伸んで請流し打込み開いて納る尤も請流しに非ず此の所筆に及ばず

英信流目録は原本が第十二代林 政誠によって安永5年(1776年)に書かれたものですから、山川久蔵幸雅が書き写した神傳流秘書(文政2年1819年)より古いものです。
居合は大森流しか存在しないので、抜打どころか大変な欠落です。残念ですが大森流「抜打」は神傳流秘書による以外に見当たりません。

古伝の抜打の業手附は簡潔でまさに居合と言った雰囲気の名文でしょう。
抜打を演ずる時「切て懸るを其のまま踏ん伸んで請け流し打ち込み開く」が頭をよぎって行きます。

第17代大江正路先生の抜打(大正7年1918年発行の大江・堀田共著剣道手ほどきより)
「正面に座す、対座にて前の敵を斬る心組にて其正座の儘刀を前より頭上に抜き、上段に冠り、身体を前に少しく出し、前面の頭上を斬る。血拭ひは中腰の同体にて刀を納む」

*古伝の抜打の心持ちは薄れ、一方的に抜き打つ業に思えてしまいます。動作を克明に解説したのは河野先生でしょう。

第20代河野百錬先生の抜打(昭和8年1933年発行無双直伝英信流居合術全より)
「正面に向ひて正座し、左手を鯉口にとり拇指にて鯉口を切り、右手を柄にかけつゝ両膝と其爪先にて膝を伸ばし、右斜前に刀を引き抜き左肩に刀先を突込む様に双手上段に振冠りて切り込み、刀を右に開くと同時に左手は左腰に取り後鯉口を握り刀を納めつゝ臀部を踵の上におろして納め終る」

夢想神傳流檀崎先生の抜打
「彼我接近して対座するとき、敵を速急正面より斬付けて勝。刀に両手をかけ、同時に両足を爪立てて刀を右斜前に水平に抜き、剣先が鯉口を放れると同時に、後方の敵を突き刺すように振り冠り、両膝を揃え「トン」と床を打つ。この時上体は,真直に膝の真上にある。次に斬下すと同時に両膝を横に開き「トン」と床を打ち血振り・・」

*お陰様で、容易に抜打を演じられるようになりました、然し古伝の「此の所筆に及ばず」は置き去りになって居る様に思います。
そして、「飛び打ち」にしたり、「音打ち」にしたり、果ては「闇打」であったり「抜刀打ち」にしたり、愉快です。
「坐して居る所を向より切て懸るを其のまま踏ん伸ん請流し打込み」は何処にいったのでしょう。
当代の解説では「正面に対座せる対敵の害意を認めるや・・・もし敵斬り込み来たりてもその刀を受け流す気にて行う」と「もし」がありますが其の心は戻りつつあるように思います。

奥書を入れて置きます。

林 政誠

 干時安永五年  冬十月吉日改之

 嘉永五年癸子六月吉祥日

 谷村亀之丞自雄 自花押

この曽田先生の書写したものを昭和23年1948年六月に大阪の河野稔氏へ伝授したりとあります。第二十代河野百錬宗家を指していると思われます。

この英信流目録には坂橋流の棒が恐らくすべて残されていたのかもしれません。棒太刀合之位・棒合5つ・心持之事・極意之大事の4編になっていました。

さらに、何処にも見られない小太刀之位が残っていました。之は曽田本以外に見ることがありませんでした。

土佐のどこかにこの第十二代林 政誠の原本が存在することを夢見ています。

四国に在住の無双直伝英信流・夢想神傳流を学ばれる方によって捜し出していただければと勝手に思っています。

英信流目録を終わります。

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2015年10月 2日 (金)

英信流目録 3.大森流居合之位10虎乱刀

英信流目録

3.大森流居合之位

10、虎乱刀

是は立てスカスカと幾足も行て右の足にて一文字に抜付(払ふてもよし)かむる時左の足一足ふみ込右の足にて打込む血ぶるひの時左を右の足に揃納る時右の足を引納其時すねはつかぬ也

*是は立ってスカスカと幾足も歩み行き間に至れば右の足を踏込み一文字に抜付ける(抜き払っても良い)、振り冠る時左足を一足踏込み、右足を踏み込んで打ち込む。
血振いの時、左足を右足に引き付けて揃え、納刀の際は右足を引いて納める、其の時右足の脛(膝)を床に着かないで立ったままでする。

