曽田本その1の1神傳流秘書を読み解く3大森流居合之事

2016年11月25日 (金)

曽田本その1の1神傳流秘書を読み解く3大森流居合之事11抜打

曽田本その1
1.神傳流秘書を読み解く
3、大森流居合之事
11)十一本目抜打
抜打
 坐して居る所を向より切て懸るを其のまゝ踏ん伸んで請流し打込ミ開いて納る 尤も請流二非春 此所筆二及ばず

読み
抜打(ぬきうち)
 座して居る所を 向うより切って懸かるを そのまま踏ん伸んて請け流し 打ち込み開いて納める 尤も請け流しに非ず この所筆に及ばず
読み解く
 大森流の11本目抜打はすさまじい技です。
 我が正面に座す敵が刀を抜出し「切って懸る」は、真向に打ち込んでくる状況でしょう。坐したまま「踏ん伸んで請け流す」は、刀を前に抜出し抜き付けんとするが、敵が早くも上段に振り冠り真向に打ち下ろしてくる、我れは柄頭を上に向け刀を抜き出すや、顔前頭上から左肩を覆うようにして敵の刀を請けるや摺落とし、拳を返すや上段から敵の真向に打ち下ろし、刀を横に開いて納刀する。
 この請流しは請けて流すようなものでは無い、筆に表せない、と締めくくられてしまいました。この現代風請け流しでは古伝の居合心には至れないものです。

 第十代林安太夫政詡によると思われる英信流居合目録秘訣による外之物の大事に霞八相と言う項目があります。
 「先生口授のまま記 外の物とは常に表の仕組より外の大事と云う事也」とありますから、動作の事よりもそれ以外の事が大事だよ、と言うのでしょう。

霞八相
 雷電霞の二ヶ条当流極秘中の秘にして大事此外に無請流に心明らかにして敵の働きを見と云う教有れども当流には雷電の時の心亦霞ごしに見るが如くの心の所に大事の勝ある事を教る也
 夢うつつの如くの処よりひらりと勝事有其勝事無疵に勝と思うべからず我身を先ず土壇となして後自然に勝有・・・・

 「請流しは身を土壇となして後自然に勝」ではなかろうかと思うのです。演武を見ていますと、殆んどが先を取る様に、一方的に抜出し、さっさと打ち下ろしています。
 中には飛び跳ねたり飛び込んだり、床を膝で踏み鳴らしたり・・どこかの流派の技法を教えられて其の儘のようです。古参の高段位の者のやることとも思えません。抜き打ちの斬撃力を高めたり、飛び込む意味を考えたことがあるのでしょうか。

 安永五年1776年の林益太夫政誠の英信流目録の大森流居合之位十一本目は原本に記載はありません。
 十本目勢中刀で終わっていますがそのあとに「以上十一本」とありますからこの目録を書写された第十五代谷村亀之丞自雄が写し損なったのかも知れません。但し当時大森流の十一本目に抜き打ちがあって稽古をしていたのでしょう。

大森流(正座の部)十一本目抜打(抜打)
 剣理:正面に対座せる対敵の害意を認めるや、直ちにその真向を上段より斬り下ろして勝意也。(我れ抜刀時、刀を柄頭の方向に抜き上げる心地こそ大切也)・・もし敵斬り込み来たりてもその刀を受け流す気にて行う)(当代の解説書による)


 と、剣理に記載されて古伝の気は引き継がれている様に思いますが、演武では殆ど一方的な抜き打ちにしか見えません。敵の害意とはどのような状況か、其れに則した抜打とは何か、究極の業技法が研鑽されていればと思うのです。

 演武の締めには大方演じられますが、身を土壇となして、請け流し心で演ずるならば土佐の居合心を少しは心得て居ますが、敵の攻撃もないまま一方的に抜き打つならば、唯の形(かたち)ばかりで締まるわけは有りません。その上飛び込んだり、床を踏み鳴らしたり、不意打ち闇討ちばかりです。

 此処は、「尤も請流二非春 此所筆二及ばず」をどの様に解するかでしょう。敵の真向に斬り下さんとするその機に乗じ、刀を上に抜き上げ我も亦真向に切下し「合し打ち」に敵刀を斬り落としての勝であればまさに極意業でしょう。

 敵はへぼばかりではないはずです。

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2016年11月23日 (水)

