曽田本その1の1神傳流秘書を読み解く9抜刀心持之事

2017年5月31日 (水)

曽田本その1の1神傳流秘書を読み解く9抜刀心持之事22戦場之大事

曽田本その1
1.神傳流秘書を読み解く
9、抜刀心持之事
22)二十二本目軍場之大事
軍場之大事
 具足のゆるきを取り押上る心得肝要也故に着料之具足は押上られてものど二つかざる様二仕置べきなり高き所などより飛ふ時おのづとのどにつかゆる事有るもの也 心得二有儀なり
読み
軍場之大事(ぐんばのだいじ、いくさばのだいじ)
 具足の緩きを取り 押し上げる心得肝要也 故に着料の具足は 押し上げられても喉に付かざる様に仕置くべきなり 高き所などより飛ぶ時 自ずと喉に閊ゆる事あるもの也 心得に有る儀なり
読み解く
 軍場之大事についての解説は、具足はしっかり着用して緩い処が無いようにして置け、さもないと、押し上げられたり、飛び降りた時にのどにつかえさせるなという心得です。どこか抜刀心持之事には似つかわしくない心得です。
以上で抜刀心持之事を終了しましす。
現代居合の奥居合居業、立業と抜刀心持之事の業名を対比しておきます。
 
 抜刀心持之事    無双直伝英信流奥居合現代
 一本目 向拂      一本目 霞
 二本目 柄留      二本目 脛囲
 三本目 向詰      七本目 両詰
 四本目 両詰      三本目 戸詰
                四本目 戸脇
 五本目 三角      無し 五本目 四方切 
 六本目 四角      無し 五本目 四方切
 七本目 棚下      六本目 棚下
 八本目 人中      十七本目 壁添
 九本目 行連      十本目   連達
 十本目 連達      十四本目 行違
  十一本目 行違    十五本目 袖摺返
  十二本目 夜之太刀  十三本目 信夫
 十三本目 追懸切   無し
 十四本目 五方切   十一本目 惣捲り
 十五本目 放打     十二本目 總留
 十六本目 虎走     八本目 虎走
 十七本目 抜打上   十九本目 暇乞一
        抜打中   二十一本目 暇乞二
        抜打下   二十本目 暇乞三
 十八本目 抜打    無し
 十九本目 弛抜     無し(十八本目 受け流し)
 二十本目 賢之事    無し(夢想神傳流袖摺返)
 二十一本目 クヽリ捨 無し(夢想神傳流門入)
  二十二本目  軍場之大事 無し

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2017年5月29日 (月)

曽田本その1の1神傳流秘書を読み解く9抜刀心持之事21クヽリ捨

曽田本その1
1.神傳流秘書を読み解く
9、抜刀心持之事
21)クゝリ捨
クゝリ捨
 -手附記載なしー
読み
クヽリ捨(くゝリすて)
 -手附記載なしー

読み解く
 クヽリ捨(くゝりすて)
 -手附記載なしーですから読み解くことはできません。

 細川家による、木村栄寿本「林崎抜刀術兵法夢想神傳重信流・・」でも「神傳流業手付」の抜刀心持之事には「クヽリ捨」には手附の記載は有りません。
 檀崎先生や山蔦先生は大江先生の「門入」を「隠れ捨」の業名として当てておられます。
 大江先生の門入も古伝には相当する業が見当たりませんのでこれも疑問ですが、現代居合として継承されています。
 檀崎先生や山蔦先生は中山博道先生の指導を受けられたという事ですが、中山博道先生の居合は、大森流・長谷川英信流までは手附が残されていますが奥居合に関しては謎です。いずれにしてもその真相は手持ちの資料では不明です。
 
 土佐の居合の手附は神傳流秘書よりも古いものは現存せず、江戸時代末期までの伝書類も乏しく現代居合への変遷は辿れません。
 抜刀心持の両士引連・賢之事・クヽリ捨は、神傳流秘書に於いてー手附記載なしーなので第9代林六大夫守政が江戸から、土佐にもたらした時には既に業名ばかりであったのかも知れません。
 