英信流目録は第15代谷村亀之丞自雄の書き写した直筆の伝書です。この虎乱刀は大江先生の場合は正座の部「追風」の業です。バタバタ追い懸けずスカスカ歩み行く処が本来の業だったのでしょう。

古伝神傳流秘書の大森流居合之事虎乱刀を読み直します。
「是は立事也幾足も走り行く内に右足にて打込み血振し納る也但し膝を付けず」

*神傳流秘書では「幾足も走り行く」であって歩み行くではありません。
それに抜き打ちの一刀で制して居ます。
現在は、混線して、走り行き抜き付け、打ち込むになったのでしょう。

英信流居合目録秘訣の上意之大事に虎走の心得があります。
是は討ち果たせと言う上意などで行く時、敵が二間も三間も離れて坐している時は直ぐに切る事は出来ないし、同座した人達が邪魔に入る事も考え、色に出さず腰を屈めつかつかと行き抜き口が外へ見えないように体の内で逆さまに抜いて抜きつけるのだと教えています。足運びが大事だと云います。
追いかけてバタバタ足音を立てるなど、いつの頃にやりだしたのでしょう。中には逃げる敵を追い懸け間に至れば、足音をバタバタ強くして
振り向かせてから抜き打つなどの教えもある様で愉快です。

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2015年10月 1日 (木)

英信流目録 3.大森流居合之位9勢中刀

英信流目録

3.大森流居合之位

 9、勢中刀

是も坐して居也少し右向の方より敵立て来る心持也我其時右の足より立ち一文字に払う也其儘かむり討ち込む也跡は血ぶるひをし左の足を右の足に揃納る時右の足一足引納る時すねをつかぬ也

*是も我は正面向きに座して居る、少し右の方から敵は立って上段に振り冠って来る心持ちなり。
其の時我は腰を上げ右足を敵の方に向けて立ち、一文字に抜き払う。
其の儘振り冠って敵の真向に討ち込む。
跡は血ぶるいをし、左足を右足に踏み揃え、納刀の際右足を一足引いて納刀する。納刀の時脛を床に着かない事。

一文字に抜き払って、其の儘上段に振り冠っています。左足右足と踏み込む様には書かれていません。右足を踏み出して一文字に敵刀を払いその足のまま振り冠って打ち込んでいます。
敵が後ろに退くならば左足右足と追い込んで仕留めるのでしょう。
古伝は一文字に切り払えといって居ます。

これも、古伝神傳流秘書大森流之事九本目勢中刀では「右の向より切て懸るを踏出し立って抜付打込血震し納る此事は膝を付けず又抜付に払捨て打込事も有」
英信流目録とも同じですが、「右の向こうより」ですから、右向きに坐し、正面から切って懸られたのに応じるのです。

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2015年9月30日 (水)

英信流目録 3.大森流居合之位8逆刀

英信流目録

3.大森流居合之位

 8、逆刀

是は坐して居りすっと立其の儘引抜向へ拝み討に打ち続けて二つ打つ其の時両足を前へ揃え太刀を亦冠り其の時右の足を跡へ引すねをつき亦太刀を前へそろりとおろし柄を逆手にとり左の手にて刀のむねをおさえ太刀の刃を上へ向て手前へ少しそろりと引納る也初発刀より此迄は納にすねをつく也

*逆刀、無双直伝英信流居合正座の部八本目附込でしょう。
この業手附からどの様に仮想的を想定するかによって動作は変わるでしょう。習い稽古した附込はこの古伝では少し忘れて見るのもいいでしょう。

これは座して居る処、敵の害意を察して、我は機先を制して右足を踏み立て、すっと立つなりに刀を上に引き抜き、振り冠るや左足を踏み込んで敵に拝み打ちに打ち込み、敵制せられ退く処、右足を踏み込み二刀目と続けて打ち込み右足に左足を揃える。
右足を引いて同時に上段に振り冠る。
右足脛を着き太刀を上段から「そろり」と下ろし正眼となる。
柄を右手で逆手に取り、刀の棟を押さえ太刀の刃を上に向けて、左手の上を滑らす様に柄を手前に「そろり」と引き、逆手で納刀する。
初発刀よりここまでは納刀の時脛を着く也。