曽田本その1の1神傳流秘書を読み解く3大森流居合之事10虎乱刀

曽田本その1
1.神傳流秘書を読み解く
3、大森流之事
10)十本目虎乱刀
虎乱刀
 是ハ立事也幾足も走り行く内二右足尓て打込ミ血震し納る也 但し膝を付けす
読み解く
 虎乱刀の業名は、虎が獲物を追う姿をイメージしたのでしょうか、そんな雰囲気を感じてしまいます。現代居合では、第17代大江正路先生に依って改名されこの業名は「正座の部 追風」です。
 風流な業名です、夢想神傳流の壇崎先生、山蔦先生も大森流の虎乱刀に括弧書きで(追風)と付して山蔦先生は「逃げる敵を風が追うように、スーッと攻めて行く姿で動作するところに特徴がある」と大江先生の改名を評価されておられます。
 何時誰が教えたのか、「追風}と称して道場の端から端までドタドタ走り込んでいます。又はスルスルと進んで突然ドタドタ足音をさせて周囲を脅かして抜付けています。
 無双直伝英信流正統正流にも、そんな師匠が居られた時期もあったらしく今でも一部の者がやっています。
 これなど、土佐の居合の古伝「上意の大事 虎走」が伝えられていれば、これ等は理に合わない替え業であると知り得たでしょう。
 土佐の居合には元々追い懸けて切る教えが有りました。
 英信流居合目録秘訣の外之物ノ大事「逐懸切」
「刀ヲ抜我可左ノ眼二付ヶ走り行テ打込但敵ノ右ノ方二付クハ悪シシ急二フリ廻リヌキハロヲガ故也 左ノ方二付テ追カクル心得宜シ」
読み:逐懸切(おいかけきり)
 刀を抜き我が左の眼に付け走り行て打ち込む 但し 敵の右の方に付くは悪しし 急に振り廻り抜き払うが故なり 左の方に付けて追い懸ける心得よろし
 大森流は正座による業ですが、虎乱刀は立って行うと言います。立って前方遠間に居る敵に走り行き、左足が間境に至れば右足を踏み込んで打込むのですが、この「打込み」の方法がこの古伝の手附には明示されていません。
 一刀のもとに敵を倒していますから、横一線に首を刎ねている、上に抜き上げ真向に打ち下ろしている、下から切り上げている、いずれにしても確実に一刀で仕留める大技です。二刀目は有りません。血振いは大森流之血振りです、立ったままの納刀です。

 この業をのちの12代林益之丞政誠が安永五年1776年に英信流目録を書いています。書いた時期が丁度、第10代林安太夫政詡の亡くなった年になります。
 土佐に英信流を持ち込んだ第9代林六太夫守政亡き後34年後のことです。
大森流居合之位十本目虎乱刀
「是は立て
スカスカと幾足も行て右の足にて一文字に抜付(払ふてもよし)かむる時左の足を一足ふみ込右の足にて打込む血ぶるひの時左を右の足に揃納る時右の足を引納其時すねはつかぬ也」

 10代は幾足も走って追いつく、12代は幾足もスカスカと歩いて追いつくのです。
 抜き打ちは右足を踏込み横一文字に抜き付けます。この抜き付けは抜き払っても良いと言いますから。敵の首を斬り払うも有かも知れません。口伝でしょう。
 二刀目の留めは左足を踏み込みつつ上段に振り冠り右足を踏み込んで真向打ち下しでしょう。現代居合のイメージにつながっています。
 
無双直伝英信流正座の部十本目追風
 剣理:我が前方に逃れ去らんとする対敵を、我れ小足、小走りにて追い込みて斬り付け勝つ意也(虎走り掛かりに留意)(当代の解説書より)


 古伝英信流居合目録秘訣の上意之大事に「虎走」 
「仕物抔云付られたる時は殊に此心得入用也其外とても此心得肝要也 敵二間も三間も隔てゝ座して居る時は直に切事不能其上同座し人々居並ぶ時は色に見せては仕損る也さわらぬ躰に向ふゑつかつかと腰をかがめ歩行内に抜口の外へ見えぬ様に躰の内にて刀を逆さまに抜きつくべし虎の一足の事の如しと知るベシ大事とする所は歩みにありはこび滞り無く取合する事不能の位と知るべし」

読み:虎走
 上意により仕物(しもの)などを言い付けられたる時は この心得入用なり 其の外とてもこの心得肝要なり 敵二間も三間も隔てて座している時は直ぐに切る事あたわず 其の上同座し 人々居並ぶ時は色に見せては仕損じるなり さわらぬ態に向うへつかつかと腰を屈め歩み行うちに 抜き口の外へ見えぬ様に体の内にて刀を逆さまに抜き付くべし 虎の一足の事の如しと知るべし 大事とするところは歩みにあり はこび滞り無く 取合いする事不能の位と知るべし 


 
この上意之大事は決してしくじってはならない上意によるものです。不意打ちであってもやむおえないものです。英信流目録の秘訣では、切るべき者にも気付かれない様に、同座の人々にも邪魔されない様に、色に見せるな。つかつかと腰を屈め歩み行き、間に至れば抜き口が見えない様に体の内で刀の刃を下にして英信流の虎一足の様に抜き付けろ。大事なのは足の運びであり、邪魔されないことである。これが心得の基本だろうと思います。抜き打つ寸前に「上意!」と掛け声を懸けるかどうかも状況次第でしょう。

 

 

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2016年11月21日 (月)

曽田本その1の1神傳流秘書を読み解く3大森流居合之事9勢中刀

曽田本その1
1.神傳流秘書を読み解く
3、大森流居合之事
9)九本目勢中刀
勢中刀
 右の向より切て懸るを踏出し立って抜付打込血震し納る此事は膝を付けす 又抜付二拂捨て打込事も有

読み
勢中刀(せいちゅうとう)
 右の向こうより切って懸るを 踏み出し立って抜付け打込む血震(振)いし納める 此の事は膝を着けず 又抜付けに払い捨てて打込む事も有り
読み解く
  敵が「右の向より切て懸る」ですから、敵は我の右側正面から仕掛けて来ます。我は正面に対し左向きに座すのでしょう。現代居合の無双直伝英信流正統正流では斜め左向きと教えられます。
 これも、敵は我の右脇に坐しているのか、向うに離れた位置に立って仕掛て来るのか想定は自由です。しかし次の「踏出し立って抜付」ですから、大森流の「右刀」を稽古していますから、敵の仕掛けに応じて、両手を刀に懸け右廻りに敵に振り向き、立上り右足を踏み込み敵の機先を制して抜き打つ。現代居合では敵の打ち込まんとする上段に構えたその両小手に抜き付ける。
小手を制せられ怯む敵に右足に左足を引きつけ右足を踏み込んで上段から打込み、大森流の血振るいをし、右足に左足を踏み揃え、右足を引いて納刀膝を着かず立ったままの納刀です。

