曽田本その1の2英信流目録読み解く1居合棒太刀合巻

2018年1月 9日 (火)

曽田本その1の2英信流目録読み解く1居合棒太刀合之巻6大森流居合之位11抜打

曽田本その1
2.英信流目録読み解く
居合棒太刀合之巻
 兼 大森流居合 小太刀之位
6、大森流居合之位
 
十一本目抜打ち
(原本二記載なきも之れ尓て□筆之置く)
以上十一本也         林 政誠
于時安永五年
      冬十月吉日改之   花押
嘉永五年癸子六月吉祥日
       谷村亀之丞自雄 花押
読み
十一本目抜打(ぬきうち)
(原本に記載なきもこれにて□筆之を置く)
以上十一本也       林 政誠
于時安永五年(1776年)
      冬十月吉日之を改める  花押
嘉永五年(1852年)癸子(みずのとね)六月吉祥日
                    谷村亀之丞自雄
読み解く
 実はこの英信流目録には、この十一本目は書き込まれていないのです。業の頭に本数を入れてありますが、原本は無印なのです。括弧の文字は曽田メモ
 虎乱刀の跡に「以上十一本也」と記入されています。十五代の谷村亀之丞自雄の書写の際に欠落したのか、原本が欠落していたかはわかりません。

ここでは、古伝神傳流秘書大森流居合之事抜打を記入しておきます。
抜打
 坐して居る所を向より切て懸るを其のまま踏ん伸んで請流し打込み開いて納る尤も請流しに非ず此の所筆に及ばず

 英信流目録は原本が第十二代林 政誠によって安永5年(1776年)に書かれたものですから、山川久蔵幸雅が書き写した神傳流秘書(文政2年1819年)より古いものです。
 居合は大森流しか存在しないので、抜打どころか大変な欠落です。残念ですが大森流「抜打」は神傳流秘書による以外に見当たりません。

 古伝の抜打の業手附は簡潔でまさに居合と言った雰囲気の名文でしょう。抜打を演ずる時「切て懸るを其のまま踏ん伸んで請け流し打ち込み開く」が頭をよぎって行きます。

第17代大江正路先生の抜打(大正7年1918年発行の大江・堀田共著剣道手ほどきより)
 「正面に座す、対座にて前の敵を斬る心組にて其正座の儘刀を前より頭上に抜き、上段に冠り、身体を前に少しく出し、前面の頭上を斬る。血拭ひは中腰の同体にて刀を納む」


 古伝の抜打の心持ちは薄れ、一方的に抜き打つ業に思えてしまいます。動作を克明に解説したのは河野先生でしょう。

第20代河野百錬先生の抜打(昭和8年1933年発行無双直伝英信流居合術全より)
 「正面に向ひて正座し、左手を鯉口にとり拇指にて鯉口を切り、右手を柄にかけつゝ両膝と其爪先にて膝を伸ばし、右斜前に刀を引き抜き左肩に刀先を突込む様に双手上段に振冠りて切り込み、刀を右に開くと同時に左手は左腰に取り後鯉口を握り刀を納めつゝ臀部を踵の上におろして納め終る」

 
動作の形が優先して古伝の心が見られません。

 

夢想神傳流檀崎先生の抜打
 「彼我接近して対座するとき、敵を速急正面より斬付けて勝。刀に両手をかけ、同時に両足を爪立てて刀を右斜前に水平に抜き、剣先が鯉口を放れると同時に、後方の敵を突き刺すように振り冠り、両膝を揃え「トン」と床を打つ。この時上体は,真直に膝の真上にある。次に斬下すと同時に両膝を横に開き「トン」と床を打ち血振り・・」

 
是も一方的な闇討ちです。


 お陰様で、容易に抜打を演じられるようになりました、然し古伝の「此の所筆に及ばず」は置き去りになって居る様に思います。
 そして、「飛び打ち」にしたり、「音を立てて」打ち込んだり、果ては「闇打」であったり「抜き打ち」にしたり、愉快です。
「坐して居る所を向より切て懸るを其のまま踏ん伸ん請流し打込み」は何処にいったのでしょう。
 当代の解説では「正面に対座せる対敵の害意を認めるや・・・もし敵斬り込み来たりてもその刀を受け流す気にて行う」と「もし」がありますが其の心は戻りつつあるように思います。

奥書を入れて置きます。

林 政誠

 干時安永五年(1776年) 冬十月吉日改之

 嘉永五年(1852年)癸子六月吉祥日

 谷村亀之丞自雄 自花押

 この曽田先生の書写したものを昭和23年1948年六月に大阪の河野稔氏へ伝授したりとあります。第二十代河野百錬宗家を指していると思われます。

 この英信流目録には坂橋流の棒が恐らくすべて残されていたのかもしれません。棒太刀合之位・棒合5つ・心持之事・極意之大事の4編になっていました。

 さらに、何処にも見られない小太刀之位が残っていました。之は曽田本以外に見ることがありませんでした。河野百錬先生の「無双直伝英信流居合兵法叢書」に見られる小太刀之位は曽田本の英信流目録に依ります。

