曽田本その1の1神傳流秘書を読み解く4英信流居合之事

2016年12月17日 (土)

曽田本その1の1神傳流秘書を読み解く4英信流居合之事10抜打

曽田本その1
1.神傳流秘書を読み解く
4、英信流居合之事
10)十本目抜打
抜打
 大森流の抜打二同之事也
読み
抜打(ぬきうち)
 大森流の抜打に同じ事也 
読み解く
 英信流居合之事では十本目は抜打で大森流之事の十一本目抜打と同じ事と云って居ます。
大森流居合之事十一本目抜打
 座して居る所を向より切て懸るを其のまゝ踏ん伸んで請流し打込み開いて納る 尤も請流に非ず此所筆に及ばず

 大江先生の英信流抜打は長谷川流真向で現在は無双直伝英信流居合兵法立膝の部真向です。
大江先生の立膝の部真向
「正面に向って座し、腰を伸し趾先を立て、刀を上に抜き上段となり、同体にて切る此時両膝を左右に少し開く。血拭ひは其姿勢のまゝ刀を納め、伸したる腰は徐ろに正座に直り、刀の納まると同時に臀部を両足踵の上に乗せ、静に正座となる。」

 大江先生の大森流抜き打ち、無双直伝英信流居合兵法正座の部抜打となります。
「正面に座す、対座にて前の敵を斬る心組にて其正座の儘刀を前より頭上に抜き、上段に冠り、身体を前に少し出し、前面の頭上を斬る、血拭ひは中腰の同体にて刀を納む。」

 大江先生は、大森流は「刀を前より頭上に抜き」英信流は「刀を上に抜き」です。古伝の「向より切て懸るを其のまゝ踏ん伸んで請流し打込み」の心持ちが文面からは見られません。

 大江先生の系統も後に河野先生の頃から正座の部抜打に「もし敵斬り込み来たりてもその刀を受け流す気にて行う」とあり、真向にも「(右拳は顔前を通して頭上に)刀を左肩側より体を囲う様に剣先を下げて抜き取り・・」とその心持を伝えています。

 林安太夫政詡による英信流居合目録秘訣に「勝事無疵に勝と思ふべからず我身を先ず土壇となして後自然に勝有」と、相手に打たせて其の機に乗じ応じると言うものです。居合心を忘れては土佐の居合ではなくなってしまいます。

 何時誰が指導されたのか、闇討ちだまし討ちの様に、敵の動作など無関係に抜いて上段に振り冠り、跳び込んで大きな音を立てて打込む。何がこの業のポイントかもわからずになっているのではないでしょうか。

 抜打は本来大森流も英信流も江戸中期では同じであったのでしょう。
 刀を前に抜く、上に抜くいずれも相手が打込んで来る事を意識した動作であるべきものでしょう。
 一方的に斬り掛っていくのではない処が忘れられると闇打ちです。古伝は上に抜くのも横に抜くのも指定して居ません、どちらでもいいのでしょう。現代風に演ずれば大森流は横に抜き、英信流は上に抜く。坐し方も正座であれとは云っていません。
 英信流による立て膝による抜打も是と云って支障に成る事など見当たりません。現代居合では何故正座によって抜き打つのでしょう。そこが研究課題ですが答えは無いでしょう。

 この、抜打に付いては、「向より切て懸るを其のまゝ踏ん伸んで請流し打込み開いて納る 尤も請流に非ず此所筆に及ばず」の処を充分研究すべきものでしょう。「請流しに非ず」と云っています。
 「我身を先ず土壇となして後自然に勝有」を噛みしめてみますと、新陰流の合し打ちの心得を要求されている様に思えてなりません。

 

| | コメント (0)

2016年12月15日 (木)

曽田本その1の1神傳流秘書を読み解く4英信流居合之事9瀧落

曽田本その1
1.神傳流秘書を読み解く
4、英信流居合之事
9)九本目瀧落
瀧落
 刀の鞘と共二左の足を一拍子二出して抜て後を突き直ぐ二右の足を踏込ミ打込ミ開納る此事ハ後よりこじりをおっ取りたる処也故二抜時こじりを以て當心持有り
読み
瀧落(たきおとし)
 刀の鞘と共に左の足を一拍子に出して 抜きて後ろを突き 直に右の足を踏み込み打ち込み 開き納める 此の事は後ろより鐺をおっ取りたる処也 故に抜く時鐺を以って當てる心持ち有り


 これは立膝に座している時、後ろの相手が我が刀の鐺を掴んで抜かさない様に押し付けてくる。「おっ取りたる」は、「押し取って」「急いで取る」「ゆったり取る」などの意味ですから相手の動作により次の我が動作も決まって来るでしょう。

 ここは、後ろから我が鐺をゆったりと取られ、背中に押し付けられそうになるので、鐺を押し付けられるに任せてゆっくり立ち上がる。
 左足を前に踏み出すと同時に急に柄を右胸に取って鐺を持つ相手の手を外し、右足を踏み出し抜刀し、後方に振り向くや相手を突き、右足を踏み込んで真向に打ち下ろし、刀を横に開いて納刀する。
 これが大方の現代居合の瀧落でしょう。ただし「抜時こじりを以て當心持有り」は心持ちすら見られません。

 場の状況を「此事は後よりこじりをおっ取りたる処也」の追記で示してくれています。次の「故に抜く時こじりを以て当てる心持有り」は、鐺を外された相手が前にのめるならば出来るかもしれません。現代居合では見られない動作です。

 この神傳流秘書の手附では、現代居合の素養が邪魔します。鐺は掴まれたら現代居合の方法では、容易に相手は放してくれそうもありません。
 鐺を掴まれたまま、左足を後方に退いて、相手に背中で附け込み、左足を踏み出して柄を胸に引き付け、右足を踏み出し体前に抜刀して、同時に鞘を後ろに退いて鐺で相手に付き当てるや反転して相手に突きこむ事は出来そうです。此の場合相手の手は鐺から離れていようと否とに無関係で抜刀できる事が前提です。

大江先生の瀧落
後を向き、徐ろに立ちて左足を後へ一歩引き鞘を握りたる左手を其儘膝下真直に下げ、鐺を上げ後方を顧み、右手を膝上に置き同体にて左足を出し、右手を柄に掛け胸に当て右足を前に進むと同時に抜き、刀峯を胸部に当て、同体の儘左へ転旋して、体を後向け左足を前となし、其体の儘胸に当てたる刀を伸ばし刀は刃を右横に平として突き左(右の誤植か)足を出しつつ上段に取り、左膝を着き座しつゝ頭上を斬る、血拭ひ刀を納む。」