 流派の業技法は、その時代の指導者の心得違いや、時代の趨勢によって変化して行くのもやむおえない事でしょう。
 然し、現代では、変えた時にはその理由を明らかに示すのも指導者の責任です。
 棒の振方りばかりの指導で、「業手附の解釈は俺はこう考える」だけでは、古参の者から「先代の方が良かった」と言う感情論だけが浮かび上がって本論が見えなくされてしまいます。
 挙句は「居合を学ぶには元より其の流儀の形を重んじ、苟もこれを変改するが如き事無く錬磨すべきである」と言いつつ「其の習熟するに於いては、何等形の末節に拘泥する事無く、各流を一貫する居合本来の精神を悟りて、日夜錬磨の功を積み、心の円成に務め、不浄神武不殺の活人剣の位に至るを以て至極となす(第20代河野百錬先生の無双直伝英信流居合道昭和13年1938年より)」として己の「形の末節」の正統性を云々するのでは、日夜研鑽せずとも時至りて思いもよらぬ允可を得て功成り名遂げたと錯覚する者には「形の末節」ばかり気になるものです。
 

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2017年5月27日 (土)

曽田本その1の1神傳流秘書を読み解く9抜刀心持之事20賢之事

曽田本その1
1.神傳流秘書を読み解く
9、抜刀心持之事
20)ニ十本目賢之事
賢之事
ー手附記載なしー
読み
賢之事(かしこのこと・けんのこと?)
ー手附記載なしー
読み解く
ー手附記載なし・・・によって不明。
 木村栄寿先生の「林崎抜刀術兵法 夢想神傳重信流・・神傳流業手付」にも「賢之事」の手附は記載されていません。
 この木村先生の「神傳流業手付」は天保12年1841年に坪内清助長順より島村右馬亟に授与したものです。ここには、両士引連・賢之事・クゝリ捨の三本がありますが何れも手付は記載されていません。
 夢想神傳流の山蔦重吉先生の昭和47年1972年発行の「夢想神伝流居合道」には、両士引連・賢之事・クゝリ捨の業手附解説がなされています。
 両士引連は、古伝抜刀心持之事の「行違」のような業です。
 賢之事は、無双直伝英信流第17代大江正路先生の奥居合立業の「袖摺返」を当てて居ます。袖摺返は古伝神傳流秘書の「行違」の替え業の様です。
 クゝリ捨は、「隠れ捨」とされ大江正路先生の奥居合立業の「門入」の業名を当てています。
 同様に夢想神伝流の壇崎友影先生の、昭和54年1979年発行の「居合道教本」では賢之事は、大江先生の袖摺返ですから古伝の「行違」ですし、クゝリ捨は「隠れ捨」で大江先生の「門入」と思われます。両士引連は記載がありません。
 此の居合道教本より古い昭和44年1969年発行の夢想神傳流居合では、古伝の業名称を付さずに、大江先生の奥居合の業呼称として「袖摺返」・「門入」として記載しています。この業名の扱い方も居合道教本の前にありながら疑問です。
 夢想神傳流の居合の元が、中山博道先生の居合であれば、奥居合の業手附は何処にもそれらしき、書き物は見当たりません。従って、奥居合を博道先生がお弟子さん方に本当に指導されたのか疑問です。
 譬え、書き付けられた手付が有ったとしても、中山博道先生の居合の指導者は、土佐の居合の谷村派の第16代五藤正亮先生の弟子森本兎久身先生ですから、古伝の業を指導されたかは疑問です。
 谷村派からの古伝の伝書類の公表は見られませんので、抜刀心持之事は現代居合の奥居合との検証も不十分です。
 大江正路先生が明治時代に土佐の居合を改変されたという事実を証明する事すらできない状況です。改変されたならばその改変理由さえも不明です。
 明治の後半以降に習い始めた中山博道先生に森本先生が全業を指導されたとも思えません。たとえ習っていたとしても博道先生がお弟子さん方に伝授されていればその手附がある筈ですがそれも不明です。
 
 抜刀心持之事の両士引連・賢之事・クゝリ捨の業について、現在の段階では業技法を示唆する手附は無いと云えます。
 山蔦先生、檀崎先生の教本の「両士引連・賢之事・クゝリ捨」は、出典若しくは指導者名が明らかにされない限り、追跡しての確証が得られません。
 
 
 

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2017年5月25日 (木)