 「又抜付に払捨て打込事も有り」と抜き付けには、払い捨てるのも有りと云います。
 右足を踏込み半身で敵の小手を押さえる抜き付け、払い捨てる場合は半身で抜き付け右に体を披いて抜き放つのでしょう。此の場合小手を斬るのも胴を斬るのも足もありそうです。今では、払い捨てる動作をすれば「業違い」扱いになりそうです。

安永5年1776年の林益之丞政誠の英信流目録大森流居合之位勢中刀
「是も坐して居也少し右向の方より敵立て来る心持也我其時右の足より立ち一文字に払ふ也其儘かむり討込む也跡は血ぶるひをし左の足を右の足に揃納る時右の足一足引納る時すねをつかぬ也」

 ここでは、我は正面向きに座していると読んでもいいでしょう、敵は少し右の正面から立って仕掛て来る、我は其の時立ち上がって右足を踏み込んで横一文字に払い捨てに敵に抜き付ける。何処を斬るかなど指定はされていません。現代居合は敵の籠手が一般的ですから稽古はその様だったかも知れません。
 其の足の儘(右足前の儘)振り冠って敵に打込む跡は血振いし左足を前足の右足に引き付け、右足を引いて立ったまま納刀する。

 勢中刀とは見事な業名です、敵の打ち込まんとする勢い半ばで制する業です。現代の月影の名称は、大江先生が改変してしまった古伝太刀打之事の五本目月影(居合道形の鍔留)の業名からの引用です。
 敵の打ち込みにすらりと立ち上がって抜き打つ様子が月影に相応しいなどと仰る大家も居られますがどうでしょう。そんな事をイメージすると、抜打ちして見栄を切ってしまい敵は逃げてしまいそうです。此処は敵の両小手を切るや(又は切り払うや)振り冠って真向に斬り下す方が古伝らしい。

 現代居合は想定が絞られています。敵の攻撃のどのあたりに抜き付けるなど微細です。其の上、後退する敵に附け込んで追足又は歩み足で追込み真向から斬り下しています。

 古流ならば、敵の斬り込みに、右足を大きく深く入って抜き打ち、その場で左右の足の踏み替えによる筋を変えての斬り下ろしも稽古しておきたい処です。

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2016年11月19日 (土)

曽田本その1の1神傳流秘書を読み解く3大森流居合之事8逆刀

曽田本その1
1.神傳流秘書を読み解く
3、大森流居合之事
8)八本目逆刀
逆刀
 向より切て懸るを先々二廻り抜打二切右足を進んて亦打込ミ足踏揃へ又右足を後へ引冠逆手に取返し前を突逆手二納る也
読み
逆刀(ぎゃくとう)
 向うより切って懸るを 先々に廻り抜打に切り右足を進んで亦打込み足を踏み揃え 又右足を後へ引き冠る 逆手に取り返し前を突き 逆手に納めるなり
読み解く
 
この抜けだらけの手附ではどの様に動作を付けたらいいのでしょう。
 大森流は無双直伝英信流正座の部の居合ですから、我れ正面に向いて座すところ、敵が正面より上段に振り冠って切って懸るのを、「先々に廻り抜打に切」ですが、はてどうしましょう。当時の動作が見えません。
 我と同様に正座して対座している敵が立ち上がって切って懸る想定で稽古をしてみる方法もあるでしょう。又座したまま刀を上に抜いて打ち込んで来るのもあるでしょう。或は、少し離れた位置から上段に振り冠りスルスルと歩み寄って打ち込んで来るのもありでしょう。

 いずれにしても、間が近ければ、間を外す時間はないので、我は刀を抜き上げて敵の刀を受け流すや右足を踏み込み敵の頭上に打ち込むのでしょう。無外流の「連」、全居連の「刀法前後切」が使えます。
 次いで、しまったと引く敵を逃さじと、左足膝を右足踵に引付、右足を踏み込み更に打ち込む。
 左足を右足に踏み揃え、右足を後方へ引き上段に振り冠り残心。左足前の足踏みのまま正眼に刀を下ろし右膝を着き、右手を逆手に取り直し切っ先を倒れた敵に付け留めを刺す。逆手のまま納刀。

 敵が間境で上段に振り冠って居るならば、我も来るなら来いと右足を少し踏み込みつつ刀を抜き出し、敵が間を越して打ち込むや立ち上がりつつ右足を引いて間を外し、同時に刀を受け流すように抜き上げ、外されて引かんとする相敵に右足を踏み込み打ち込む。
 敵が更に引かんとするのを右足を踏み込み打ち込み左足を右足に引付る。
 敵が倒れるや、右足を後ろに引いて刀を引き冠り上段となる、刀を下ろし正眼に構え、右膝を着き、右手を逆手に持ち替え倒れた相手を突き留めを刺して逆手のまま納刀する。

 しかし、これでは「向より切て懸るを先々に廻り抜打ち・・」になっているでしょうか。前回の順刀の抜き打ちを思い出しました。現代では介錯として稽古して居ますが、順刀の抜刀は立ち上がって打込む「抜打」を彷彿とさせます。これならば「先々・・」が出来そうです。敵が我に遅れて摺落すのを更に追い込んで打込む事は出来そうです。
「順刀(介錯のコト 曽田メモ)
 右足を立左足を引と一処に立抜打也又ハ八相二切跡は前二同し