 大江先生の手附では、相手の手を放させる文言が見えません。又「抜時こじりを以て當心持」は有りや無しやです。

夢想神伝流の山蔦先生の瀧落
 「敵は自分の背に顔を向け約80cm離れて座っている想定。
鐺を掴まれ立ち上がり、鐺を右後上方に寄せ第一の振り払いを行うが敵は掴んだまま、左足を、爪先を下向きに浮かせて右にまわし、左ふくらはぎを右脛に付け、鷺足となり、同時に刀をしゃくるようにして右乳辺りに持って来て第二の振り払いにより敵手を振り払う。右手を柄に掛け左足をトンと着き、同時に右足を左足の右側30cm辺りに踏み付け、刀を右横やや上方に抜き上げ左へ廻り込む様にして、刀を上から下へ落す様に敵の胸を突く・・・
」*
複雑な足捌きが行われていますが、敵の手は手附通りには振り払えないものです。
振り返っての突きは、何故か上から突き下ろす様な表現です。刃は此の時上向きになっている様です。

 この業の事理をとやかくするよりも、この複雑な動作をそれらしく捌く事でしょう。鐺を掴まれて立つ、(振り捥ぐ)、抜刀し刺突する、真向に斬り下す。
 それぞれ気剣体一致の拍子が理解できなければただの剣舞でしょう。其れには繰返し設対者を設けて後ろから鐺を持ってもらう実戦同様の稽古が必要でしょう。但し、設対者が、業を知っていてどのようにしても握り締める様な事では外せないでしょう。

 瀧落の敵に握られた鐺は我れが相当の剛腕でも敵手は握りを解いてはくれません。かの中山博道先生も「日本剣道と西洋剣技」の中で「後方より武器を掴まれた場合、これを外すには、左、右と順次に対手の逆を行か、同時にこれを拂ひ外すかの二様あるが、この外すということは非常に困難な業で、沢山ある抜刀各流にも、その例はまことに少ない」と述べられています。

 古伝は「後よりこじりをおっ取りたる処・・刀の鞘と共二左の足を一拍子二出して抜て後を突き」と云っています。
 握られた鐺に固執せずに、左足を踏み出すと同時に、鐺を持たせたまま前に抜刀して「抜時こじりを以て(後方の敵に)當」振り返って刺突する。この方が理に叶っています。

 但し演武会でこのように演じれば、出鱈目をするなと大目玉でしょう。容易に出来ない、瀧落の鐺外しを出来て居る振りで演ずるのも愉快です。

| | コメント (0)

2016年12月13日 (火)

曽田本その1の1神傳流秘書を読み解く4英信流居合之事8波返

曽田本その1
1.神傳流秘書を読み解く
4、英信流居合之事
8)八本目波返
波返
 鱗返二同し後へ抜付打込ミ開き納る後へ廻ると脇へ廻ると計相違也
読み
波返(なみかえし・浪返)
 鱗返に同じ後へ抜付け打込み開き納める 後へ廻ると脇へ廻るとばかりの相違也
・・参考
七本目鱗返
 「左脇へ廻り抜付打込ミ開き納る(秘書には岩浪と同し事を記しあり口伝口授のとき写し違へたるならん)」
読み解く
 七本目鱗返しと同じと言います。鱗返が左脇へ廻るのに波返は後ろに廻るだけの違いだと言うのです。
 後ろに座す相手の害意を察し、刀に両手を掛け腰を上げ爪先立ち、鱗返同様左廻りに正面の相手に振り向くや、左足を引いて横一線に抜き付け、左足を右足踵に引付上段に振り冠り真向に打ち下ろし、刀を横に開いて納刀。
 現代居合では、鱗返も波返も右足を軸に左廻りです。鱗返は敵は我が右脇ですから左廻りが最短ですから当然でしょう。
 波返は真後ろの敵ですから左廻りでも右廻でも良い筈です。

 後ろの相手を抜き打つには、左廻りが絶対有効なのでしょうか。敵は真後ろでも、我が右脇、右後にも敵に転ずるかも知れない予備軍がいないとも限りません。
 大森流の當刀(後)も左廻りですが、大森流では右廻りしてもさしたる違和感は無く大森流右刀を180度回転にしたようなものです。

 鱗返の右廻は一旦180度真後ろに廻って更に90度右廻りするのではよほどの状況が無い限り不要でしょう。自然に最短で廻る筈ですから左廻りに為ります。
 波返しは、左右どちらでも180度廻るだけで同じ回転です、左廻りは立膝の坐し方では左足が右足より後に在るので右足先軸での左回転を妨げません。
 左足先を軸に右廻りしようとすると、右足が邪魔して左足の回転を妨げます。右足を軸にした右回転は左足の運用次第です。

 中腰に立上り、右足を軸に右廻りの回転に従って左足を常に体の後方にある様に移動させて後に振り返るや左足を後方に引いて抜付ける。
 今一つは、中腰に立上り右足を左足に添わせるか少し後方に引いてから右回転すれば容易に回転出来ます。
 もう一つ、中腰に立上り左足を右足の少し前に踏み出して左足を軸に右回転し後方に振り向くや右足を引いて抜付けます。