 土佐のどこかにこの第十二代林 政誠の原本が欠落なく存在することを夢見ています。

 四国に在住の無双直伝英信流・夢想神傳流を学ばれる方によって捜し出していただければと勝手に思っています。

英信流目録を終わります。

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2018年1月 7日 (日)

曽田本その1の2英信流目録読み解く1居合棒太刀合之巻6大森流居合之位10虎乱刀

曽田本その1
2.英信流目録読み解く
居合棒太刀合之巻
 兼 大森流居合 小太刀之位
6、大森流居合之位
 
十本目虎乱刀
 是盤立て春可春可と幾足も行て右の足尓て一文字尓抜付(拂ふてもよし)かむる時左の足一足ふみ込右の足尓て打込ム血ぶるいの時左を右の足尓揃納る時は右の足を引納其時春ねハつ可ぬ也
 「記 勢中刀、虎乱刀の血振いの時「左の足を右の足尓揃ト」書きたる也原本二ハ「右の足を左の足二揃」とあり研究する事原本に「右の足を左の足・・・不明 曽田メモ」
読み
十本目虎乱刀(こらんとう)
 是は 立てスカスカと幾足も行きて 右の足にて一文字に抜き付け(拂うてもよし) 冠る時左の足一足踏み込み右の足にて打込む 血ぶるいの時左を右の足に揃へ 納る時は右の足を引き納 其の時脛は着かぬ也
 「記 勢中刀、虎乱刀の血振いの時「左の足を右に揃と」書きたる也 原本には「右の足を左の足に揃」とあり研究する事 原本に「右の足を左の足・・・不明 曽田メモ」
読み解く

 英信流目録は第15代谷村亀之丞自雄の書き写した直筆の伝書です。この虎乱刀は大江先生の場合は正座の部「追風」の業です。バタバタ追い懸けずスカスカ歩み行く処が本来の業だったのでしょう。

 古伝神傳流秘書の大森流居合之事虎乱刀を読み直します。
「是は立事也幾足も走り行く内に右足にて打込み血振し納る也但し膝を付けず」


 神傳流秘書では「幾足も走り行く」であって歩み行くではありません。それに抜き打ちの一刀で制して居ます。
 現在は、混線して、走り行き抜き付け、打ち込むになったのでしょう。

 英信流居合目録秘訣の上意之大事に虎走の心得があります。
 是は討ち果たせと言う上意などで行く時、敵が二間も三間も離れて坐している時は直ぐに切る事は出来ないし、同座した人達が邪魔に入る事も考え、色に出さず腰を屈めつかつかと行き抜き口が外へ見えないように体の内で逆さまに抜いて抜きつけるのだと教えています。足運びが大事だと云います。
 追いかけてバタバタ足音を立てるなど、いつの頃にやりだしたのでしょう。中には逃げる敵を追い懸け間に至れば、足音をバタバタ強くして
振り向かせてから抜き打つなどの教えもある様で愉快です。

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2018年1月 5日 (金)

曽田本その1の2英信流目録読み解く1居合棒太刀合之巻6大森流居合之位9勢中刀

曽田本その1
2.英信流目録原文
居合棒太刀合之巻
 兼 大森流居合 小太刀之位
6、大森流居合之位
 
九本目勢中刀
 是も坐して居也右向の方ゟ敵立て来る心持也我其時右の足より立チ一文字二拂ふ也其侭かむり討込ム也跡ハ血ぶるひをし左の足を右の足尓揃納る時右の足一足引納る時春ねをつ可ぬ也
読み
九本目勢中刀(せいちゅうとう)
 是も坐して居る也 右の向こうの方より 敵立ちて来る心持ち也 我其の時右の足より立ち一文字に払う也 其の儘かむり討ち込む也 跡は血ぶるいをし 左の足を右の足に揃へ 納める時右の足を一足引き 納める時脛を着かぬ也
読み解く
 *
 是も我は正面向きに座して居ても、左向きでも、右向きでも、敵は我が右向き(右肩)の方から敵は立って上段に振り冠って来る心持ちです。
 其の時我は腰を上げ右足を敵の方に向けて立ち上がり、一文字に抜き払う。
 其の儘振り冠って敵の真向に討ち込む。
 跡は血ぶるいをし、左足を右足に踏み揃え、納刀の際右足を一足引いて納刀する。納刀の時脛を床に着かない事。

 一文字に何処を目掛けて抜き払うのか記載は有りません、敵は立ち上って歩み来るのです。一文字の抜き付けの部位は、上段に振りかぶった敵の小手・上段から振り下ろさんとする小手・上段に振りかぶって歩み寄る胴。何れでも良いのです。部位に応じた我が態勢は様々です。