 第12代林益之丞政誠の安永5年1776年の英信流目録の大森流居合之位逆刀に先々に廻った」ような雰囲気が見られるのでを之を読んでみます。
「是は坐して居りすっと立其儘引抜向え拝み討に打ちつづけて二つ打其時両足を揃え太刀を亦かむり其の時右の足を跡へ引すねをつき亦太刀を前へそろりとおろし柄を逆手にとり左の手にて刀のむねをおさえ太刀の刃を上へ向て手前へそろりと引納る也初発刀より此迄は納るすねをつく也」

*近代に近づくと、どんどん業手附が特定されてしまう様です。古伝は武術としてあらゆる状況に応じられる動作のポイントを手附けとして示したのでしょう。

 現代居合の様に実戦など何処へやら、演武を主として集団稽古をしてしまいますと業の想定を明確にせざるを得ません。まして昇段審査や競技会向けでは想定は特定されなければ判定すら不能になってしまいます。制定居合の出来た理由は判定者の能力不足以外に無さそうです。自流ですらそうですから、他流など及びもつきません。

大森流(正座の部)逆刀(附込)
 「剣理:座位にある我に対敵立位にて正面より斬り込み来るを、我れ立ち上がりながら一歩後に退きてその斬り込み来る敵刀を摺り落して外し、(立ち上がり切ったる我が顔面頭上にて敵刀を摺り落とす気分にて)対敵の顔面に斬り付けるも不十分なりし為、対敵後退するを我れ直ちに追撃して勝つ意也。」(当代の正座の部「附込」の解説より)

*この現代居合では明らかに後の先から先々に転じています。

 古伝神傳流秘書は「おおらか」でした。

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2016年11月17日 (木)

曽田本その1の1神傳流秘書を読み解く3大森流居合之事7順刀

曽田本その1
1.神傳流秘書を読み解く
3、大森流居合之事
7)七本目順刀
順刀(介錯のコト 曽田メモ)
 右足を立左足を引と一処に立抜打也又ハ八相二切跡は前二同し

読み
順刀(じゅんとう)
 右足を立て 左足を引くと一緒に立ち 抜き打つ也 又は 八相に切り 後は前に同じ
読み解く
 「跡は前に同じ」のところは前回の六本目流刀の納刀法について同じと言うのでしょう。
「刀をすねへ取り逆手に取り直し納る膝をつく」

 無双直伝英信流の現代居合では大森流は正座の部、七本目は介錯です。切腹者の首を討つ介錯として位置付けられています。

 この古伝「順刀」は、正座し右足を踏み立て、刀を抜き出し、左足を後方に引くと同時に刀を抜き上げ打ち込む、または八相に切る。

 安永五年1776年の林益之丞政誠による英信流目録大森流居合之位「順刀」
 「是は座している前のものを切る心持なり我其儘右より立すっと引抜かたより筋違に切也是も同じく跡はすねへ置き逆手に納る也」

 古伝は順刀を介錯の運剣動作としている様な文言はどこにもありません。口伝口授だったのでしょう。英信流目録の「順刀」にそれと無く介錯のイメージが浮かぶのは現代居合に慣れ親しんだ為かも知れません。
 順刀は大江先生に依って介錯と業名が変えられ正式な演武では演じてはならないと云われています、この事も古伝には触れられていません。

 介錯について、「介錯口傳」として英信流に伝わっている一説
 「古代には介錯を好まず其故は介錯を武士の役と心得べからず死人を切るに異らず故に介錯申付けらるゝ時請に秘事有り介錯に於ては無調法に御座候但し放討ちならば望所に御座候と申すべし何分介錯仕れと有らば此上は介錯すべし作法に掛るべからず譬切損じたりとも初めにことわり置たる故夫に非ず秘事なり能覚悟すべし」

 「他流にて紐皮を掛ると云う事仰向に倒るゝを嫌てひも皮を残すと云う説を設けたる見えたり当流にては前に云う処の傳有故に譬如何様に倒るゝとも失に非ず其上紐皮をのこすの手心何として覚るべきや当流にては若し紐皮かゝりたらば其の儘はね切るべしさっぱりと両断になし少しも疑の心残らざる様にする事是古伝也」

 無双直伝英信流正座の部七本目介錯
 「剣理:座したる我れの正面にて約四尺(約120cm)向うにて、左向きに座して切腹する者の首を斬る意也(罪人の斬首に非ざる事に留意すべき事)(切腹者の首の前皮一重斬り残す心地こそ大切也)。(当代の解説書による)」

 現代居合では、「正面に向きて正座、右足を少しく前へ出しつつ、刀を静に上に抜き、刀尖が鞘と離るゝや右足を後ろへ引き、中腰となり、刀を右手の一手に支え、右肩上にて刀尖を下し、斜の形状とす、右足を再び前方に出し上体をやや前方に屈し刀を肩上より斜方向に真直に打下して、前の首を斬る。」(大江・堀田著剣道手ほどきより)