 更に、中腰に立上り左足を右足の前に千鳥に踏んで置いて左足を軸に右回転して右足を引き抜付ける、など幾つかやって見れば足捌きに依る体の運用が明確に把握できるでしょう。
 中腰に立ち上がらずに右回転も可能ですが、左膝を軸にした場合左足でも右足でも後方に引くのは厄介です。
 右足を引くか左足を引くかは右回転の際敵との間を瞬時に測る眼も大切です。
 古伝神傳流秘書にある抜刀心持之事、所謂現在の奥居合ですが、その三角や四角が右廻と左廻りの混合です。
神傳流秘書抜刀心持之事三角
「抜て身を添へ右廻りに後ろへ振り廻りて右脇を切る。
此の方法は幸いにも英信流居合目録秘訣の上意之大事に解説されています。
「三人併居る所を切る心得也ヶ様のときふかぶかと勝んとする故におくれを取る也居合の大事は浅く勝事肝要也三人併居る所を抜打に紋所のあたりを切先はづれにはろをときはびくとするなり其所を仕留也三人を一人づつ切らんと思ふ心得なれば必仕損ずる也一度に払ふて其おくれに付込で勝べし」
神傳流秘書抜刀心持之事四角
「抜左の後の角を突右の後の角を切る右の向を請流し左の向を切又右の向を切る也」
上意之大事
「三角にかわる事無し是は前後左右に詰合ふ之心得也故に後ろへ迄まわって抜付る也」
 左右いずれからも回転出来ても、現代居合の動作は左廻りが業の形です、業は千変万化するなどとんでもないと言う形をなぞるのが趣味の人の前で、右廻りして「業違」と言って笑われるのが落ちでしょう。
 冒頭の「鱗返に同じ」の文章によって鱗返の様に左廻りに後に振り向き抜き付けるのが古伝の指定した方法だと読み解くのが妥当でしょう。
 しかし波返の右廻も稽古しておくだけの心構えは欲しいものです。

 大江先生の浪返「後へ向き左より正面へ両足先にて廻り、中腰となる、左足を引き、水平に抜付け上段に取り、坐しながら前面を斬るなり」古伝に忠実です。

 曽田本ではこの業名は「波返」ですが現代居合は「浪返」と書くのが多そうです。業名の漢字はどちらが妥当でしょう。

波(は、なみ)
 波及・波紋・音波
 風などによって水面が上下して傾き、生じるなみ。転じて、なみだつ水面。なみのように伝わり及ぶさま。

浪(ろう、なみ)
 浪費・放浪
 清らかななみ、なみのようにとりとめもないさま、型にはまらずかってなさま。

| | コメント (0)

2016年12月11日 (日)

曽田本その1の1神傳流秘書を読み解く4英信流居合之事7鱗返

曽田本その1
1.神傳流秘書を読み解く
4、英信流居合之事
7)七本目鱗返
鱗返
 左脇へ廻り抜付打込ミ開き納る
(秘書にハ岩波と同じ事を記しあり 口伝口授のとき写し違へたるならん 曽田メモ)

読み
鱗返(うろこかえし)
 左脇へ廻り抜打ち打ち込み開き納める
(秘書には岩浪と同じ事を記しあり 口伝口授のとき写し違えたるならん 曽田メモ)
 
 鱗返の手附は曽田先生が書き改めてメモされたという事です。
 参考に、細川義昌邸より借用されたという、木村栄寿先生の「林崎抜刀術兵法 夢想神傳重信流 傳書集及び業手付解説」では神傳流業手付の英信流抜刀之事「鱗返」
右に向き居って左り廻りに向へ抜付左の足を引冠り打込み開き納る也」
細川本の読み
 「右に向き居って 左廻りに向うへ抜き付け 左の足を引き 冠り打込み 開き納るなり」
 曽田本の出処が不明なので比較すべきでは無い思いますが、細川本も鱗返しの手附は鱗返では無い手附が記されていたのではないかと推察します。
 それは、文章の表現が、神傳流秘書の英信流居合之事とは雰囲気が違うと思われるからです。
 「右に向き居って・・」の書き出しですが、英信流居合之事(英信流抜刀之事)ではこのように座して居る我を正面に対して右向きであることをまず述べた業手付は有りません。
 「左廻りに向うへ抜き付け」という二節目の我が動作から敵の所在を我が右脇と想定させているのが基本です。
 次に「左廻りに向うへ抜き付け 左の足を引き 冠り打込み」では左足を引く時が敵に抜き付けてからの様に受け取れます。「左へ振り向きり 左の足を引き 向うへ抜き付け」が神傳流秘書の手附けの有り様と思います。
 この鱗返しの手附は、書写の時、間違えたまま伝わり、後世の者が書き写す際手直ししたと思われます。
読み解く
 「左脇へ廻り」ですから、相手は我が左脇に座すのでしょう。
 左脇に座す相手の害意を察し、刀に両手を掛け、腰を上げ、爪先立つや右足を軸に刀を抜きつつ左廻りに相手に振り向くや、左足を引いて横一線に抜付け、倒れる相手に、上段に振り冠って斬り下ろし、横に刀を開いて納刀。

 現代居合の鱗返になってしまいましたが、相手の想定は様々です。
 殺意を口にするだけで、元のまま座している。
 我に振り向き我が柄を制しようとする。
 刀に手を掛け腰を上げた状況である。
 我が方に振り向いて抜刀しようと刀を抜きつつある。
 右足を踏み込まんとする寸前。
 立ち上がって抜刀寸前、などいくらでも仮想敵の想定は可能です。
 我も敵の動作に先んじて応じる心持を以て敵の首又顔面、或は奥義の柄口六寸に抜き付けなければなりません。
 相手が腰を上げ振り向いて抜き付けようとするならば、左足の引きは低く、立ち上がりつつあれば合わせて高くでしょう。

 古伝の極意は「柄口六寸」でした。
 左足を後方に引いて、横一線の抜き付け、下からの切り上げ、上に抜き上げていれば、高く抜き付けるなどでしょう。

 現代居合の無双直伝英信流の鱗返を稽古して見ます。
 テキストは北海道滝川の坂田先生の「無双直伝英信流居合道入門」昭和48年発行。坂田先生は初め夢想神傳流を20年近く修行され後に政岡壱實先生、山本晴介先生に講習会でお会いし無双直伝英信流を稽古されています。
 テキストから見ますと河野百錬先生の大日本居合道図譜に従い、谷田佐一先生の居合詳解に居合心を刺激されていたようです。古伝神傳流秘書も研究されておられます。

鱗返
 理合:我が左側に居る敵に対し立ち乍ら其の首に抜き付け、更に上段に振りかぶり斬り下す業である。
技法:正面に対し右向に立膝。
 刀を抜きかけつつ右足先を軸として左に廻りつつ低く中腰に立ち上り、正面に向って左足を後に引くや腰を伸して敵の首に一文字に抜き付け、左膝をつき乍ら上段に振りかぶり、敵の真向に斬り下し、血振り納刀。

 細川義昌先生系統かと思われる広島の白石元一先生の昭和12年発行の大森流・長谷川流・伯耆流居合術手引の鱗返は「左方に立てる敵に対して行う」とあります。左方に向き乍ら左足を退きて中腰となり、横一文字に敵の胴部を斬り・・。