 其の儘上段に振り冠っています。左足右足と踏み込む様には書かれていません。右足を踏み出して一文字に敵刀を払いその足のまま振り冠って打ち込んでいます。
 敵が後ろに退くならば左足右足と追い込んで仕留めるのでしょう。
古伝は振り冠り討ち込む、とだけです。

 これも、古伝神傳流秘書大森流之事九本目勢中刀では「右の向より切て懸るを踏出し立って抜付打込血震し納る此事は膝を付けず又抜付に払捨て打込事も有」
英信流目録とも同じですが、「右の向こうより」ですから、左向きに坐し、正面から切って懸られたのに応じるのです。

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2018年1月 3日 (水)

曽田本その1の2英信流目録読み解く1居合棒太刀合之巻6大森流居合之位8逆刀

曽田本その1
2.英信流目録読み解く
居合棒太刀合之巻
 兼 大森流居合 小太刀之位
6、大森流居合之位
 
八本目逆刀
 是盤坐して居り春っと立其侭引抜向ヱ拝ミ討二打チツゞケテ二ツ打其時両足を前へ揃ヱ太刀を亦かむり其時右の足を跡へ引春ねをつき亦太刀を前へそろりとおろし「右柄を逆手尓とり太刀の刃を上へ向て(此の処原本虫食て不明なり多分柄ナラン 曽田メモ)」左の手尓て刀のむ年をおさへ手前へ少しそろりと引納ㇽ也 初發刀より此迄ㇵ納尓春ねをつく也
読み
八本目逆刀(ぎゃくとう)
 是は 坐して居り すっと立ち 其の侭引抜き向へ拝み討ちに打ち 続けて二つ打ち其の時両足を揃え 太刀を亦冠り其の時右の足を跡へ引き脛を着き 亦太刀を前へそろりと下し 右柄を逆手に取り太刀の刃を上へ向けて 左の手にて刀の棟を押えて前へ少しそろりと引き納る也 初発刀より此処までは納るに脛を着く也
読み解く

 「逆刀」とは、第17代大江正路先生の無双直伝英信流居合正座の部八本目附込でしょう。
 この業手附からどの様に仮想的を想定するかによって動作は変わるでしょう。習い稽古した附込の動作などはこの古伝では少し忘れて見るのもいいでしょう。

 これは座して居る処、敵の害意を察して、我は機先を制して右足を踏み立て、すっと立つなりに刀を上に引き抜き、振り冠るや左足を踏み込んで敵に拝み打ちに打ち込み、敵制せられ退く処、右足を踏み込み二刀目と続けて打ち込み右足に左足を揃える。右足を引いて同時に上段に振り冠る。
 右足脛を着き太刀を上段から「そろり」と下ろし正眼となる。柄を右手で逆手に取り、刀の棟を押さえ太刀の刃を上に向けて、左手の上を滑らす様に柄を手前に「そろり」と引き、逆手で納刀する。
初発刀よりここまでは納刀の時脛を着く也。

 古伝の逆刀による動作は想定がありませんから、演じる者が自ら想定すれば良いのですが、やはり習い覚えた剣理・意義の呪縛は付いて廻り、動作もそれにひきづられます。
 足捌きも、追い足・継ぐ足・歩み足どれでも相手との間しだいでしょう。
 残心での動作は充分に敵を制して居るとして「そろり」という、静かに、ゆっくりとした動作を要求しています。
 素早い動作により充分敵を制する事で、その後は「そろり」。
 二刀で充分敵を両断しているので、この打ち下ろしのフィニッシュも両足を揃えた結び立ちです。
 最近は追い足捌きで二刀目を打ち込んでいますから「そろり」と残心をせずに、倒した敵に目付け鋭く「まだ来るか」とばかりに威嚇する上段振り冠りの動作がほとんどです。

 なお、初動は敵の機先を制するとしましたが、伝承されるように打ち込まれ摺り落とし打ち込む、も充分ありでしょう。神傳流秘書では「向より切て懸るを先々に廻り抜打に切」その様です。

 英信流目録では、この先に仕掛けられたところが抜けていますので、我から先に仕掛けるとも取れます。座した敵に先に仕掛ける「逆刀」いや「附込」をイメージするのです前回の順刀」のようになってしまいそうです。

古伝神傳流秘書大森流之事八本目「逆刀」
 「向より切て懸るを先々に廻り抜打に切右足を進んで亦打込み足踏揃へ又右足を後へ引冠逆手に取返し前を突逆手に納る也」

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2018年1月 1日 (月)

曽田本その1の2英信流目録読み解く1居合棒太刀合之巻6大森流居合之位7順刀

曽田本その1
2.英信流目録読み解く
居合棒太刀合之巻
 兼 大森流居合 小太刀之位
6、大森流居合之位
 
七本目順刀
 是盤坐してる前のものを切る心持奈り我其侭右より立春つと引抜か多より筋違二切也是も同之く跡者春ねへ置き逆手尓とり納ㇽなり
読み
七本目順刀(じゅんとう)
 是は 坐したる前の者を切る心持なり 我其の侭右より立 すっと引抜き 肩より筋違いに切る也 是も同じく跡は脛へ置き逆手に取り納る也