 大江先生は介錯として伝承したのでしょう、然し紐皮を残す介錯については何もおっしゃっていない様です。
 昭和13年の河野先生の「無双直伝英信流居合道」にはこの介錯について、5ページ以上に渡って解説されています。そこでは「右手を中心とする手の裡の作用にて、皮一重の辺りにて刀を留むる心持にて行うべし」とされています。
 この介錯理論は、中山博道先生の居合を書かれた太田龍峰先生の「居合読本」に依るものでその理論を河野先生は自流の教えを知らずに取り込んでしまったものです。この河野先生の間違った教えが無双直伝英信流に広まったのでしょう。
 古伝は紐皮を残す様な斬り方は、人の首で稽古できるわけも無く気にするなと言っています。

 この神傳流秘書にある「順刀」を「介錯の仕方」として読む事は出来ません。何故ならば右足を踏み出し、左足を引くや刀を抜いて抜き打っています。此の動作は「後の先」の見事な抜打でしょう。どこかで変化してしまったとしか思えません。

 古伝神傳流秘書の大森流之事二本目「左」も現代居合と異なる手附けです。読み直してみます。
「左刀:右の足を踏み出し向へ抜付け打込み扨血震して立時足を前之左の足へ踏み揃へ左足を引て納る 以下血震する事ハ足を立替へ先踏出したる足を引て納る也」

 左刀は正面の敵に左足を踏み込んで抜き付けています。現代居合は左脇の敵に左回りして左足を踏み込んで抜き付けています。

順刀(介錯のコト 曽田メモ)
 右足を立左足を引と一処に立抜打也又ハ八相二切跡は前二同し
 順刀の何処が介錯刀なのでしょう。大森流に介錯の仕方を教える意味があるのでしょうか。土佐の居合の幻が「よく考えろ」と語り懸けてきます。

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2016年11月15日 (火)

曽田本その1の1神傳流秘書を読み解く3大森流居合之事6流刀

曽田本その1
1.神殿傳流秘書を読み解く
3、大森流居合之事
6)六本目流刀
流刀(流討共言 曽田メモ)
 左の肩より切て懸るを踏出し抜付左足を踏込抜請に請流し右足を左の方へ踏込み打込む也扨刀をすねへ取り逆手に取り直し納る膝をつく
読み
流刀(りゅうとう)(流討(ながれうち・りゅうとうとも云う 曽田メモ)
 左の肩より切って懸かるを 踏み出し抜き付け 左足を踏み込み 抜き請けに請け流し 右足を左の方へ踏み込み打ち込む 扨 刀を脛へ取り逆手に取り直し納める 膝を着く
読み解く
 この手附を何度も読み直し、イメージを浮かべるのですが「・・踏出し抜付左足を踏込み抜請に請流し」で先ずつまずき、次の「右足を左の方へ踏込み打込む」で再び戸惑います。

 古伝は元々抜けだらけです、現代居合の無双直伝英信流や夢想神傳流、剣連の制定居合などに捉われずに稽古したいのですが、どうしても邪魔します。
文章に従ってやってみましょう。

 座して居る処、左肩の方から敵が斬って懸るのを、刀に手を掛け爪立つや左膝を浮かして、左足を少し前に踏み出し、刀を抜き出す、敵が斬り込んで来るや左足を更に踏み込み抜請けに顔面頭上で敵の刀を請け流す、請け流されて態勢を崩す敵に左足を向け、右足を左の方に敵に向け左足に踏み揃え敵の首に打ち込む。
刀尖を膝下脛に取り右手を逆手に持ち替え納刀、納刀と同時に膝を着く。

 演武では正面向きであろうと、右向きであろうと、右45度に座すであろうと、兎に角左側から敵が打込んで来るのを請け流すのです。
 右足の踏み込むタイミングは、一旦右に踏み出し、次に左の足に踏み揃える様に現代居合は指導されますが、此処では座した右足の位置の儘左足を体前に踏み込んで、敵の刀を請け、左下に請け流し、右足を左足に踏み揃える様に踏み込み同時に左足先も左に流れる敵の体に向け、踏み揃え打ち下す。

イメージは体を躱しつつ受け流すのでしょう。古流剣術に見られる流れる様な円運動に依る筋変えによる請け流しです。

安永五年1776年の林益之丞政誠の英信流目録大森流居合之位流刀六本目流刀
「是は座し居る処へ左横脇より討かかり来る也其時我は左の足を立少々前へふみ出し横に請流す心持にて其儘右の足をふみ出し筋違いに切り跡はすねへ置き柄を逆手に取直し納むるなり」


 この英信流目録は古伝神傳流秘書の流刀の動作とほぼ同じでしょう。現代居合が忘れている動作で、左身で敵刀を請け当り拍子に、右身に筋を変わって請け流すのでしょう。
納刀は「刀をすねへ取り逆手に取り直し納る膝をつく」ですから斬り下した刀を左足を引いて右足膝下に切先付近を着けて、右手を逆手に取り直して、左手で鯉口を握り、切先を下から廻して鍔元6、7寸の処を鯉口に運び、柄を右斜め前に運び切先が鯉口に入るや逆手のまま納刀しつつ左膝を床に着いて納刀する。

 此の処は口伝口授で古傳の何処にも解説されたものは有りません。土佐の居合の残心には、この逆手納刀や大きく右手で円を描く血振り、絹を裂くような横血振り、クルリストンと落とし込む納刀、立膝の納刀時の右足の引きを大きく半円を描く、など大見得を切る動作が伝わっています。
 何のために大見得を切る必要があったのかは判りません。一連の動作の中でさりげなくやれば美しい残心です。勝ち誇った者の自己顕示の表われでしょうか、華麗にやればやる程下品に見えてしまいます。

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2016年11月13日 (日)