 夢想神伝流山蔦重吉先生の鱗返は、中腰に立ち上がり敵に向くと同時に左足を後ろに引くや中腰のまま敵の座して居るこめかみに抜き付ける・・此の時敵は座したまま右向きで柄に手を掛けている状況の様です。左足を後方に引くのは相手との間に斬り間を作るためとか。

 大江先生の鱗返「中腰にて左足を引きて抜付け、此の抜付けは水平とする事・・中腰は両膝を浮かめて抜付けるなり(敵の甲手を斬る)*大江先生の(敵の甲手を斬る)の思いは、どこに引き継がれたのでしょう。政岡先生の居合に残されて居る様です。

 昇段審査や競技会などでは決められた形で抜き付ければよいだけの事ですが、地味ですが、稽古では想定を幾つか変えて抜き付ける位置によって左膝の高さを工夫する、或は抜き付ける拳の高さを変えるなど稽古の楽しさが倍増するかもしれません。
 ついでに一刀目の抜付け不十分の際の左足を右足に引き付け右足を踏出して打込むなどでしょう。
 古伝の無双直伝英信流には見られない、敵が刀を抜出しつつ立ち上がる処、下からの小手への切上げも稽古して見るのも良いと思います。

| | コメント (0)

2016年12月 9日 (金)

曽田本その1の1神傳流秘書を読み解く4英信流居合之事6岩浪

曽田本その1
1.神傳流秘書を読み解く
4、英信流居合之事
6)六本目岩浪
岩浪
 左へ振り向き左の足を引刀を抜左の手切先へ添へ右の膝の外より突膝の内に引後山下風の業に同
後山下風の業に同じ
 浮雲に同じ・・読み
岩浪(いわなみ)
 左へ振り向き 左の足を引き刀を抜 左の手切先へ添え 右の膝の外より突く 膝の内に引き 後山下風に同じ。  
参考
 後同前但足は右足也 浮雲と足は相違也
浮雲:・・抜付左の手を添へて敵を突倒春心尓て右の足上拍子に刀を春ねへ引切先を後へはね扨上へ冠り膝の外へ打込ミ後同前又刀を引て切先を後へはね春して取りて打込事も有
 切先を後へはね上へ冠り(膝の外へ打ち込み)後同前 又刀をはねずして取りて打込む事も有り
但足は右足也 浮雲と足は相違也切先を後へはね上へ冠り(膝の外へ打ち込み)後同前 又刀をはねずして取りて打込む事も有り 但足は右足也 浮雲と足は相違也
読み解く
 六本目の岩浪は敵は左脇に座しますから左身となります、敵が我に仕掛けんとするのでしょうか、それとも我が一方的に仕掛けるのでしょうか、ここも敵の仕掛けようとする動作は何も書かれていません。
 敵の怒りに満ちて殺意を含む言葉でしょうか。
 敵が刀に手を掛け抜かんとするのでしょうか。
 敵が我が方に乗り出して我が柄を取らんと手を伸ばすのでしょうか。
 敵が我が左手を掴んで我を制しようとするのでしょうか。
 それとも我れが一方的に敵に仕掛ける闇討ちでしょうか。 
 現代居合は、「敵の害意を察して機先を制する」と曖昧です。

 我は、立膝に座し、我が左に同じく立膝に座す敵が、我に害意を持って仕掛けんとするのを察し、刀に両手を掛けるや腰を上げ左足爪立ち、右足を軸に左廻りに左に振り向き、敵に対するや左足を後方に引くと同時に刀を抜出し、切先鯉口を出るや左手拇指と食指で切先に添え、切先を持つ左手甲を右膝外に付け、反動をつけて左膝を床に着くや敵の胸部を刺突する。
 左手を刀の棟に添え、右足を右に踏み開き刀を右足の内側に引く様にして敵を引き倒す。 刀を撥ね上げ上段に振り冠り右足を踏み込んで引き倒した敵の胴に斬り下ろし横に開いて右足を引いて納刀。これが大概の現代居合の岩浪でしょう。

 古伝は、敵に対し、我は刀に両手を掛けて左廻りに敵に向き、左足を引くと同時に抜刀するのです
 この運剣動作は、現代居合の夢想神伝流では、座した方向の後に左足を引いて刀を抜出し、左膝を着いて90度左に廻って敵に正対して刺突して居ます。同様に無双直伝英信流もその様です。
 無双直伝英信流山内派では「刀に手をかけ腰を浮かし左足を右足元に寄せ爪先を立て刀が相手に見えぬ様体に近く右方に抜く・・」と云う抜き様です。山内派と云っても大江先生の指導によった筈ですから、何処かで動作を変えてしまったのでしょう。

大江先生の岩浪
 右に向き、左足を後へ引き、刀を体前に抜き直に左手にて刀尖を押さへ、右膝頭の処へ着け、左足を右足に寄せ、体を正面に直し・・」ですから山内派の抜刀所作ではありません。
 山内派は「同一方向に列している左側の彼に対し知られざるよう刀を抜き突如其の方向に向き直り胸又は腹を突き・・」これでは、お殿様の闇打です。

 何れにしても、現代では、どの師伝でも、我が左に座す敵の害意を察知し、其の方に向き直ってから抜刀する事は無く古伝の動作は失念した動作でしょう。
 然し、古伝は、左に座す敵の方に振り向いてから左足を後方に引いて抜刀し切先を反転させて突き込むのですから、現代居合の奥居合居業の両詰を思い浮かべます。稽古をして、その理を得て見る事も良さそうです。

 無双直伝英信流正統正流では、左に座す敵が我が方に振り向き我が柄を取らんとするのを、刀に手を掛けるや、腰を上げ、爪先立つや後方に左足を引いて、刀の刃を上向きにしたままスッと抜き出し、敵の攻撃を封じてしまう、我は左に反転し敵を刺突する。

 夢想神傳流では、敵は右向きに坐したまま、始動しない前に右脇腹を刺突されます。敵は、所謂不意打ちをされるのでしょうか、動作に現れない害意に応じるには、素早い状況判断と、的確な動作が求められます。

 

| | コメント (0)

2016年12月 7日 (水)