曽田本その1の1神傳流秘書を読み解く9抜刀心持之事19弛抜

曽田本その1
1.神傳流秘書を読み解く
9、抜刀心持之事
19)十九本目弛抜
弛抜
 如前歩ミ行敵より先に打を躰を少し開き弛之て抜打に切也
読み
弛抜(ゆるみぬき・はずしぬき)
 前の如く 歩み行く 敵より先に打つを 躰を少し開き弛して 抜き打ちに切る也
参考 如前の十八本目抜打
 歩み行中に抜打二切敵を先二打心也
読み解く
 この業は、手附をよく読み、現代居合の奥居合立業の「受流」と違う事に気が付きます。それは「敵より先に打を躰を少し開き弛之て抜打に切」の所です。
 敵が斬って来るのを、体を少し開いて敵の刀を弛し(外し)て、敵を抜打つのです。
 双方歩み行き間合いに至るや、相手が抜刀して真向に斬り下ろして来る、我は両手を刀に懸けると同時に、右足右斜め前に少し踏み込み体を開き、右半身となって相手の打ち込みを外し、左足を右足に追い相手の真向に打込む。敵の打ち込みを外してしまえば真向でも片手袈裟でも横一線の抜き付けでも、下からの切上げでも状況次第に応じられるものです。

 稽古ではまず「体を少し開き弛之て」ですから刀を上に抜上げ左足前ならば右に、右足前ならば左に筋を替えて相手の打ち込みを外し同時に斬り下ろすでしょう。
 
 或いは、右足前ならば左足を右足前右にチドリに踏込み右足を右に踏込み体を左に開きつつ刀を抜上げ敵の打ち込みを外すや真向に切り下す。これは奥居合立業の受け流しの「かたち」となりそうです。但し請けて流すのではないと考えます。
 
 夢想神伝流の山蔦先生の居合では「弛抜」を「受流」とされている様ですが、受け流しとは違います。相手の太刀を我が太刀で受けるのでは無いのです。安易に太刀で請ける事は進められません。
 「抜き打ちに切」ですから刀を上に抜き上げ片手でも諸手でも斬り下ろすのでしょう。
 全剣連の制定居合の12本目の場合は「前方の敵が突然切りかかって来るのを刀を抜き上げ乍ら退いて敵に空を切らせて、真向に切下す」ので是は仕掛けられたのに応ずるものです。前回の「抜打」に上げておきましたが、これは「刀を抜き上げ乍ら退いて敵に空を切らせて」ですから後方に退いて敵の刀を外しています。此処では「躰を少し開き弛之」です。退くと開くは違います。
 細川義昌先生の系統と思われる白石元一先生の居合術手引では「弛抜(ゆるみぬき・はずしぬき)」を「馳抜(はせぬき)」としている様でこの出典は解りません。恐らく「弛」と「馳」の弓偏と馬偏の崩し字による取り違いから生み出されたとも思われます。
馳抜(双方駈足にて摺違ひ様に行ふ意)
 正面に対し立姿小走に馳せ摺れ違ひ様右足を中心に左足を斜右前に踏み出して斜右後向きに方向を転じつゝ刀を抜き右足を左足に引きつけ上段に振り冠り、右足を踏み出すと同時に斬りつく。
 是は神傳流秘書の抜刀心持之事の11本目「行違」の替え技の様です。
行違
 行違に左の脇に添へて拂ひ捨冠って打込也
 参考に、敵に真っ向から切って懸られた場合、左足をやや左前に踏み刀を抜き上げ右足を稍々左に踏込み筋を外し、打ち込んで来る敵の右拳に右足通りに打ち込む、新陰流の「斬釘截鉄(ざんていせってつ)が使えそうです。
 

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2017年5月23日 (火)

曽田本その1の1神傳流秘書を読み解く9抜刀心持之事18抜打

曽田本その1
1.神傳流秘書を読み解く
9、抜刀心持之事
18)ニ十本目抜打
抜打
歩み行中に抜打二切敵を先二打心也
読み
抜打(ぬきうち)
 歩み行く中(うち)に 抜き打ちに切り 敵を先に打つ心也