読み解く
 大森流の七本目ですから、是は無双直伝英信流の正座の部「介錯」だろうと摺り込まれています。然し英信流目録も古伝神傳流秘書も介錯らしき文言が見当たりません。

 是は、坐している前のものを切る心持ちなり、我は座したるまま、右足を踏み出して立ち上がり、スッと刀を引き抜く、肩より筋違いに切る(斜めに切る、八相に切る、真向ではなく刃筋を斜めに切る)。
是も同じく(流刀・受流の様に)刀を脛に置き逆手に取り納刀する。

古伝の神伝流秘書を読み直してみましょう。
順刀:右足を立左足を引と一処に立抜打也又は八相に切跡は前に同じ

 この神傳流秘書にある「順刀」を「介錯の仕方」として読む事は出来ません。何故ならば右足を踏み出し、左足を引くや刀を抜いて抜き打っています。此の動作は「後の先」の見事な抜打でしょう。どこかで此の順刀の意義が変化してしまったとしか思えません。


 是は、何を目的に想定した動作か解かりません、伝承された口伝口授が現在の介錯なのかと動作から推察するばかりです。
 英信流目録には「是は坐したる前のものを切る心持ちなり」と場づくりがされて居ます、それでは介錯かもしれない、と思ったりします。
 土佐の居合は介錯を頼まれたら断れと云って居ます。何故なら介錯の稽古などした事も無いと言います。それを現代居合は介錯だからとそれらしく学び、学んだのに演武会ではやってはならないと無駄な稽古をさせられています。


第17代大江正路先生の「剣道手ほどき」には大森流居合七番目は介錯と呼称されています。
介錯
 正面に向きて正座、右足を少し前へ出しつゝ、刀を静に上に抜き、刀尖が鞘と離るゝや右足を後へ充分引き、中腰となり、刀を右手の一手に支へ、右肩上にて刀尖を下し、斜の形状とす、右足を再び前方に出し上体を稍前方に屈し刀を肩上より斜方向に真直に打下して、前の首を斬る。血拭は足踏の儘六番と同じ様に刀を納む。


 これは、明らかに介錯の動作です。「前の首を斬る」とまで言っています。

 古伝は介錯らしき文言が見られません。
 その上足捌きは大江先生の介錯とは異なり、古伝神傳流秘書では「右足を立左足を引と一処に立抜打也」と抜き打ちを示唆しています。
 英信流目録の「肩より筋違いに切る也」を筋を替って斬り下すと解釈すれば、闘争の太刀裁きが見えてきます。

 この業はやはり介錯ではないかも知れない、と思い始めています。大森流居合之位七本目の業は動かぬ者を斬るでは業の構成が腑に落ちません。
  一方で、介錯される者が心の準備が出来たと察知するや、スッと立つと同時に打ち込む様な気もしています。

 そう、教えられ刷り込まれたものは簡単には抜けないものです。

 

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2017年12月30日 (土)

曽田本その1の2英信流目録読み解く1居合棒太刀合之巻6大森流居合之位6流刀

曽田本その1
2.英信流目録読み解く
居合棒太刀合之巻
 兼 大森流居合 小太刀之位
6、大森流居合之位
 
六本目流刀(又流討共いふ 曽田メモ)
 是盤坐之多る所へ左横脇ゟ敵討かゝり来る也其時我ㇵ左の足を立少々前へふみ出之横二請流ㇲ心持尓て其侭右ノ足をふみ出之筋違尓切り跡盤春ねへ置キ柄を逆手尓取直之納ムル也
読み
六本目流刀(りゅうとう)(又流討共いふ 曽田メモ) (またながれうちともいう 曽田メモ)
 是は 坐したる所へ左脇より敵討ち懸かり来る也 其の時我は左の足を立て少々前へ踏み出し 横に請け流す心持ちにて 其の儘右の足を踏み出し筋違いに切り 跡は脛へ置き 柄を逆手に取り直し納るなり
読み解く
 六本目流刀は大江先生の改変された正座の部の請流(受流)でしょう。曽田先生の補足メモの「流討共いう」の業名は、私の資料からは検証できません。
 是は座している所へ敵が「左横脇」より討ち掛かって来る、左横脇とは何処からだか「左の横の脇」理解出来ません。左も横も脇も皆我が体の左からになってしまいます。まあ「そっちの方から」敵が討ち掛かり来るでどうでしょう。

 其の時我は左足を「左の足を立て少々前へふみ出し」、坐している前(正面)に左足を踏み出し、「横に」は左に請け流す心持にて(刀を頭上にかざし)そのまま右足を踏み出し(受け流されて体を崩す)敵に向き直り、「筋違いに」は真向打ち下ろしではなく、右から左下へ斜めに敵の(首あるいは肩)を斬る。
跡は刀を(右)脛へ置き、柄を逆手に取り直し納刀する。