古伝の逆刀による動作は想定がありませんから、演じる者が自ら想定すれば良いのですが、やはり習い覚えた剣理・意義の呪縛は付いて廻り、動作もそれにひきづられます。
足捌きも、追い足・継ぐ足・歩み足どれでも相手との間しだいでしょう。
残心での動作は充分に敵を制して居るとして「そろり」という、静かに、ゆっくりとした動作を要求しています。
素早い動作により充分敵を制する事で、その後は「そろり」。
二刀で充分敵を両断しているので、この打ち下ろしのフィニッシュも両足を揃えた結び立ちです。
最近は追い足捌きで二刀目を打ち込んでいますから「そろり」と残心をせずに、倒した敵に目付け鋭く「まだ来るか」とばかりに威嚇する上段振り冠りの動作がほとんどです。

なお、初動は敵の機先を制するとしましたが、伝承されるように打ち込まれ摺り落とし打ち込む、も充分ありでしょう。神傳流秘書ではその様です。

古伝神傳流秘書大森流之事八本目「逆刀」
「向より切て懸るを先々に廻り抜打に切右足を進んで亦打込み足踏揃へ又右足を後へ引冠逆手に取返し前を突逆手に納る也」

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2015年9月29日 (火)

英信流目録 3.大森流居合之位7順刀

英信流目録

3.大森流居合之位

7、順刀

是は坐したる前のものを切る心持ちなり我其儘右より立すっと引抜かたより筋違に切也是も同じく跡はすねへ置き逆手にとり納る也

*大森流の七本目ですから、是は無双直伝英信流の正座の部「介錯」だろうと思います。

是は坐している前のものを切る心持ちなり、我は座したるまま、右足を踏み出して立ち上がり、スッと刀を引き抜く、肩より筋違いに切る(斜めに切る、八相に切る、真向ではなく刃筋を斜めに切る)。
是も同じく(流刀・受流の様に)刀を脛に置き逆手に取り納刀する。

古伝の神伝流秘書を読み直してみましょう。
順刀:右足を立左足を引と一処に立抜打也又は八相に切跡は前に同じ

*是は、何を目的に想定した動作か解かりません、伝承された口伝口授が現在の介錯なのかと動作から推察するばかりです。
 英信流目録には「是は坐したる前のものを切る心持ちなり」と場づくりがされて居ます。

  発想を変えて、この手附に随って介錯では無く前面の敵の害意を察し、刀に手を掛け右足を踏み出し、刀を抜き上げつつ左足を引くや立つと同時に抜打ちに前敵に切り下ろす。又は刀を抜き上げ左足を引くや八双に切る。跡は同じ。

  やっているうちに、この業はやはり介錯かも知れない、と思い始めています。
  介錯される者が心の準備が出来たと察知するや、スッと立つと同時に打ち込む様な気がしています。そう教えられ刷り込まれたものは簡単には抜けないものです。

 

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2015年9月28日 (月)

英信流目録 3.大森流居合之位6流刀

英信流目録

3.大森流居合之位

 6、流刀(又流討共いふ 曽田メモ)

是は坐したる所へ左横脇より敵討かゝり来る也其時我は左の足を立少々前へふみ出し横に請流す心持にて其儘右の足をふみ出し筋違に切り跡はすねへ置き柄を逆手に取直し納むる也

*是は座している所へ敵が「左横脇」より討ち掛かって来る、左横脇とは何処からだか「左の横の脇」理解出来ません。左も横も脇も皆我が体の左からになってしまいます。まあ「そっちの方から」敵が討ち掛かり来るでどうでしょう。

其の時我は左足を「左の足を立□(少)々前へ」ここも不明な文字に何処へ左足を出したらよいか判らない所です。河野先生は無双直伝英信流居合兵法叢書では「左の足を立少々前へふみ出し」と読んでいます。

坐している前(正面)に左足を踏み出し、「横に」は左に請け流す心持にて(刀を頭上にかざし)そのまま右足を踏み出し(受け流されて体を崩す)敵に向き直り、「筋違いに」は真向打ち下ろしではなく、右から左下へ斜めに敵の(首あるいは肩)を斬る。
跡は刀を(右)脛へ置き、柄を逆手に取り直し納刀する。