曽田本その1の1神傳流秘書を読み解く3大森流居合之事5陽進陰退

曽田本その1
1.神傳流秘書を読み解く
3、大森流居合之事
5)五本目陽進陰退
陽進陰退
 初め右足を踏出し抜付け左を踏込んて打込ミ開き納又左を引て抜付跡初本ニ同し
読み
陽進陰退(ようしんいんたい)
 初め右足を踏み出し抜き付け 左を踏み込んで打ち込み 開き納める 又 左を引きて抜き付け 後初本に同じ
 
読み解く
 陽進ですから抜き付け不十分で逃げる敵を追い込んで左足を踏み込んで打込む、十分と見て刀を横に開いて納刀する。ここでは何故大森流の血振いでは無いのでしょう。前方に第二の敵を意識しているのでしょうか。
 納刀して居ると前方から第二の敵か、斬り倒したはずの敵か、打込んで来るので左足を後方に引き間を外すや抜き打に斬り付ける、引き足による後方へ退く此処が陰退でしょう。
 即座に上段に振り冠って右足を踏み込んで打込む、血振いして立つ時右足に左足を引き付け、納める時右足を後方に引いて納刀する。

 この動作は中山博道系の夢想神傳流の大森流「陰陽進退」でしょう。
 神傳流秘書の大森流之事五本目「陽進陰退」が何故「陰陽進退」になったのでしょう。業のイメージは古伝の「陽進・陰退」でしょう。

 この業の替え業でしょうか、「前方の敵を斬りたるのち敵再び足に斬り付け来るを応じて防ぎ続いて斬り倒す意(大森流・長谷川流・伯耆流居合術手引白石元一著大森流居合術陰陽進退)」と言う動作が現代居合に残されていて、無双直伝英信流の八重垣となっています。

 谷村派の第12代林益之丞政誠の安永5年1776年の英信流目録大森流居合之位「陽進刀・陰退刀」「陽進刀 是は正面に座する也右の足一足ふみ出し立なりに抜付左をふみ込み討込む也すぐに右脇へ開き其儘納む也
 陰退刀 其儘左の足を跡へ引其時亦抜付打込み血ふるひの時立左の足を右に揃え納る時右を一足引也」

 この大森流(正座の部)陽進陰退の形でも第二の敵と言う文言は見られません、それと、敵刀を受け払う動作も見られません。想定は動作に従い自由に考える事にすすのでいいのでしょう。しかし、どうやら雰囲気は夢想神傳流が引き継いだようです。

 大森流「陽進陰退」は無双直伝英信流正座の部五本目八重垣と業名を変えて古伝の仕方を特定してしまった様です。

正座の部五本目八重垣
「剣理:対座せる対敵の首(又は顔面・腕)に斬り付けたるも不十分にして、対敵後退せんとするを、透かさず追い込みて双手上段より斬り倒したるに致命に至らず対敵倒れし処より我が右の脛に薙ぎ来るを我れ立ち上がりながら受け留め(払い留め)、反撃して勝つ意也。」(当代の解説書による)

 跪いて脛を床に着いているのに、其処に斬り付けて来る分けなど有りそうになく無理やり想定を作ったようなと、思いつつ稽古をしています。
 抜き打ち不十分で追い込んで打ち込み、充分斬れたと判断し、血振い納刀している時に、敵が死力を振り絞って右足に斬り付ける(右から斬り付けて来る位の大らかさがいい)。
 抜き打ち不充分も情けないし、充分打込んで瀕死の敵が死力をふり絞るのも腑に落ちません。
 二人目の敵の方がすっきりしますが、大森流は基本的に一対一の攻防の様です。二人目の敵の攻撃であればこれも腑に落ちません。

 然し、あり得ない事では無いでしょう、抜き付け不十分と思ったら素早く追い込み第2刀の打ち込みをする事。
 充分に気配りしたが、何時如何なる事態にも応じられる態勢で油断の無い残心、納刀をする事。
 第二の敵であれ、第一の敵が死力を振り絞ってであれ、どの方角からでも何処に仕掛けて来ても、敵の攻撃を外して応じる形による稽古業です。大森流(正座の部)の最も生き生きした素晴らしい業でしょう。

 初発刀から機先を制して先、先と仕掛けて陽進まで稽古しました。陰退で後の先の心持を学ぶことになります。

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2016年11月11日 (金)

曽田本その1の1神傳流秘書を読み解く3大森流居合之事4當刀

曽田本その1
1.神傳流秘書を読み解く
3、大森流居合之事
4)四本目當刀
當刀
 左廻り二後へ振り向き左の足を踏み出し如前
読み
當刀(あたりとう、とうとう?)
 左廻りに後ろへ振り向き 左の足を踏み出し 前の如し
詠み解く
 「左廻りに後ろへ振り向き
」ですから、敵は我が後方に座し、我れはその敵の害意を察し、左廻りに後ろに振り向き左の足を踏み出し抜付け打込む。

 現代居合では大森流(正座の部)の左刀(右)が右脇の敵の害意を察し、機先を制して左廻りに振り向き抜付け打込むのです。この大森流(正座の部)當刀(後)は敵は後ろに我と同方向を向いて座すとしています。
 現代居合の左刀(右)が90度左へ振り向くならば、この當刀(後)は180度左廻りに振り向くわけで正座の部の後ろです。