読み解く
 前回に続き、業名が「抜打」という事で同じです。前回の抜打は「暇乞上中下」と曽田メモがありますが、曽田先生の書写された古伝神傳流秘書では「抜打上中下」です。
 
 歩み行き敵との間に至れば抜打ちに切る、敵に先に打ち込む心持ちである、と云うのでしょう。是もどうやら不意打ちの心得の様です。特段の業技法の手附けは何も有りません。
 
 歩み行きながら、左足が出た時、鍔に左手を掛け、右手を柄に掛けて、敵の中心に向って抜き出し「敵を先に打つ心」ですから右足を踏込み、横一線に抜き付ける、敵の右肩に片手袈裟切り、上に抜き上げて片手真向。
 刀を抜き上げ、上段に振り冠って左手を柄に掛け両手にて、真向に打ち下すも出来そうです。
 歩み行くうち、間境にて左足で間を越すや、左手を鍔に掛け、左足に右足を踏み揃え、刀を抜き上げ左手を柄に掛けるや、左右に足を踏み開き、真向に打ち下す。人中・現代居合の壁添の抜打ちです。
 いずれでも古伝はおおらかです。

 全剣連の制定居合の12本目の場合は「前方の敵が突然切りかかって来るのを刀を抜き上げ乍ら退いて敵に空を切らせて、真向に切下す」ので是は仕掛けられたのに応ずるものです。

 此の古伝の立っての抜打を伝える業は細川先生系統と思われる白石元一先生の抜打に見られます。
「放打の如く左足にて抜刀用意、右足を踏み出すと同時に右片手にて正面に斬りつけて納刀」
 片手打ちですが真向に打ち下していますし、右足を踏み込んでいますから是はこちらから仕掛けたと読めそうです。

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2017年5月21日 (日)

曽田本その1の1神傳流秘書を読み解く9抜刀心持之事17抜打

曽田本その1
1.神傳流秘書を読み解く
9、抜刀心持之事
17)抜打 上中下 以上十九本
 
 (暇乞三本)(格ノ低キ者二対スル黙礼ノ時。等輩二対スル礼ノ時。目上ノ者二対スル時ノ礼ノ時 曽田メモ)
読み
 抜打(ぬきうち)上中下(じょうちゅうげ)  以上十九本
 
(暇乞三本(いとまごいさんぼん))(格の低き者に対する黙礼の時。等輩に対する礼の時。目上の者に対する時の礼の時 曽田メモ)
読み解く

*古伝神傳流秘書の抜刀心待之事「抜打」は、現代居合の「暇乞」と同じであったかどうか疑問です。
 曽田先生の書き写しでは、「抜打 上中下 以上十九本」となっていますが、メモでは暇乞三本と書き込まれています。「格ノ低キ者二対スル黙礼ノ時。等輩二対スル礼ノ時。目上ノ者二対スル時ノ礼ノ時」の三本で、虎走までで十六本ですから、暇乞三本を加え抜刀心持之事は十九本と云う事になります。

 抜打上中下については、自分より格が低い者へ、同輩の時、目上の時と有りますが、動作においては特にどの様にするのか何も目安はありません。
 曽田先生のメモでは、自分より「格の低き者に黙礼」ですから順次手を床に着く、頭を低く下げるなどの格式に応じた暇乞いの時の礼法が明確だったので、それに従い礼をした上で不意打ちを仕掛けたものと考えられます。

 現代居合の暇乞その1、その2、その3の方法と変わらなかったかも知れませんが不明です。
 曽田メモの身分による礼の仕方の違いと抜き方との関連についても不明です。礼法の専門家による礼法のありようはあるでしょうが、平成のこの時代では身分格式における礼法は既に失われていると思います。
 現代居合では演武に入る前の神前への礼、刀への礼に最も敬意を表する礼が残されています。それは否定するつもりはありませんが、人と人との礼法を身分格式に応じたものとする礼法は忘れられています。
 高級料亭や旅館で請ける礼は「ゆかしい」反面、日常では違和感を覚えます。


 英信流居合目録秘訣では極意の大事の項目の始めに心得があります。
 暇乞「仕物抔を云付られたる時抔其者之所へ行て四方山の咄抔をして其内に切べし隙無之ときは我が刀を取て又近日と立さまに鐺を以て突き倒し其儘引ぬいて突也又は亭主我を送て出るとき其透間を見て鐺にて突たおして其儘引ぬいて突くべし」