これは正面向きで座し居る時、左脇から斬り込まれています、左脇に座す敵が抜き打ちに上段から斬り込んで来る。
それを左足を正面に踏み立てるや、刀を抜き上げ左肩を覆って受け流し、受け流されて体を崩した敵の方に向き直りつつ中腰になり右足を左前に踏み込み(斜め後ろに左足を引いて)八相から斜めに敵の首へ切り下ろす。跡は同じ・・。

立ち上がらずに受け流してみました。この場合は刀を上に抜き上げ鞘を下に引いて頭上と左肩を囲うようにして一気に受け流す、むしろ摺り落すでしょう。
この手の請け流しは、他流にもあるようです。

座す方向と敵が立って切りかかる事、足捌きを真似れば全剣連の三本目受け流しです。

古伝神傳流秘書の大森流之事六本目流刀(流討共言 曽田メモ)
左の肩より切て懸るを踏出し抜付左足を踏込抜請に請流し右足を左の方へ踏込み打込む也扨刀をすねへ取り逆手に取り直し納る膝をつく

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2015年9月27日 (日)

英信流目録 3.大森流居合之位5陽進刀

英信流目録

3.大森流居合之位

5、陽進刀

是は正面に坐する也右の足一足ふみ出し立なりに抜付左をふみ込み討込む也すぐに右脇へ開き其儘納む也
陰退刀其儘左の足を跡へ引其時亦抜付打込み血ふるひの時立左の足を右に揃へ納る時右を一足引也

*是は正面向きに座している。右足を一足踏み出し、立つなりに抜き付け、左足を踏み込んで真向に打ち下ろす。
すぐに右脇に刀を開き、その体制のまま刀を納める。
陰退刀其のまま、左足を後ろへ引き、抜き付けて振り冠って真向に打ち下ろす。大血ぶるいの時立つ時、左足を右足に踏み揃え、納刀の時右足を一足引いて納める。

ここでは、「立つなりに抜き付け」です。
正座の前の様に、右足を踏み込んでいますが、立ち上がって抜き付けるのでしょう。
現代居合の正座の「八重垣」では右足を踏み込み抜き付け、立ち上がりつつ、振り冠って左足を踏み込んで真向に打ち下ろします。
すぐに右に刀を開き、其の体制の儘納刀。充分手ごたえあっての納刀でしょう。

「陰退刀」其の儘ですから、陰退刀の解説がなくて解かりませんが、現代居合に面影があるとすれば下がりつつ抜きつけることで、左足を後ろへ引いて再び抜き付け切り下ろす。この2度目の抜き付けは新たな敵とも、先に切り倒した敵とも何の状況説明もありません。

古伝神傳流秘書の大森流之事「陽進陰退」
「初め右足を踏出し抜付け左を踏込んで打込み開き納又左を引て抜付跡初本に同じ」

*神傳流秘書では「右足を踏出し抜付け」であって英信流目録は「右の足一足ふみ出し立なりに抜付」とは異なります。
現代居合も、右足を踏み込み立ち上がって抜きつけてはいません。
右足を踏み込み立ち上がって抜きつける稽古をしてみるのですが「正面に坐する也」ですから、相手も立ち上がって切り込まんとする想定です。

大江先生の正座の部八垣は最初に切り倒した敵が、力を振り絞って右足に切り付けてくるので、右脛を囲って敵刀を払い留め、振り冠って打ち下ろして仕留めています。
夢想神伝流では新たな敵が切り込んで来るので、間を外して抜き打ちに斬り付け、振り冠って打ち下ろしています。

細川義昌先生系統と思われる白石元一先生の「陰陽進退」では、「前方の敵を斬りたる後敵再び足に斬り付け来るを応じて防ぎ続いて斬り倒す意」と云って、「敵再び我が足に斬り付け来るを左足を引きつゝ刀を抜きて(刀の鎬にて)受留め防ぎたる後、左足を右足踝の所に引きよせてつくと同時に、左方より刀を上段に振り冠り、右足を出して真向に斬り付ける」

*夢想神伝流が古伝に忠実で、細川系を無視し、大江先生の無双直伝英信流が細川系なのは面白いものです。

此の英信流目録は安永5年1776年に第12代林益之丞政誠が書きあらわしたもので、それを後の谷村派の谷村樵夫自庸が嘉永5年1852年に書き写されたものです。
ですからこの伝書は谷村派系統のもので現在の大森流(正座の部)の五本目八重垣はこの
動作であるはずです。