 これは正面向きで座し居る時、左脇から斬り込まれています、左脇に座す敵が抜き打ちに上段から斬り込んで来る。
 それを左足を正面に踏み立てるや、刀を抜き上げ左肩を覆って受け流し、受け流されて体を崩した敵の方に向き直りつつ中腰になり右足を左前に踏み込み(斜め後ろに左足を引いて)八相から斜めに敵の首へ切り下ろす。跡は同じ・・。

 立ち上がらずに受け流してみました。この場合は刀を上に抜き上げ鞘を下に引いて頭上と左肩を囲うようにして一気に受け流す、むしろ摺り落すでしょう。この手の請け流しは、他流にもあるようです。

 座す方向と敵が立って切りかかる事、足捌きを真似れば全剣連の三本目受け流しです。

 古伝神傳流秘書の大森流之事六本目流刀(流討共言 曽田メモ)
左の肩より切て懸るを踏出し抜付左足を踏込抜請に請流し右足を左の方へ踏込み打込む也扨刀をすねへ取り逆手に取り直し納る膝をつく

 

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2017年12月28日 (木)

曽田本その1の2英信流目録読み解く1居合棒太刀合之巻6大森流居合之位5陽進刀

曽田本その1
2.英信流目録読み解く
居合棒太刀合之巻
 兼 大森流居合 小太刀之位
6、大森流居合之位
 
五本目陽進刀
 是盤正面二坐春る也右の足一足ふみ出し立なり二抜付左をふみ込ミ討込ム也春く尓右腋へ開キ其侭納ム也
 陰退刀其侭左の足を跡へ引其時亦抜付打込ミ血ふるひの時立左の足を右尓揃へ納る時右を一足引也
読み
五本目陽進刀陰退刀(ようしんとういんたいとう)
 陽進刀 是は正面に座す也 右の足一足踏み出し立つなりに抜き付け 左を踏み込み討ち込む也 すぐに右腋へ開き其の儘納む也
 陰退刀 其の侭左の足を跡へ引き 其の時亦抜付け打込み 血ふるいの時立ち左の足を右に揃え納める時右を一足引く也
参考
 古伝神傳流秘書の大森流居合之事「陽進陰退」
陽進陰退
 初め右足を踏出し抜付け左を踏込んて打込ミ開き納又左を引て抜付跡初本ニ同し
読み
陽進陰退(ようしんいんたい)
 はじめ右足を踏み出し抜付け 左を踏み込んで打込み開き納める 又左を引きて抜き付け跡初本に同じ
読み解く
 是は正面向きに座している。ここでは、「立つなりに抜き付け」です。正座の前の様に、右足を踏み込んでいますが、立ち上がって抜き付ける様に読めます。
 腰を上げ右足を踏み込むならば現代居合の正座の「八重垣」です。
 右足を踏み込み抜き付け、立ち上がりつつ、振り冠って左足を踏み込んで真向に打ち下ろします。
 すぐに右に刀を開き、其の体制の儘納刀。充分手ごたえあっての納刀でしょう。

 陰退刀の解説がなくて解かりませんが、現代居合に面影があるとすれば下がりつつ抜きつけることで、左足を後ろへ引いて再び抜き付け切り下ろす。この二度目の抜き付けは新たな敵とも、先に切り倒した敵とも何の状況説明もありません。

古伝神傳流秘書の大森流之事「陽進陰退」
「初め右足を踏出し抜付け左を踏込んで打込み開き納又左を引て抜付跡初本に同じ」

*神傳流秘書では「右足を踏出し抜付け」であって英信流目録は「右の足一足ふみ出し立なりに抜付」とは異なります。
 現代居合も、右足を踏み込み立ち上がって抜きつけてはいません。
 右足を踏み込み立ち上がって抜きつける稽古をしてみるのですが「正面に坐する也」ですから、相手も立ち上がって切り込まんとする想定です。

 大江先生の正座の部八重垣は最初に切り倒した敵が、力を振り絞って右足に切り付けてくるので、右脛を囲って敵刀を払い留め、振り冠って打ち下ろして仕留めています。
 夢想神伝流では新たな敵が切り込んで来るので、間を外して抜き打ちに斬り付け、振り冠って打ち下ろしています。この方が古伝を伝承していると思われます。

 細川義昌先生系統と思われる白石元一先生の「陰陽進退」では、「前方の敵を斬りたる後敵再び足に斬り付け来るを応じて防ぎ続いて斬り倒す意」と云って、「敵再び我が足に斬り付け来るを左足を引きつゝ刀を抜きて(刀の鎬にて)受留め防ぎたる後、左足を右足踝の所に引きよせてつくと同時に、左方より刀を上段に振り冠り、右足を出して真向に斬り付ける」