 上意を命じられ、抜刀のチャンスが得られず、場を去り際に暇乞の心得を顕わしたもので、不意打と考えられ、決して相手に仕掛けられたから応じたという風にはとらえられません。

 「暇乞いは上意討ちとも称される。主命を帯びて使者に立ち、敬礼の姿勢より抜き打ちする意にして、彼我挨拶の際、彼の害ある動向を察知し、其の機先を制して行う刀法」とされています。(第22代池田宗家の夢想直伝英信流居合道解説より)

 これは、第17代大江正路先生の「剣道手ほどき」から奥居合立業の部の19番暇乞(黙禮)・20番(頭を下げ禮をする)・21番(中に頭を下、右同様に斬る)によると思われます。
19番暇乞(黙禮)「正座し両手を膝上に置き黙禮し、右手柄に掛かるや刀を斜に抜き付け上段にて斬る」
20番(頭を下げ禮をする)「両手を板の間に付け、頭を板の間近く下して禮をなし、両手を鞘と柄と同一に掛け直ちに上に抜き上段となり、前面を斬る」
21番(中に頭を下、右同様に斬る)「両手を膝上に置き黙禮より稍や低く頭を下げて禮をなし、右手を柄に掛け刀を斜に抜き上段にて斬る」

 現代居合とは、20番と21番が入れ替わっていますが堀田捨次郎先生の誤認か不明です。

 木村栄寿先生の「林崎抜刀術兵法夢想神傳重信流伝書集及び業手付解説」では「抜刀心持之事」の16番目「虎走」の後に「以上十九本」と有りますが、十七・十八・十九は書き込まれていません。
 曽田先生の原本も同様であったのを、曽田先生が「抜打」だがこれは今の「暇乞」だろうと思われ書き込まれたのでは無いかと思います。

 下村派の細川義昌系統と思われる白石元一先生の長谷川流奥居合20番目の「抜打」
 抜打(互に挨拶をして未だ終らざるに抜き打ちに斬る意)「斬り付け。正面に對して正座し抜刀の用意をなしたる後、両手をつきて坐禮を行ひ頭を上げつゝ刀を抜き上体が起き終るまでに已に敵を抜き打ちに斬りつく・・」

 
この動作は、頭を下げ礼をしてから、抜き打つ現代の暇乞いでしょう。この様な業がどうやら継承されてきたと考えられるのでしょう。

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2017年5月19日 (金)

曽田本その1の1神傳流秘書を読み解く9抜刀心持之事16虎走

曽田本その1
1.神傳流秘書を読み解く
9、抜刀心持之事
16)十六本目虎走
虎走
 居合膝二坐して居立って向へ腰をかゞめつかつかと行抜口の外へ見へぬ様二抜付打込納又右の通り腰をかゞめ後へ引抜付打込也
読み
虎走(とらばしり)
 居合膝に坐して居 立って向こうへ腰を屈め つかつかと行き 抜き口の外へ見えぬ様に抜付け打込み納む 又 右の通り腰を屈め後ろへ引き 抜付け打込む也
*
 居合膝は右足膝を立て左足を折り敷いた所謂現代居合の立膝か、左足膝を着き爪立った体構えか判りませんが、「坐し居る」ですから恐らく前者だろうと思います。
 この文面からこの業は、遠間のところに居る相手にも周囲の者にも気付かれない様に抜付けるのですから不意打ちの状態でしょう。掛け声すら掛けていないようです。上意打ちとも読めます。

 立ち上がり、腰をかがめ、つかつかと間に至り、「抜き口の外に見えぬ様に抜付」はどのようにするのでしょう。
 間に至れば、両手を刀に掛け右足を踏み込み首に抜き付け、即座に真向に振り冠って左足を踏み込み打ち下ろす。下から切り上げる。片手袈裟に切る。そしてその場で納刀。
 現代居合ではお目にかかれない抜刀術の妙を言うのかも知れません。或は、柄への手掛かりや抜き始めの柄頭の方向などに有る筈です。如何にも斬るぞとばかりに、抜打つ相手に柄頭を付けて抜き出すのでは、目的は果たせません。