立ち上がって抜き打ちする、座ったままで抜き打ちする。、いずれも行われていたのでしょう。
二人目の敵に横一線に斬り付けるなのか、気力を振り絞った一人目の敵に脛囲いで応ずるなのか、自由に想定をして稽古してみます。
現代居合では、見られない、右足を踏み出し立つなりに抜き付けて見ますが、慣れれば至極普通の事です。

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2015年9月26日 (土)

英信流目録 3.大森流居合之位4當刀

英信流目録

3.大森流居合之位

 4、當刀

是は後に向て坐する也正面へ左より廻り左の足を出し抜付すぐに打込み血ぶるひの時立右の足を左に揃納る時左を一足引納る也

*この業手附では何がなんだか解からないものです。
「當刀」は、大江先生の業名改変による「正座の部四本目後」でしょう。
業名の「當刀」の刀を當(あたる、あてる、ぴたりとあてる、まともに対抗する)。
後ろの敵に刀をぴたりと抜き打つ、という意味になるのでしょう。

是は後ろに向いて座する、正面に対して後ろ向きと言うのでしょう。そして敵に背中を見せた後ろ向きでしょう。
左廻りに廻って左足を踏み出し抜き付ける。
すぐに上段に振り冠って打ち込む。
後ろに居る敵に振り向きざま抜き打ちに斬り付け、上段に振り冠って斬り下ろす。
立ち上がるとあるので大血ぶるいでしょう。
血ぶるいで立ち上がる時右足を左足に踏み揃えて立つ。
納刀の際は踏み出した左足を引いて納刀する。

是では、後ろの敵を抜き打ちに斬って、真向に打ち込んで血ぶりして納刀する、と言っているだけで稽古になりません。
修行を積んで根元之巻を師匠より伝授される時、目録に覚書程度の業手附を付けて与えたとしかいい様はありません。
どのように後ろに振り向くのかは、口伝口授、師の技を真似る事だったのでしょう。

「當刀(大江先生の後)」は180度の回転技です。廻ることは出来ても、左足を踏み込んで敵に抜き付けるのは容易ではありません。敵の居ない所を切っていたり、左足を踏み込めずに力ない抜き付けであったりします。

ここでは池田先生の正座の部後を稽古してみましょう
剣理:我れ正面に対し後ろ向きに座し、我が後方に座せる対敵に対する業にして、・・

術理:両膝を内絞りに寄せながら左手を鞘に掛け、左拇指腹を鍔に掛けると同時に、柄頭を己が人中にある様に鞘を送り出すと共に右手を柄に掛け、鯉口を切る。

柄に右手を掛けると同時に腰を上げ、両足爪先立つ。
次いで気を以って敵を圧する心持にて刀を抜き懸け、右膝は床に着きたるまま左膝を浮かして立てながら、右膝、左足先を軸にして左廻りに廻る。

約90度位廻りて後敵我が視野に入りなば、刀の抜き込みの速さを早めつつ、我が体が正面に向き直る直前に於いて正面に対し45度位に柄頭を持ち来たり、その時、切先三寸迄抜き込む事(抜刀寸前)が大切である。

我が体が正面に向き直るや否や左足を我左股関節の前に踏み込み踏み立てる。この時、右足先は右膝の後ろに在る様に動作する事に留意されたい。

と同時に左敵を見定め、左手鞘を90度に反らして左鯉口手と左肘を共に後ろに退くと共に、正面に対し右45度位にて抜刀寸前(切先三寸位)迄抜き込みたる刀を抜き放ち、横一文字に斬り付ける。
この場合、我が体が正面に向き直りて柄頭を正面に向けてより抜刀してはならない。

・両足爪先立つ時、両足は其の場にて爪立つ方が良い。両足を開いて爪立つ場合、我が正面に向き直りたる時、左足を踏み込み立てる動作が不完全になる。即ち、向き直りたる時、早や左足を踏み立てたる状態になっている為、斬り付けは手のみで斬る姿となり、踏み込み踏み立てると同時に斬り付けると言う斬り付けの勢を殺ぐ事になりかねない。

*この両足を揃えてその場で爪先立てば、左足を一旦右足に退き付けてから踏み立てる無駄がありません。古参の方はこの一旦引いてから踏み立てています。
後ろ向きに座って、大股開きで始めるのも見苦しいものです。
後の爪立が美しくありたいものです。