 左刀(右)が左廻りの回転業であれば、當刀(後)も左廻りの回転業です。右廻りの回転業が右刀(左)ですが、右廻りの當刀(後)は手附にセットされていません。何故でしょう。
 右廻りの當刀(後)はやってみれば容易です。
 前後左右360度何れに敵が居ようと右廻りも左廻りも応じられる様に稽古するのも良さそうです。
 もう一度大森流居合之事の初発刀から四本目まで古伝神傳流秘書を読み直します。

一本目初発刀(正座の部前):右足を踏み出し向へ抜付打込・・・
二本目左刀(正座の部右):左の足を踏み出し向へ抜付け打込・・・
三本目右刀(正座の部左):右足を踏出し右へ振り向抜付打込・・・
四本目當刀(正座の部後):左廻りに後へ振り向き左の足を踏み出し如前・・

 木村栄寿先生の「林崎抜刀術兵法夢想神伝重信流傳書集及び業手付解説」では、夢想神傳重信流「表身右剣・右身左剣・左身右剣・後身左剣」より取り入れた業であると解説されていますが、その「夢想神傳重信流」なるものが何処に有るのか見当たりません。
 奥州地方の林崎流(三春藩)の根元之巻には、表・左・右・後の区分に業名が複数記述されています。
 秋田藩の林崎流居合では、向之次第・右身之次第・左身之次第などに複数の業名が書かれています。そこでは業は敵との位置関係による工夫が見られます。然し木村先生の様に言い切るだけの資料にはなりません。ご存知の方はご教授ください。

 安永5年1776年の第12代林益之丞政誠による英信流目録の大森流之位當刀
「是は後に向て座す也正面へ左より廻り左の足を出し抜付すぐに打込み血ぶるひの時立右の足を左に揃納る時左を一足引納る也」

 江戸で荒井勢哲清信に英信流を伝授され土佐に持ち帰った林六太夫守政は享保17年1732年に亡くなっています。子供が幼かったので後を継いだのは安田道元と云う医者の次男坊を養子に貰い家督と居合を伝授した、それが第10代林安太夫正詡です。
 此の人が神傳流秘書を書いたかも知れません。
 安永5年1776年に林安太夫正詡は急死して、第11代が大黒元右衛門清勝で此の人の伯母が第9代林六太夫守政の奥さんです。
 英信流目録を書いたのが先の林益之丞政誠です。後に第12代となっています。
 神傳流秘書は1732年以前に書かれていたかそれ以降1776年までの間に書かれていたのか判りません。
 然し林六太夫の亡くなった年に書かれた英信流目録ですから、神傳流秘書の抜けは補ってあります。

 

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2016年11月 9日 (水)

曽田本その1の1神傳流秘書を読み解く3大森流居合之事3右刀

曽田本その1
1.神傳流秘書を読み解く
3、大森流居合之事
3)右刀
右刀
  右足を踏み出し右へ振り向抜付打込血震納る
読み
右刀(うとう)
 右足を踏み出し右へ振り向き 抜き付け打込み 血振り納める
読み解く
 座仕方は正座であるかは文章上では見られませんが、無双直伝英信流を業ずる者は大森流は正座と刷り込まれています。
 大江先生の正座の部の業が大森流と同じものとしてこれも認識されています、但し、何故か業名が古伝と変わっています。

 古伝神傳流秘書の大森流居合之事「右刀」は無双直伝英信流居合正座の部では三本目「左」となります。右、左が逆になります。
 古伝は敵を意識して、我が右側に敵が我と同様に座すのですが、大江先生の正座の部の「左」は道場での正面に対し我は左向きに座すことを意味します。
 敵は古伝と同様に我が右側に座している想定です。

 前回の左刀は、「左の足を踏み出し向へ抜付け打込み」でした

 今回の右刀は「右足を踏み出し右へ振り向抜付打込」と明らかに回転する業を示しています。
 「右刀」が敵が右側であるかどうかは、この右へ振り向の文言が示しています。右に振り向いて我が右側に座す相敵に抜付け、打ち込むのです。

 古伝の文章の順番に忠実に再現しますと、右足を踏み出してから右に振り向く動作は現代居合では不自然ですが、左膝が軸であれば問題は無いでしょう。
 腰を上げ爪先立つや、少し右足を踏み出し抜き付ける時更に踏み出すのも出来るはずです。

 次の四本目當刀では「左廻りに後へ振り向き左の足を踏出し如前」ですから、振り向いてから踏み込んで抜き付ける現代居合の「後」の動作です、古伝の文章がチョット気になる処です。足を踏み込む事によって刀勢も増し、敵との間も瞬時に適合させるには古伝の文章は疑問です

 右刀は「右へ振り向き右足を踏み出し向抜付打込血震納る」と現代居合では稽古されています。
 土佐の居合を知らなければ何と云う事でも無く通過してしまいそうです。

 古伝はこの様に短い文章だけですから、抜けた動作の細部は師匠からの口伝・口授であり看取り稽古で覚えていくのでしょう。余り厳密に形に拘るべきでは無く、考えられる想定は、稽古して置く位の余裕が欲しいものです。物差しで測る程の判定基準などは古伝にはありません。然しその位の厳密さを持ち合せていませんと、業が完成できず棒振りに終わる事も事実です。

第十二代林益之丞政誠の英信流目録による大森流居合之位三本目「右刀」
 是は左脇へ向て座する也右へ廻り右の足をふみ出し抜付して討込血ぶるひの時左の足を右に揃納る時右を一足引納る也