 同じく細川義昌先生系統で昭和49年発行の貫正館梅本三郎先生発行第18代尾形郷一貫心識「居合兵法無雙神伝抜刀術」の「陰陽進退」も白石居合と略同様ですが「・・刀を納めつつ右膝を跪き納め終りたる所へ(別人が向脛薙付け来る)急に立ち上り左足を一歩退くと同時に、刀を前へ引抜き切先の放れ際に左腰を左へ捻り、体は正面より左向きとなり(視線は右の対手に注ぐ)刃部を上に向け差表の鎬にて張受けに受け止め・・・」

 古伝は、一本目は抜付け(横一線の抜き付け)、二本目は真向打ち下し、三本目は抜付け、四本目は真向です。 

 此の英信流目録は安永5年1776年に第12代林益之丞政誠が書きあらわしたもので、それを後の谷村派の谷村樵夫自庸が嘉永5年1852年に書き写されたものです。
 ですからこの伝書は谷村派系統のもので現在の大森流(正座の部)の五本目八重垣はこの動作であるはずです。明治という時代の混乱か時の流れがなせるものか、業手附にも影響して「本当は」どこにあるのでしょう。

 立ち上がって抜き打ちする、座ったままで抜き打ちする。、いずれも行われていたのでしょう。
 二人目の敵に横一線に斬り付けるなのか、張り請けするのか、気力を振り絞った一人目の敵に脛囲いで応ずるなのか、自由に想定をして稽古してみます。
 現代居合では、見られない、右足を踏み出し立つなりに抜き付けて見ますが、慣れれば至極普通の事です。どれも出来て当たり前のことです。

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2017年12月26日 (火)

曽田本その1の2英信流目録読み解く1居合棒太刀合之巻6大森流居合之位4當刀

曽田本その1
2.英信流目録原文
居合棒太刀合之巻
 兼 大森流居合 小太刀之位
6、大森流居合之位
 
四本目當刀
 是盤後二向て坐春る也正面へ左より廻り左の足を出し抜付春ぐ尓打込ミ血ぶるひの時立右の足を左二揃納る時左を一足引納る也
読み
四本目當刀(あたりとう・とうとう?)
 是は 後ろに向いて座する也 正面へ左より廻り 左の足を出し抜付けすぐに打込み 血ぶるいの時立ち右の足を左に揃え 納める時左を一足引き納める也
読み解く
 「當刀」は、大江先生の業名改変による「正座の部四本目後」でしょう。業名の「當刀」の刀を當(あたる、あてる、ぴたりとあてる、まともに対抗する)。後ろの敵に刀をぴたりと抜き打つ、という意味になるのでしょうか。

 是は後ろに向いて座する、正面に対して後ろ向きと言うのでしょう。そして敵に背中を見せた後ろ向きです。
 左廻りに廻って左足を踏み出し抜き付ける、すぐに上段に振り冠って打ち込むのですから
後ろに居る敵に左回りに振り向きざま抜き打ちに斬り付け、上段に振り冠って斬り下ろす。
 「血ぶるひの時立」ですから大血ぶりでしょう。血ぶるいで立ち上がる時右足を左足に踏み揃えて立つ。納刀の際は踏み出した左足を引いて納刀する。

 後ろの敵を抜き打ちに斬って、真向に打ち込んで血ぶりして納刀する、と言っているだけで
目録に覚書程度の業手附を付けて与えたとしかいい様はありません。どのように後ろに振り向くのかは、口伝口授、師の技を真似る事だったのでしょう。

 「當刀(大江先生の後)」は180度の回転技です。廻ることは出来ても、左足を踏み込んで敵に抜き付けるのは容易ではありません。敵の居ない所を切っていたり、左足を踏み込めずに手だけの力ない抜き付けであったりします。

 ここでは池田先生の正座の部後を稽古してみましょう
剣理:我れ正面に対し後ろ向きに座し、我が後方に座せる対敵に対する業にして、・・

術理:両膝を内絞りに寄せながら左手を鞘に掛け、左拇指腹を鍔に掛けると同時に、柄頭を己が人中にある様に鞘を送り出すと共に右手を柄に掛け、鯉口を切る。

 柄に右手を掛けると同時に腰を上げ、両足爪先立つ。
 次いで気を以って敵を圧する心持にて刀を抜き懸け、右膝は床に着きたるまま左膝を浮かして立てながら、右膝、左足先を軸にして左廻りに廻る。

 約90度位廻りて後敵我が視野に入りなば、刀の抜き込みの速さを早めつつ、我が体が正面に向き直る直前に於いて正面に対し45度位に柄頭を持ち来たり、その時、切先三寸迄抜き込む事(抜刀寸前)が大切である。