古伝神傳流秘書による大森流居合之事「四本目當刀」

 左廻りに後へ振り向き左の足を踏み出し如前

*「左廻りに後ろへ振り向き」ですから、相手は我が後方に座し、我れ害意を察し、左廻りに後ろに振り向き左の足を踏み出し抜付け打込む。

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2015年9月25日 (金)

英信流目録 3.大森流居合之位3右刀

英信流目録

3.大森流居合之位

 三本目 右刀

是は左脇へ向て坐する也右へ廻り右の足をふみ出し抜付すぐに討込血ぶるいの時左の足を右に揃納る時右を一足引納る也。

*この業は敵の左脇(左側)に我は座す、ですから、道場の正面向きの場合、左向きに我は座し敵は右側に居ます。
 対敵を意識した業名か、我の座す方向を元にした業名かの事です。なぜ業名まで変える必要があったか、大江先生に直接お聞きしたいものです。
 この業名は無双直伝英信流では「正座の部左」です

 明治維新と云う王政復古の中で、徳川幕府時代の物事を極端に否定して新生日本を推し進めようとした時の指導政権に土佐は大きく貢献しています。
 太平洋戦争敗戦後の日本人の行動にも戦前を否定するものもあるように、前のものを否定し新たなものを生み出すという事かも知れません。

 敵有りきではなく、まず我有り、と云う意識を中学生達に示したかったからかも知れません。
時代はむしろ「敵有りき」に「敵を求め」て行ったようです。

 私は「彼の左側に坐している時、彼が仕掛けてくるので・・」の方が我が軸がぶれずに良いな、とも思っています。

*是は我は敵の左側に、同じ方向を向いて座している、我は右に廻って右足を踏み出し抜き付け、すぐに振り冠って打ち込み、血振るいし、右脚に左足を引き付け、納刀の時右足を一足引いて納刀する。

無双直伝英信流居合道解説(無双直伝英信流居合道第22代宗家著)正座の部の三本目「左」で英信流目録大森流居合之位右刀を再現してみましょう

剣理:我れ正面に対して左向きに座し、我が右側に座せる対敵に対する業にして(対敵も同様左向きに座したる状態にある)第一本目「前」と同意義也。然して第一本目と同じ態にて実施する。

術理:両膝を内に寄せながら左手を鞘に掛け、左拇指腹を鍔に掛けて柄頭を我が正中線に二~三寸送り出すと共に右手を柄に掛け鯉口を切る。
 それと共に柄頭に引かれる心持ちにて腰を上げ、両爪先立つや否や、右膝を浮かしつつ立てながら、左膝はそのまま着きたる状態にて左膝・右足先を軸にして、気を以って敵を圧する心にて徐々に刀を抜きながら右廻りに正面(我が右側に座する敵の方)に廻る。
 正面に向き直るや否や直ちに右足を踏み立てて横一文字に斬り付ける・・以下省略。

 正座の部前・右・左と三本目にも拘わらず詳細な術理のテキストです。
 文章でここまで詳細に動作を付けられたテキストは従来もありません。
 口伝口授を良い事に抜けだらけのテキストでは何時までも、師匠の癖だらけの動作に縛られてしまいます。

 修行が進めば進むほど、宗家として公にここまで詳細に書かれた意図を思い読み直しその心を思います。
 その上で己の体の歪に気づき直せるものは直し、障害があればそこから自分流を生み出すものでしょう。
 そして師匠に問うものでしょう。

 ある道場での事、「俺は技も心も師匠がすべてであり、お前は、講習会やDVDとテキストで学んだ業技法を優先する、武道を学ぶ資格は無い」と剥きになって古参の方が研究熱心な後輩を攻めています。

 この古参の方の言いたい事は「段位や所属年数の高い者には、何事も黙って従え、長幼の序を持って敬い、礼を失するな、教わったことだけをやっていればいい」というのでしょう。

 どう見ても、師匠の業技法も心も持ちあわせずに、どこかの古い戦前の武道書の一節を言うだけの方のようです。

 武道界は、戦時中の面影を強く残しているようです。
 柔道界の不祥事もその一端でしょう。
 「上官には逆らわず、言いなりになって死ぬことが国や肉親を思う事」と・・。やれやれそこまで「かび臭く」はなりたくないものです。