曽田本その1の1神傳流秘書を読み解く4英信流居合之事5山下風

曽田本その1
1.神傳流秘書を読む
4、英信流居合之事
5)五本目山下風
山下風
 右へ振り向き右の足と右の手を柄と一所尓て打倒し抜付け後同前但足は右足也 浮雲と足は相違也
読み
山下風(やましたかぜ、やまおろし、おろし)
 右へ振り向き 右の足と右の手を柄と一緒にて打ち倒し 抜き付けあと同前 ただ足は右足也 浮雲と足は相違也
 後同前 但足は右足也 浮雲と足は相違也については
浮雲に同じ:左の手を添へて敵を突倒春心尓て右の足上拍子に刀を春ねへ引切先を後へはね扨上へ冠り・・浮雲同様抜き付けた後は、敵を突き倒し、切先をはねて振り冠って・・。
 但足は右足也 浮雲と足は相違也浮雲では膝の外へ(左膝の外へ)打込ミ・・山下風では右足を踏み込み打ち込む・・。


読み解く
 まず業名の「山下風」は現代居合では「颪」おろしの漢字が当てられています。「山颪」の二文字を使えば「やまおろし」です。どのように「やましたかぜ」を読ませたのでしょう。
 慶応2年1866年に下村派の下村茂市が島村善馬に授与した根元之巻には「山下」と書かれています。
 古伝は縦書きですから「山颪」の「おろし」を「下風」と書いて「山下風」をやまおろしと読ませたのでしょう。
 「颪」は山から吹き下ろす風の意味ですから現代居合は「颪」

 英信流居合の四本目浮雲と、五本目山下風は我が右脇に敵は座す、所謂右身の業技法です。敵は我に害意を持って仕掛けて来ようとする。
 古伝の山下風には敵の仕懸けがどのようであるか何も読み取れません。敵が我が柄を取ろうとするのも、敵が刀に手を掛けて抜かんとするも有りでしょう。

 我は右に振り向き「右の足と右の手を柄と一緒にて打倒し」については、敵の立膝に座す右足と、敵が刀の柄に手を掛け抜き付け様とする其の右手と柄を、我が柄頭と右足で打ち倒す。
 それとも、敵が我が柄を制しようとするので、其の手を外して、我が右足で敵の柄を踏み固め同時に我が柄で相手を打ち倒すのか。
 太田龍峰先生に依る中山博道先生の「山下嵐」の意義を読んでみます
「右側面に坐せる敵が抜刀せんとするを取り敢えず刀柄を以て其の手背を強打しヒルム所を抜刀して斬りつけ、其の倒るゝを再び正面より胴部に向かひ斬り下ろす業である。」
 無双直伝英信流の谷村派第17代大江正路先生の立膝の部「颪」を「剣道手ほどき」では「左向き腰を浮めて右斜めに向き、柄止め、・・」ですから、敵の抜かんと刀に掛けた柄をとめていたのでしょう。
 それが、第20代河野百錬先生は「浮雲と同様に我が柄を取らんとするを我れ柄頭を敵の顔面に当てる、敵退かんとするを直にその胸部に斬込み右に引倒して上段より胴を斬下して勝つ」(昭和17年大日本居合道図譜)
 恐らく、江戸末期には、幾つも替え業があって夫々想定が違って居たのでしょう。 

 柄頭を以て敵を打ち据え、敵後ろに反り返る間に、鞘を後方に引き腰を捻って敵の肩から胸に抜き付け、刀に左手を添えて、右足の方に引き倒し刀をはね上げ打ち下す。
 颪の場合の左足外への打ち下ろしは、現代居合では見られ無いのですが「後同前」に従ってみれば左足外かなと思えてしまいます。
 「但足は右足也 浮雲と足は相違也」ですから右足を踏み出して切り下す、足は浮雲と違うよ、と云って居ます。
 左足外への打ち下ろしは、その様な状況に出会った際慌てずに技を自然に繰り出せるように教えたものと解すべきかも知れません。
 古伝はおおらかですが、反面よく読んで文字の向こうにあるものを読み取ることもしなければただの抜けだらけで手におえないマニュアルです。

 敵が柄に手を懸け抜刀しようとするのか、我が柄を制止に来るのか、神傳流秘書の山下風からは読み取れませんが、どちらも有として学べる「山下風」です。
 現代居合の師伝を充分稽古した上で、「おおらかに」古伝の心持を汲み取れれば良いのですが、習った事だけしか出来ないのでは古伝は遠すぎます。

| | コメント (0)

2016年12月 5日 (月)

曽田本その1の1神傳流秘書を読み解く4英信流居合之事4浮雲

曽田本その1
1.神傳流秘書を読み解く
4、英信流居合之事
4)四本目浮雲
浮雲
 右へ振り向き足を踏みもぢ彳腰をひねる抜付左の手を添へて敵を突倒春心尓て右の足上拍子に刀を春ねへ引切先を後へはね扨上へ冠り膝の外へ打込ミ後同前又刀を引て切先を後へはね春して取りて打込事も有
読み
浮雲(うきぐも)
 右へ振り向き足をふみもじ彳(踏み込んでとまる) 腰をひねる抜き付け 左の手を添えて敵を突き倒す心にて右の足上拍子に刀を脛へ引き切り 切先を後へ撥ね 扨 上へ冠り膝の外へ打ち込み 後同前 又 刀を引きて切先を後へ撥ねずして取りて打込む事も有り
彳は、ぎょうにんべんですがチャク、とかテキとかの読みがあります。意味は「ついと前に進み出る、少し歩いては止まること、佇む」などを意味します。
 この業は、イメージが湧いてきません。恐らくこれだけではどのようにしたらいいのか見当がつかないほど抜けだらけなのでしょう。

読み解く
 現代居合の浮雲のテキストをベースにしてその上に古伝を乗せて見るばかりです。使われている言葉がまずわかりません。「もぢり」は捩る、振り向いて足を絡めるでしょう。
 「彳」はてき、ちゃく、意味は「ついと前に進み出る、佇む」。右へ振り向き足を絡めるようについと左足を踏み込み止めて、腰を左に捻り抜き付ける。
 左手を刀に添えて敵を突き倒す心持で、・・「右の足上拍子に」は意味が解りません。・・
 右足を右に踏む拍子に敵を右足の方に付き倒す様に引き切り倒し刀を右足脛に引き付ける。
 敵を引き倒すや刀を後ろに撥ね、上段に振り冠って、左膝の外側に相手の胴(首)に打ち込んで右に開いて納刀する。
 又は、刀を右足脛へ引いて相手を突き倒しそのまま相手を引き切って、切っ先を撥ねずに右より上段に振り冠って左足外に相手の胴(首)に打ち込む。
 