*これはもう、現代居合そのものです。
 此の目録は安永五年1776年に書かれたもので、嘉永五年1852年第十五代谷村亀之丞自雄によって書写されたものです。

 江戸で夢想神傳英信流を習ったのは、林六太夫守政です。年表を付記しておきます。

寛文21662年 林六太夫守政生まれる

享保171732年 第9代林六太夫守政没す 70

明和元年1764年 林安太夫政詡 居合兵法極意秘訣を誌す

安永51776年 第10代林安太夫政詡没す

11代大黒元右衛門清勝

12代林益太夫政誠 英信流目録2巻書く

文政21819年 山川久蔵幸雅 神傳流秘書を写す

嘉永51852年 第15代谷村亀之丞自雄 英信流目録2巻を写す

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2016年11月 7日 (月)

曽田本その1の1神傳流秘書を読み解く3大森流居合之事2左刀

曽田本その1
1.神傳流秘書を読み解く
3、大森流居合之事
2)二本目左刀
左刀
 左の足を踏み出し向へ抜付け打込み扨血震して立時足を前之左の足へ踏み揃へ左足を引て納める以下血震する事ハ足を立替へ先踏出したる足を引て納る也
左刀(さとう)
 左の足を踏み出し向うへ抜き付け打込み 扨 血振りして 立つ時足を前の左足へ踏み揃え 左足を引いて納める 以下 血振りする事は足を立替え 先に踏み出したる足を引いて納める也

読み解く
 この手附では、我はどのように座し、敵は何処に居るのか判断に苦しみます。
「左の足を踏み出し向へ抜付け」をやってみます。向うは正面です、正面に向いて座し、左足を踏み込んで正面の敵に抜付ける、是で、古伝の通りで間違いはなさそうです。

 初発刀は右足を踏み出し正面に抜付ける、二本目の左刀は左足を踏み出し正面に抜きつける。何の不思議も無いのですが、何故正面の敵に右足だ左足だと踏み込み足を変える必要があるのでしょう。左刀とは踏み込み足をさして言っているのでしょうか。

 そこで、次の三本目右刀を読んでみます。
「右足を踏み出し右へ振り向抜付打込血震納る」

 右刀は、右へ振り向いて抜付けています。敵は右脇に座すと読めます。
足の踏み込みではなく敵の座す位置が右脇で、我は右廻りに振り向き右足を踏み込んで抜付ける業です。
 左刀・右刀とセットにすれば、左刀は敵が左脇に座すので左廻りに振り向き左足を踏み込んで抜き付けると判断できます。でも、左刀には「左廻りに振り向き」などと言う文言は無いのです。曽田先生の写し損ないでしょうか。木村栄寿先生の細川家本をチェックしてみますが、「左の足を踏み出し向へ抜付け打込み・・」で同じ様なものです。

次の四本目當刀はどうでしょう。
「左廻りに後へ振り向抜付打込血震納る」

 當刀は敵は後ろに居ると読めます。ところが、當刀は左廻りに振り向いて抜付けています。右廻りでも問題はありません。左廻りを指定する理由は何でしょう。

 現代の無双直伝英信流では、稽古の仕方は以下のようになっています。敵を意識していたものを道場正面に対する坐した方向をさしています。

 古伝は敵が何処に居るかが業名に示されているのです。これも明治以降の第17代大江正路先生の改変と聞き及びますが、何故変えたのか疑問です。
一本目は前、敵は正面、正面向きに座し右足を踏み出し正面の相手に抜付け打込。
二本目は右、敵は左脇、右向きに座し左廻りに振り向き左足を踏み込んで左脇の相手に抜付け打込。
三本目は左、敵は右脇、左向きに座し右廻りに振り向き右足を踏み込んで右脇の相手に抜付け打込。
四本目は後、敵は後ろで我が方を向いて座す、後向きに座し左廻りに振り向き左足を踏み込んで後方の相手に抜付け打込。

 この神傳流秘書の大森流之事二本目左刀は初発刀と同様に正面向きに座し左足を踏み出して正面の敵に抜付け上段に振り冠って真向に打込み、血ふるいの際、踏み出した左足に右足を引きつけて立ち上がり、左足を引いて納刀する。
 左右の足の踏み出しを教え、踏み出した足に後足を引き付けて立ち上がり、踏み出した足を引いて納刀する事を教えている様に思えます。
 三本目の右刀とのセットで左刀は左廻り、右刀は右廻りを習うのも何らおかしくはないのですが、敢えて、「左廻りに振り向き」の文言の無い処に古伝の味わいがある気がします。
 「左廻りに振り向き」は四本目當刀にあるので、古伝は稽古はできる様になっています。當刀の右廻りを稽古して前後左右自由自在に出来て、「出来た!」でしょう。

 参考に、第十二代林益之丞政誠による安永五年1776年の英信流目録を第十五代谷村亀之丞自雄が嘉永五年1852年に書写している中に、大森流居合之位に二本目左刀がありますからこれを読んでみます。

左刀:是は右脇へ向て座る也ひだりへ廻り左の足を一足ふみ出抜付すぐに打込亦血ぶるひをして立時右の足を左に揃納る時左を一と足引納る也

 神傳流秘書に無い部分の「左廻りに振り向き」を補っています。是では、謎が深まるばかりです。先師の教えを追求せずに変えてしまっています。
 神傳流秘書の2本目左刀は左足を踏み出し正面に抜き付けるでいいのでしょう。360度右廻りも左廻りも、相手次第に稽古をして見ます。
 ついでに右足踏み出し、左足踏み出し、どの角度にでも自由自在に抜き付けます。
 

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