 五輪強化選手程の優秀な人を相手に「お前の変わりは幾らでも居る」というような監督の発言はまさに戦時中の日本軍のカビです。

 古参・高段位であればあるほど人一倍の修行をすべきものでしょう。
 号令を掛けて悦に入っていたり、道場の隅でサボって品評会をしていたり、昔習ったと言う事に固執して勉強もしないようでは、何が・・です。

 指導する立場を自認する方は、己が出来ない事こそ習うものに強く要求するだけの「心の大きさ」を持つべきでしょう。

 一方で師匠が進化しているのに弟子ばかりが昔の習いに固執して、研究もしない様では呆れてしまいます。
 そんな弟子を持った師匠も哀れです。

 4歳の幼児が古伝の剣術を習いに来ています、見よう見まねで打ち込んでいます、見事に左右に筋を変えて、古流の動きが出来ています。

 そこの師匠は「あの子は私の先生である」

 人は真似ることで、知恵を得て進化してきました、より高いものを求めるには先ず真似てとことんやってみる事でしょう。
 子供だからとか、初心者だからとかで、見下したり、否定から始まる人生では面白くもないものです、幼児には戻れなくとも幼児の向上心はいつまでも持ち続けたいものです。

この子は、今、楽しそうに、大人に混じってモップを押して道場を走っています。

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2015年9月24日 (木)

英信流目録 3.大森流居合之位2左刀

英信流目録

3.大森流居合之位

 二本目 左刀

是は右脇へ向て坐する也ひだりへ廻り左の足を一足ふみ出抜付すぐに打込亦血ぶるひをして立時右の足を左に揃納る時左を一足引納る也

*是は正面に対し、右側に向いて座る。左へ廻り左の足を踏み出して抜き付け、すぐに打込み、血振るいして立ち上がる時は左足に右足を引き付け揃える。納刀の際は右足を一足引いて納刀する。

 この、英信流目録の左刀は、「左へ廻り左の足を踏み出して抜き付け」です。「古伝神傳流秘書大森流居合之事左刀」では左へ廻らず、正面向きの儘で左足を踏み出し、抜きつけています。
 「左の足を踏み出し向へ抜付け打込み扨血震して立時足を揃え左の足へ踏み揃え左足を引て納る 以下血震する事は足を立替え先踏出したる足を引て納る」

*「左の足を踏み出し向へ抜付け」をやってみます。正面に向いて座し、左足を踏み込んで正面の敵に抜付ける。
 初発刀は右足を踏み出し正面に抜付ける、二本目の左刀は左足を踏み出し正面に抜きつける。
 何の不思議も無いのですが、正面の相手に右足だ左足だと踏み込み足を変える業技法を稽古させている様です。
 左刀とは踏み込み足をさして言っているのでしょうか。

 英信流目録の大森流之位左刀は右向きに座り、左回りして左の敵を切る業に変わっています。神傳流秘書が抜けているのか意図的なのか知るすべはありません。

 古伝に云う、「大森流左刀」は、大江先生の改変によって「正座の部右」となっています。
 英信流目録では、敵が左側にいる場合の業のありようを言うのです。
 大江先生の右は、正面に対し自分が右向きに座っている場合の業で敵は左に居るというものです。
 対敵意識を持つ古伝を、演武の場所から絞った言い回しに変えた理由はなんなのでしょう。
 中学生向きに、とも思いたいのですが、判りません。

 大江先生の改変と言われる事に疑問を感じて居ます。江戸末期から明治に懸けての混乱期に多くの事が失伝したかも知れません。それを掘り起し整理されたのかも知れません。然しそのことを記すものも、弟子の方々も大江先生の改変と云うだけでそれ以上は何も語られて居ません。
 私に大江先生を批判する様な文章を書くので気に入らないと仰る方がおられます。
 現代でもそれ程崇められるならば、大江居合を徹底的に稽古されればと思うのですが、如何なものでしょうか。

 戻ります、この流派の「抜き付け」とは、右片手による鞘の内から抜き出し、顔面から肩の辺りへ横一線に抜き付ける事でしょう。
 特に指定されていませんが、現代居合の抜き付けに古伝の面影があるとすればそれでしょう。
 同様に「打込む」は、上段に振り冠って真向に切り下ろす打込みを指すのでしょう。

 古伝英信流目録の大森流居合之位「左刀」の抜付けは現代居合の「初発刀」・「右」の方法でやればいいのでしょう。

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