 何とか現代居合の浮雲が下敷きになって解読できたようですが、今一つ「上へ冠り膝の外へ打込み」が理解できずにいます。
 左膝外としたのは、右足の方に相手を引き倒したので、右膝外には相手の体は無いと見たのです。
 相手を引き倒すにあたり、刀を右足脛まで引き込んでも相手の体は左足外側までしか倒れこまないので、反撃される前に左足外に打ち込まざるを得ないのかもしれません。少々ドラマの見すぎでしょうか。想像力のなさでしょうか。
 左足で相手の袖、腕、肩を踏みつけ動かないようにして切りつけるとか・・・??。あれやこれや、らしき御説もある様です。
 この左足外の打ち込みは、解説抜きでこの流の居合はどこでも素直にやっていて愉快です。 

 この浮雲の現代居合の意義は河野百錬先生は「横に坐す右側二人目の敵が我が刀の柄を取らんとするを、外して敵の胸部に斬込み、右に引倒して其胴に斬下して勝つの意也」
(昭和17年1942年居合道図譜より)

 三人居並ぶ文言は大江先生・堀田先生共著「剣道手ほどき」の付録にある浮雲に括弧書きに追記の形で書かれていますが、動作にその必要性は見られません。
「・・・敵を引き倒し、直ぐに刀を肩上にかざし、上段にて正面に直り左斜めを斬る、此時膝頭外にて両手を止む、血拭ひ刀を納む。(敵三人並び一人の敵を置き先の敵を斬る時)

 神傳流秘書には三人である事は読み取れません。この英信流之事では、一本目から十本目まですべて一対一の攻防です。あえて四本目の浮雲を三人の攻防とする意味はあるのでしょうか。
 林六太夫守政以後の誰かが三人として、それらしく演じたのかも知れません。左膝外への打ち込みも疑問ですがそれ以上です。

 中山博道先生が谷村派の第16代五藤正亮の弟子森本兎久身に指導を受けて浮雲は「右側面に坐せる敵が我が刀柄を握ろうとする・・左足を僅かに右に踏み着けると同時に斬り下す。」(左膝外に斬り下しています)。

 先師の教えをいじくり廻した大家も左膝外に切り下す、之だけは守っているのが愉快です。
イチャモンつけずに教えられた通りやっていれば、何かひらめくことがあるかもと今日もそうしています。
 

| | コメント (0)

2016年12月 3日 (土)

曽田本その1の1神傳流秘書を読み解く4英信流居合之事3稲妻

曽田本その1
1.神傳流秘書を読み解く
4、英信流居合之事
3)三本目稲妻
稲妻
 左足を引き敵の切て懸る拳を拂ふて打込ミ後同前
読み
稲妻(いなずま)
 左足を引き 敵の切って懸かる拳を拂うて打込み あと前に同じ
読み解く
 この稲妻の手附を読んでいますと、「敵の切て懸る拳を払ふ」と云う処で、場の想定が幾つも駆け巡ります。
 
①敵は何処から来るのか、正面か、斜め右か、斜め左か、後か、何処から来ようと、応じられる心構えと、運剣動作は稽古して見ればと思います。
 此処は、一本目横雲から三本目稲妻までは、向身とされて居ます、向うは正面ですから敵は正面に居る事になります。従って左足を引いて正面に抜き付けです。
 
②敵は我に対して立膝で座していたのが、急に立ち上がって刀を抜いて来たのか。

③敵は我と同様に立膝に座していたのが、急に両手を刀に懸け、大森流抜打ちの如く腰を上げ爪立って刀を上に抜き上げ上段に取って打ち下さんとするのか。

④「左足を引き」は何故右足を踏み込まないのか。敵との間がある場合は、我れの方から踏み込む事も可能です。
 ここでは対座する敵の不意の攻撃に応じるとすれば、敵が打込まんとする瞬前に、左足を後方に引いて間を外すと同時に敵の打ち下さんとする両小手に抜き付けるのでしょう。

⑤「拳を払ふ」は、横一線の抜き付けと違うのか。
 敵が立ち上がって打込んで来ようとするならば、我も腰を上げ立ち上がり左足を引くや右拳は肩より高く斜めに抜き付ける。
 敵の打ち込みが速ければ腰を低く左膝も高く上げずに引き斜めに抜き付けるでしょう。

⑥敵が座して腰を上げて上段から打ち込まんとするならば、我は腰をあげ左膝を後方に低くく引き、肩より高く斜めに抜き付ける。此の場合は肩より高く横一文字もあり得るでしょう。

⑦敵が立って打込んで来るならば、小手を払われただけで崩れ落ちるとは言い切れないと思います。後方に引く相手を追いこんで左足を右足踵に引き付け上段に振り冠って右足を踏み込み真向に斬り下ろす。

⑧敵が低く抜き打って来るならば、我も低く抜き付けるわけで、此の場合は敵との間合いによって左膝を右足踵に付けて座して真向に打込むのでしょう。

⑨現代居合では、中腰に立ち上がり左膝を低く浮かし抜き打ちに敵小手を払い、左膝を右足踵に着いて、上段より敵を切って居ます。

⑩敵が高く上段から打込まんとするのに対し、立ち上がり左足を伸ばし上体を起し抜き付ける様にする所も有ります。それでも左膝を右足踵に送り込んで座して上段から打ち込んでいます。

 いずれにしても、敵の動作に応じた対応であるもので、どれも稽古すべきものでしょう。高く立って打ち込もうとした敵の小手を切っているのに、左膝を着いて相手の頭上に斬り下ろす想定が描けずに困ります。敢えて真向打ち下しが敵の頭上であると思う必要も無いとは言え
 小手を切られて前に本能的に崩れ落ちるとも云われますが、いかがなものでしょう。

河野先生の大日本居合道図譜の稲妻
「正面に対座する敵、上段より斬付けんとする機先を制し其甲手に斬付け直に真向に打下して勝の意なり。
 中腰に立ち上がるや左足を一歩後方に退き腰を左に捻りて敵の甲手に斬り付ける、之より左膝をつきつつ諸手上段となり斬下し・・」