 我が体が正面に向き直るや否や左足を我左股関節の前に踏み込み踏み立てる。この時、右足先は右膝の後ろに在る様に動作する事に留意されたい。と同時に左敵を見定め、左手鞘を90度に反らして左鯉口手と左肘を共に後ろに退くと共に、正面に対し右45度位にて抜刀寸前(切先三寸位)迄抜き込みたる刀を抜き放ち、横一文字に斬り付ける。この場合、我が体が正面に向き直りて柄頭を正面に向けてより抜刀してはならない。

 この太字部分は第20代河野百錬先生の大日本居合道図譜に従って書き込まれたものでその術理は意味不明です。
 正面45度ほど振り向いた時切先三寸迄抜出すのは理解しますが河野先生は二本目の右で「刀身45度の所-刀を(右拳を)之より左に運ばぬ事」とされています。四本目當刀も同様とされています。
 理由も解からずに、正面45度で柄手の右拳を其の方向で固定し、体のみ正対させて、その様に抜いているのを見ますが、切先外れの抜付けになっています。
 22代は「これは対敵との位置関係及び間と間合いの関係上、斯くの如く実施する事と心得られたい」と教本に記されています。これでは理解不能です。先師の教えを踏襲されたのでしょう。
 正面に振り向くわけですから、当然柄手を左に振らずとも、体の正対に従えば柄頭は稍々右若しくは対敵の中心を攻めて抜刀されるはずです。
 河野先生の帯刀は柄頭は我が臍前中心線上が基本で、鍔が臍前中心線上ではありません。
 我が体が正面45度になった時、柄頭は正面に対し30度です、言い換えれば柄頭が正面に45度の場合、我が体は60度正面向きになっています。我が体を正対させれば、柄頭は75度正面向きで敵の中心線を攻めて抜刀されるでしょう。当然、右拳を左に運ばないが成り立ちます。
 異論として、右回転では途中で敵に柄を制せられるとか、河野理論に都合の良い事を述べられる方も有ります。もともと対敵との位置関係、間合いから土佐の居合は柄を制せられる可能性が高いもので、稽古はよしとしても実戦抜刀術としては工夫が必要です。

 両足爪先立つ時、両足は其の場にて爪立つ方が良い。両足を開いて爪立つ場合、我が正面に向き直りたる時、左足を踏み込み立てる動作が不完全になる。即ち、向き直りたる時、早や左足を踏み立てたる状態になっている為、斬り付けは手のみで斬る姿となり、踏み込み踏み立てると同時に斬り付けると言う斬り付けの勢を殺ぐ事になりかねない。

 この両足を揃えてその場で爪先立てば、左足を一旦右足に退き付けてから踏み立てる無駄がありません。古参の方はこの一旦引いてから踏み立てています。左足は回転しながら右膝に引き付けられている工夫が必要です。
 後ろ向きに座って、大股開きで始めるのは見苦しいものです。後ろ向きでの爪立が美しくありたいものです。

古伝神傳流秘書による大森流居合之事「四本目當刀」

 左廻りに後へ振り向き左の足を踏み出し如前

 「左廻りに後ろへ振り向き」ですから、相手は我が後方に座し、左廻りに後ろに振り向き左の足を踏み出し抜付け打込む。

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2017年12月22日 (金)

曽田本その1の2英信流目録読み解く1居合棒太刀合之巻6大森流居合之位2左刀

曽田本その1
2.英信流目録読み解く
居合棒太刀合之巻
 兼 大森流居合 小太刀之位
6、大森流居合之位
 
二本目左刀
 是盤左脇へ向也坐春る也ヒタリへ廻り左の足を一足ふみ出抜付春く尓打込亦血ぶるひを之て立時右の足を左尓揃納る時左を一ト足引納ㇽ也
読み
二本目左刀(さとう、ひだりとう、ひだりかたな)
 是は 左脇へ向く也 坐する也 左へ廻り左の足を一足踏み出し抜付け 直ぐに打ち込む 亦 血ぶるいをして 立つ時右の足を左に揃え 納める時左を一足(ひとあし)引き納める也
参考
古伝神傳流秘書大森流之事二本目左刀
左刀
 左の足を踏み出し向へ抜付け打込み扨血震して立時足を前之左の足へ踏み揃へ左足を引て納める以下血震する事ハ足を立替へ先踏出したる足を引て納る也
読み
左刀(さとう)
 左の足を踏み出し向うへ抜付け打込み扨血振るいして立つ時足を前の左の足へ踏み揃え左足を引いて納める 以下血振いする事は足を立替え先ず踏み出したる足を引いて納める也

読み解く

 是は正面に対し、右側に向いて座る。左へ廻り左の足を一足踏み出して抜き付け、すぐに打込み、血振るいして立ち上がる時は左足に右足を引き付け揃える。納刀の際は右足を一足引いて納刀する。