 「」からの処は、現代居合の奥居合居業の八本目虎走の様に、目的を果たした処、討ち果たした相手の味方が前方より走り込んで来るのを、我は腰を屈め後退しつつ相手が間に至れば抜き付け、真向より打ち下し、納刀する。

 此の業のポイントは相手に接近する動作と、抜口を見せない抜き付けにあるのでしょう。
現代居合では失念した動作です。

 英信流居合目録秘訣の上意之大事の最初に虎走の心得があります。
「仕物抔云付られたる時は殊に此心得入用也其外とても此心得肝要也敵二間も三間も隔てて坐して居る時は直に切事不能其上同座し人々居並ぶ時は色に見せては仕損る也さわらぬ躰に向ふえつかつかと腰をかゞめ歩行内抜口の外へ見えぬ様に体の内にて刀を逆さまに抜きつくべし虎の一足の事の如しと知るべし大事とする所は歩みにありはこび滞り無く取合する事不能の位と知るべし」

読み
 「仕物など言い付けられたる時は、殊にこの心得入用なり 其の外とてもこの心得肝要なり 敵が二間も三間も隔てて座している時は 直ぐに切る事あたわず 其の上 同座し 人々居並ぶ時は 色に見せては仕損じる也 障らぬ躰に 向うへつかつかと腰を屈め歩み行くうち   抜き口の外へ見えぬ様に 体の内にて刀を逆さまに抜き付くべし 虎の一足の事の如しと知るべし 大事とする処は歩みにあり 運び滞り無く 取合いする事能えずの位と知るべし」

 ここでも「抜口の外へ見えぬ様に」とあり「体の内にて刀を逆さまに抜きつくべし」そして「虎の一足の事の如し」と言います。
 すでに、失伝している、下からの抜き付けでしょう。
 「同座し人々居並ぶ時・・」ですから、邪魔が入らないように刀に手を掛けるや否や抜刀し刃を下にし低く切り上げるのでしょう。甲冑を付けた股間を斬り上げるなどの刀法も有ったかもしれません。

 現代居合では不意打、闇打は無く、相手の害意を察して抜き付ける様に教えられています。それは教育上の中学生向きの事であって、古伝はしばしば不意打の心得を伝えて来ます。対敵との単なる仕合では無く、主命を帯びての役割を果たすべき心得も伝えているのでしょう。

 「大事とする所は歩みにありはこび滞り無く取合する事不能の位と知るべし」と言う処は、相手にも、廻りの者にも、気付かれないような歩み方に、ポイントがありといいます。
ドタバタ音を荒げた足踏みしたりするのは、古伝は嫌っています。

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2017年5月17日 (水)

曽田本その1の1神傳流秘書を読み解く9抜刀心持之事15放打

曽田本その1
1.神傳流秘書を読み解く
9、抜刀心持之事
15)十五本目放打
放打
行内片手二切納ては又切数きはまりなし
読み
放打(はなれうち・はなしうち)
 行くうち 片手に切り 納めては又切り 数極りなし
読み解く
 歩み行きながら、片手抜き打に切り納刀し、又片手抜き打ちに切り納刀する。これを何度も繰り返す業です。
 敢えて片手打と言っていますから、片手袈裟で敵の右肩下を抜き打ちに切る、と飛躍してもいいかもしれませんが、横一線の抜き付けでも、上に抜き上げ真向打ちでも、刃を返して下から切り上げてもいいかも知れません。

 これも英信流居合目録秘訣を探してみましたが、見当たりません。これは大勢の敵に詰められ我は一人の場合を想定しますが「片手打に切納刀し、又・・」ですから敵は前方から現れるのを切り倒し、刀を納める。するとまた敵が現れるのでそれを仕留めて納める。現代居合の惣留の業を思わせます。

 居合兵法極意巻秘訣に細道之事として
 「両脇難所道も無く行道一筋にて狭きを云うケ様の所にては敵は多勢我は一人の時は利をもとむべし其利は敵大勢有りとも我を前後左右取り廻す事能えず若敵前後より来る時は脇へ開て敵を向うに受我が左の方の敵に合うべし若脇に浅き川池などあらば飛込んで打べし我飛込と敵つづきて飛入物也其間を勝事大事也」
と心得を伝えています。