政岡先生の地之巻の稲妻
「正面に向って座す所へ正面から斬り下して来られたので、すばやく籠手に応じ、真甲から切下す動作。
 左足を引き、中腰のまま体を開き籠手に応ず、左膝を右足の処まで送りつつふりかぶる。」

 両先生とも、上段から切って懸られるのを、河野先生は、左足を引いて左に腰を捻り(開き)敵の拳に抜付けています。政岡先生は、大きく鞘送りして、柄頭を敵に向け、打ち込んで来る右籠手を、鞘引きするや左上から斜めに斬り付けています。
 
 土佐の居合の極意である柄口六寸の教えに相当する業の一つでしょう。敵と間合いによっては右足を踏み出して先をとる抜付けも、ついでに稽古しておけば頭が柔らかくなります。
 もう一つついでに、左足を引いて水平に胴に抜付ければ夢想神傳流の横雲になります。
 ・
 政岡先生は「左足を引き、中腰のまま体を開き籠手に応ず」ですから右半身になって筋を替って抜き付けると読みたいのですが、左足を後方に真直ぐ引くのですから、筋は変われません。演武では敵の斬り下す右小手を、刀を抜き上げて左から右へ斜めに斬り下して居る様です。この籠手への抜き付けには、新陰流の斬釘截鉄による片手抜刀が使えそうです。

 河野先生の場合も、左足を引けば自然に右半身になるのですが、甲手に抜刀の基本である「腰を左に捻りて敵の甲手に斬り付ける」横一線の抜き付けのようです。筋を替る意識は見られません。

 当代はこの抜付けを「上段より我に斬り付けんとするその甲手(両内甲手又は左内甲手)に我れ斬り付け・・」と斬り付け部位を特定しています。

 此の業は田宮流の表之巻一本目にある稲妻と業名と動作が似ています。妻木正麟宗家の想定では「対座している敵が立ち上がって右斜め前方から上段から切りかかろうとするので、我はすばやく立ち上がりつつ敵の肘に抜き付け。さらに真っ向から切り下ろして勝つ」と云うものです。

 

| | コメント (0)

2016年12月 1日 (木)

曽田本その1の1神傳流秘書を読み解く4英信流居合之事2虎一足

曽田本その1
1.神傳流秘書を読み解く
4、英信流居合之事
2)二本目虎一足
虎一足
 左足を引き刀を逆に抜て留め扨打込ミ後前に同し
読み
虎一足(とらいっそく)
 左足を引き 刀を逆に抜きて留め 扨 打込み 後 前に同じ

読み解く
 現代居合では、敵が我が右足に薙ぎ付けて来るのを、敵刀を受け払う気持ちにて受け止め、上段に振り被って真向に斬り下す、と無双直伝英信流も夢想神伝流も教えています。
 相対して立膝に座す敵が、同じく座す我が右足に抜き付けてくる想定は疑問です。立って攻め込んで来る敵であれば右足などに斬り付けるわけも無さそうです。
 敵の害意を察して刀に手を掛け抜出しつつ腰を上げる処、敵は我が右足に抜きつけてくるならば解かります。
 
 立膝ですから腰を上げれば右足は左足より前ですから右足に抜きつけられたならば、右足を引いて外すこともできます。
 古伝は「左足を引き」ですから右足は誘い足となります。或は、敵が我が右肩に斜めに斬りつけて来るので、左足を引いて外したが右足に流れて来るので、之を受け留める事も出来そうです。
 しかし、次の「刀を逆に抜きて留め」がとても気になります。口伝口授の秘められた失伝した奥義でしょう。

 柄口六寸の奥義を思い描くならば、相手が刀の柄に手を掛け抜き出さんとする右小手に我は左足を引いて刃を下向きに返して抜き付け、上段に振り冠って真向に打ち下ろし、刀を横に開いて納刀する。これが古伝であったかも知れません。

 この業は、神傳流秘書にある詰合の一本目「発早」に見られる動作に類似します。この辺りの動作に古傳の奥義が潜んで居そうです。組太刀を申し合わせの形としてしか理解出来ない人には何も得られない仕組みです。
 大森流(正座の部)八重垣の受払の動作とも類似します。
 詰合の一本目発早を読んでみます。
「楽々居合膝二坐したる時相手左の足を引下へ抜付るを我も右の足を引て虎の一足の如く抜て留め打太刀請る上へ取り打込ミ勝也」


 詰合の一本目発早では、双方居合膝に坐す。相手が刀を抜きつつ腰を上げ抜き付けんとするので、我も刀を抜きつつ腰を上げるや、相手が左足を引いて我が出足の右足に抜き付けて来る、我も左足を引くや相手の抜き付けを受け払う、我は即座に左足膝を右足踵に引き付け上段に振り冠って真向に打ち込み勝つ。相手は物打ちに左手を添え顔前頭上で我が打ち込みを受け負けを示す。

 この古伝の業は現代居合の技法では、思いは達せられそうも無い様な気がします。詰合之発早の手附を古伝の虎一足の稽古の形とも思えますが、それはそれで、相手の抜き付けんとする柄手に逆刀で抜き付け制する、失念した柄口六寸が気になって仕方がありません。

| | コメント (0)

2016年11月29日 (火)

曽田本その1の1神傳流秘書を読み解く4英信流居合之事1横雲

曽田本その1
1.神傳流秘書を読み解く
4、英信流居合之事
1)一本目横雲
横雲
右足を向へ踏出し抜付打込ミ開き足を引て先に坐したる通りニして納る
読み
横雲(よこぐも)
 右足を向へ踏み出し 抜き付け打込み開き 足を引いて先に坐したる通りにして納める

読み解く
 「坐したる通りニして納る」と有るのですが英信流居合の座し方がどこにも示されていません。「是は重信翁より段々相伝した居合」であれば、正座である事は風習から考えてあり得ないでしょう。胡坐か立膝でしょう。
 どの様な胡坐かどの様な立膝かは解りそうも有りません。
 そこで、座仕方は今日まで伝承されている、右足を立て左足を折り敷いた座仕方、或は右足を立て左膝を着き爪先立って腰を挙げた蹲踞としておきます。

 立膝で対座する敵の害意を察し、我は正面に右足を踏み出し横一文字に抜き付け、上段に振り冠って真向に打ち込み、刀を横に開いて刀を納めつつ踏み出した右足を引いて座して居た様にして納める。