読み
 「両脇 難所 道も無く 行く道一筋にて狭きを云う 斯様の所にては 敵は多勢 我は一人の時は 利を求むべし 其の利は敵大勢ありとも我を前後左右に取り廻す事与えず もし敵前後より来る時は脇へ開いて敵を向こう(前面)に受け 我が左の方の敵に合うべし もし脇に浅き川池などあらば 飛び込んで打つべし 我れ飛び込むと敵は続きて飛び入るものなり 其の間を勝つ事大事也」
・ 
また「多勢一人之事」として「敵多勢我一人の時は地利を第一と心得べし地利あしくば敵を前一面にうくべしはたらき心得は我左の方の敵を目当てにたたかうべし敵後へ廻らば我も左の敵に付後へ廻るべし真中に取籠られば走りにぐべし敵一度に来ぬもの也其間に先立来る敵を打つべし幾度もにげては打つべし」

読み
 「敵は多勢我は一人の時は 地の利を第一と心得うべし 地の利悪しくば 敵を前一面に受くべし 働き心得は 我が左の方の敵を目当てに戦うべし 敵が後ろへ廻らば我も左の敵に付き 後へ廻るべし 真中に取り籠られれば 走り逃ぐべし 敵一度に来ぬもの也 其の間に  先に立って来る敵を打つべし 幾度も逃げては打つべし」
*
この、居合兵法極意秘訣を読んでいますと、宮本武蔵の五輪書の水之巻多敵の位などが、浮んで来ますが、柳生但馬守の兵法家伝書や宮本武蔵の五輪書や兵法35箇条などは時代的には、参考に読まれたり聞いていたかも知れません。

 細川義昌先生の系統と思われる白石元一先生の放打(暗夜前方より来る敵を抜き打ちに数名連続斬る意)
 「・・右足を出すと同時に右斜前の敵に対し抜き打ちに右片手にて斬り付け(やや半身となる)直ちに納刀と同時に左足を右足に揃え一足となり、更に第二に現れたる敵に対し前と同様斬りつけたる後納刀。又第三の敵に対して斬りつけ納刀(同時に足も一足となる)」

 古伝に業名は忠実です、動作も古伝を思わせます。
 
 放打は、何故か敵を切る度に納刀します。ある竹刀剣道の先生「なぜ一々納刀するのか意味が解らん」

ある大家の教書に、居並ぶ者の首を次々にはねる業とか、何処から聞いて来たのか不思議が一杯の教えです。
 片手袈裟の斬撃を繰り返し稽古する中から、この業の意義を知りたいと思います。 

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2017年5月15日 (月)

曽田本その1の1神傳流秘書を読み解く9抜刀心持之事14五方切

曽田本その1
1.神傳流秘書を読み解く
9、抜刀心持之事
14)十四本目五方切
五方切
 歩ミ行内抜て右の肩へ取り切又左より切又右より切又左より切段々切下げ其侭上へ冠り打込也
読み
五方切(ごほうきり)
 歩み行く内に 抜きて 右の肩へ取り切り 又左より切り 又右より切り 又左より切り 段々切り下げ そのまま上へ冠り打込む
*
読み解く
 此の業は現代居合の「惣捲」のようです。
 大江先生の「惣捲り」では、「抜て右の肩へ取り」は間境で右足を踏み出し刀を前に抜出し、右足を引いて八相に構える。
 そして右足を踏み込み、①右から相手の左・②左から相手の右・➂右から相手の左・までの斬り付けです。上段に振り冠って真向に切下します。
 古伝は更に④左から相手の右と「段々切げ」ですから「左面・右肩・左胴・右膝」に歩み足で追い込みながら切り付けて行く。
 この際相手は、我が切込みを刀で受けつつ下がるも、外しながら下がるも、切られつつ下がるもありでしょう。
 「其儘上へ冠り打込」ですから、四刀目の切り付けは左足を踏み込み十分切り払って右から上段に振り冠り右足を踏み込んで打ち込むでしょう。

 英信流居合目録秘訣によれば「惣捲形十」としてあります。
「竪横無尽に打振て敵をまくり切る也故に形十と有也常に稽古の格には抜打に切り夫より首肩腰脛と段々切り下げ又冠り打込也」