 この古伝によると、英信流居合の横雲は、右足を踏み出し抜き付けるのです。無双直伝英信流の現代居合もこの手附に従っているのでしょう。
 左足を後方に引いて抜き付ける夢想神伝流の横雲は古伝をいじってしまった様です。大森流(正座の部)で右足を踏み出したのだから、英信流(立膝の部)は退き足に依る抜き付けを覚える業と決めつけるものでは無いでしょう。どちらも充分稽古して見たいものです。ついでに正坐しての英信流を演じられればとも思います。

 夢想神伝流の山蔦先生の横雲は「初伝の初発刀と同じ要領で抜き付けるが、一歩踏み出すのに反し左足を後ろに引くと同時に抜き付ける。相手との距離が充分ある時は右足を一歩踏み出して抜き付けるもあるが、業の基本としては左足を引いて抜き付ける」

 下村派細川義昌系統と思われる広島の白石元一先生の「大森流・長谷川流・伯耆流居合術手引」に依りますと横雲は「右足を踏み出すと同時に横一文字に敵の右眼に斬りつけ、更に左膝を右足踝の所まで十分引きつけると同時に刀を左方より振り冠り、右足を踏み出すと同時に斬り下ろす」
これでは、夢想神伝流が細川先生に辿れるとも言い難くなります。

 古伝は先師の精進によって生み出された業技法であり、それを元にした業の組み合わせ順なのです。ですから、英信流ならば一本目から11本目まで通して抜き、その繰り返しによって運剣動作を学ぶ事で気剣体一致を自得するとなる筈です。
 立膝の一つの業を上手くなろうとして繰り返し稽古しますと、膝を痛めてしまいます。通して抜く事によって、膝への負担が緩和される様にも思います。
 ある程度業における動作を覚えたら英信流(立膝の部)を通しで稽古することを特に膝が心配な50歳以上の方にお勧めします。

 古伝はおおらかです、師伝によって技を演じ古伝の求めるものが掴めれば良いのですが、特定の仕方をすべてとされる単純な武的演舞派の師匠のもとでは古伝は横を向いてしまいます。

 ある大家曰く
「古伝など幾ら読んでみても何も解らない、無駄な事」
「古伝の動作は復元出来るわけはない」

 にもかかわらず、「元はこうだった」???何が元なのでしょう、知ったかぶりもいい加減にしてほしいものです。

 もう一つ、正座による初発刀(前)の抜き付けと、立膝による横雲の抜き付けは何が違うのでしょう。

 座仕方の違いから、立膝は左足爪先立って腰を上げると、当然右膝はすでに立って居ます、右足は左膝の位置に土踏まずが有る筈です。ですからすでに右足は正座の踏み込みの半分ぐらいの距離を稼いでいるのです。
 其の上すでに体構えは出来ています。右足を少し踏み出すばかりなのです。この違いを剣先に如何に有利に乗せられるかがポイントでしょう。

 中山博道先生も「右足を僅か前方に踏み出し大森流の初発刀と同様に抜刀して直ちに頭上に振り被り・・」でした。この英信流との違いを中山博道先生亡き後なぜ理解出来なかったのでしょう。
 立膝の座し方が不充分で「どっこいしょ」と腰を上げる方には無関係な話ですが・・・。

 それから、大凡70歳過ぎの師匠の所に入門しますと、師匠は立膝の居合は出来なくなっています。其の為に立膝の正しい指導が疎かになるきらいがある様です。その様な道場では、教士や八段になっても英信流や奥居合が出来ない人を見かけます。それでは指導者としての資格を疑います。
近年は高齢者の入門が目立ちます、稽古法にも工夫が必要ですが、昔ながらの方法では益々業技法は廃れていくでしょう。

| | コメント (0)

その他のカテゴリー

介錯口伝・他・神妙剣 | 女剣士 | 居合兵法の和歌15-7 | 居合兵法極意巻秘訣15-6 | 居合兵法極意秘訣15-3 | 干支を読む | 幻を追ってその7 | 幻を追ってその8 | 幻を追ってその9 | 文化・芸術 | 旅行・地域 | 日記・コラム・つぶやき | 書を楽しむ | 曽田本その2を読むの2 | 曽田本その2を読むの3 | 曽田本その1の1神傳流秘書を読み解く始めに | 曽田本その1の1神傳流秘書を読み解く1抜刀心持引歌 | 曽田本その1の1神傳流秘書を読み解く2居合兵法伝来 | 曽田本その1の1神傳流秘書を読み解く3大森流居合之事 | 曽田本その1の1神傳流秘書を読み解く4英信流居合之事 | 曽田本その1の1神傳流秘書を読み解く5太刀打之事 | 曽田本その1の1神傳流秘書を読み解く6坂橋流棒 | 曽田本その1の1神傳流秘書を読み解く7重信流1詰合 | 曽田本その1の1神傳流秘書原文1抜刀心持引歌 | 曽田本その1の1神傳流秘書原文始めに | 曽田本その1の1神傳流秘書原文2居合兵法伝来 | 曽田本その1の1神傳流秘書原文3大森流居合之事 | 曽田本その1の1神傳流秘書原文4英信流居合之事 | 曽田本その1の1神傳流秘書原文5太刀打之事 | 曽田本その1の1神傳流秘書原文6坂橋流棒原文 | 曽田本その1の1神傳流秘書原文7重信流1詰合 | 曽田本その2を読む | 曽田本その2を読むの4 | 曽田本スクラップ土佐の居合 | 曽田本スクラップ居合 | 曽田本スクラップ戦時下 | 曽田本免許皆伝目録15-11 | 曽田本業附口伝15-10 | 曽田本神傳流秘書を読み解く | 曽田本神傳流秘書原文 | 白石元一居合術手引 | 神傳流秘書14-10英信流目録小太刀之位 | 神傳流秘書14-1序 | 神傳流秘書14-2引歌及び伝来 | 神傳流秘書14-3大森流・英信流・太刀打 | 神傳流秘書14-4棒 | 神傳流秘書14-5詰合 | 神傳流秘書14‐6大小詰・大小立詰 | 神傳流秘書14‐7大剣取 | 神傳流秘書14‐8抜刀心持之事 | 神傳流秘書14‐9夏原流和之事 | 秘歌之大事 | 稽古の日々 | 英信流居合目録秘訣15-4 | 英信流目録15-8 | | 道場訓