読み
 総捲形十(そうまくりかたじゅう)
「縦横 無尽に打ち振りて 敵を捲り切る也 故に形十と有り 常に稽古の格(決まり)には 抜き打ちに切り それより 首肩腰脛と段々切り下げ 又 冠り打込む也」

 ここに「惣捲」の文言があるのでそれを大江先生は業名に引き継いだのでしょう。現代居合の惣捲は左面・右肩・左胴・右腰・真向です。空間刀法の切り替えしです。

 細川義昌先生の系統の白石元一先生の「五方斬」
「右足を出すと同時に左側にて刀を大きく抜くや直ちに上段に取り、先ず右袈裟がけに斬り振り冠り続いて左袈裟掛けに切り、返す刀にて右より胴を払い腰を落して左より足を払い、再び立姿となり右方より上段に取り真向に斬り下ろす」

*それぞれ大いに稽古して見るものです。現代居合は形を限定していますがそれは、大会や審査の形と割り切って確実にそれを演じられることも必要でしょう。

 古伝は一方的に捲り切りして居る様ですが、現代居合の惣捲は、相手に先を取られ、撃ち込まれたのを外して左面に打ち込む・・いい業です。

 古伝の文章を読んでいますと、決して八相から上段に冠り直して斜め切りしていません。構えは通過点に過ぎず体を右に左に筋を替えつつ打ち込んでいるようです。「段々切下げ其侭上へ冠り打込也」と最後は上段に冠って真向に切り下すのです。これは現代居合が明治以降の竹刀剣道に侵されて失伝している運剣法です。

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2017年5月13日 (土)

曽田本その1の1神傳流秘書を読み解く9抜刀心持之事13追懸切

曽田本その1
1.神傳流秘書を読み解く
9、抜刀心持之事
13)十三本目追懸切
追懸切
 抜て向へ突付走り行其侭打込也
読み
追懸切(おいかけきり)
 抜いて向うへ突き付け 走り行 其の侭打込む也
読み解く
 此の業は現代居合では見る事も無い業です。
刀を抜き出し、正面の相手に切先を突き付け、走り込んで間境に至れば上段に振り冠って右足を踏み込んで真向に打ち下すと云う業でしょう。
 相手は抜刀せずに歩み来るのか、抜刀して上段に構えているのか手附は何も指定していません。或は前方を後ろ向きに歩み行くのか、状況を判断し、どのように走りこむのか難しい業です。

 英信流居合目録秘訣の外之物の大事に遂懸切が有ります。
「刀を抜我が左の眼に付け走り行て打込但敵の右の方に付くは悪し急にふり廻りぬきはろうが故也左の方に付て追かくる心得宜し」

 古伝の追懸切を補足している様です。
「刀を抜我が左の眼に付け」ですから左足前の左正眼の構えでしょう。距離が離れていれば左足・右足・左足と常の走り込みでいいでしょうが、間境では左足前にして上段となり右足を大きく踏込んで打ち下す。
 次の「但敵の右の方に付くは悪し」ですが、敵の右側から打ち込まんとすれば「急にふり廻り抜はろう」と云う事は敵は後向きで同方向に歩み行く、それを追いかけて刀を打ち下すと解釈できます。従って敵の左側から追掛けて切れというのでしょう。

 古伝神傳流秘書の抜刀心持之事の追懸切は想定を指定して居ません。英信流居合目録は、一つの想定からの運剣の心得でしょう。此の業は、闇打ちの心得の様です。大江先生の中学生向きの業としては教育上不向きです。

 下村派細川義昌先生系統と思われる白石元一先生には「追掛(前方を行く敵を追い掛けて斬る意)」という業があります
 「・・右足にて刀を抜き刀先を返し柄を手許にし左手を柄に添えて持ち中段に構えたる儘にて数歩小走りに追掛け、左足を踏み出したる時に振り冠り、右足を出すと同時に大きく真向より斬り下す」

 古傳の手附ではカバーできないので色々考案されていったのでしょう。敵は後向きに前方を歩み行くのを追い掛けている想定になっています。現在の正座の部追風(虎一足)との混合の様でもある気分です。

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