 この、英信流目録の大森流居合之事左刀は、「左へ廻り左の足を踏み出して抜き付け」です。

 「古伝神傳流秘書大森流居合之事左刀」では左へ廻らず、正面向きの儘で左足を踏み出し、抜きつけています。


 「左の足を踏み出し向へ抜付け」をやってみます。正面に向いて座し、左足を踏み込んで正面の敵に抜付ける。
 初発刀は右足を踏み出し正面に抜付ける、二本目の左刀は左足を踏み出し正面に抜きつける。
 何の不思議も無いのですが、正面の相手に右足だ左足だと踏み込み足を変える業技法を稽古させている様です。左刀とは踏み込み足をさして言っているか、敵は我の左側に坐すというのでしょう。

 英信流目録の大森流之位左刀は右向きに座り、左回りして左の敵を切る業に変わっています。神傳流秘書の文言が抜けているのか意図的なのか知るすべはありません。

 古伝神傳流秘書の「大森流左刀」は、大江先生の改変によって「正座の部右」となっています。
 大江先生の右は、正面に対し自分が右向きに座っている場合の業で敵は左に居るというものです。
 対敵意識を持つ古伝を、演武の場所から絞った言い回しに変えた理由はなんなのでしょう。中学生向きにとも思いたいのですが、その必要は無いでしょう、判りません。

 大江先生の改変と言われる事に疑問を感じて居ます。江戸末期から明治に懸けての混乱期に多くの事が失伝したかも知れません。大江先生はそれを掘り起し整理されたのかも知れません。
 或いは、大江先生は若いころに居合を齧っただけで、充分認識しないまま、明治という混乱期に、居合が曲がりなりにも出来る者が土佐を離れて中央で働き、たまたま人手不足の土佐の指導者に祀られたのかも知れません。然しそのことを記すものも、弟子の方々も大江先生の改変と云うだけでそれ以上は何も語られて居ません。
 私が大江先生を批判する様な文章を書くので気に入らないと仰る方がおられます。訳も無く神様呼ばわりするほど、馬鹿なへそ曲がりではありません。
 それ程崇めたいならば、大江居合を徹底的に稽古されればと思うのですが、そんな人に限って当代の居合すら碌に学ばないもので、如何なものでしょうか。

 

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2017年12月20日 (水)

曽田本その1の2英信流目録読み解く1居合棒太刀合之巻6大森流居合之位1初發刀

曽田本その1
2.英信流目録読み解く
居合棒太刀合之巻
 兼 大森流居合 小太刀之位
6、大森流居合之位
 
一本目初發刀
 平常之如く坐之居ㇽ也右の足を一足婦ミ出抜付討込亦左の足を出之右尓揃へ血ぶるひをして納むる也血ぶるひの時立也右を引納ㇽ也
読み
一本目初發刀(しょはっとう)
 平常の如く坐し居る也 右の足を一足踏み出し抜付け討ち込む 亦 左の足を出し右に揃へ 血ぶるいをして納むる也 血ぶるいの時立つ也 右を引き納むる也
読み解く
 平常の如く座している。右足を踏み出して抜き付け、その足のまま振り冠って討ち込む。左足を右足に揃えて立ち血振るいをし、右足を引いて刀を納める。

 「平常の如く坐し居る」ですが、正座とも立膝とも書かれていません。

 古伝神傳流秘書の大森流之事初発刀を読んでみます。
「右足を踏み出し向へ抜付け打込み扨血震し立時足を前の右足へ踏み揃へ右足を引て納る也」

 神傳流秘書は随分簡単に書かれています。英信流目録の方がやや克明です。これも座仕方の説明はありません。

 この英信流目録の原本は安永5年1776年に書かれています。江戸幕府は慶長8年1603年に開かれています。幕府が開かれてから173年も経ち10代将軍家治の時代です。
 立膝の方法はかなり古そうですが、正座は江戸時代に入ってから、武家の正式な座し方になったとも言われています。
 座り方など特に決まりがなければ如何様にも座れます。
 「平常の如く坐し居る」と言えば、この安永5年頃ならば正座の坐し方が、殿中では十分浸透した武士の座し方と言えるかもしれません。
 大森流は正座と思い込んでいますから、何の疑いもなく「正座」しますが「平常の如く・・」と改めて読むと「さてどのように座ろうか」と思ってしまいます。

 此処は同時代に書かれた「童蒙初心之心持」の動作をよく研究してみます。
 
この伝書は木村栄寿先生の「林崎抜刀術兵法夢想神傳重信流」に記載されているもので庚申5月(1860年万延3年)に下村定から島村義郷に伝授したものです。転載禁ずですがこの道の正しい継承の為にご容赦ください。

 「刀を差し体を真っ直ぐ腰腹の抜けない様に着座し両手を膝に置く。
 正面に対座する敵を見定める心持で、息を吐くにつれて左右の手を刀に掛けるや抜き出す。
 右手の柄掛は柄の平部分より何となく柔らかに掛け、糸を繰り出す様にするすると抜き出し、切先が鯉口を離れる間際に鞘を左に返し、柄の握りが自然と納まる所に納まるや、小指・薬指を次第に締めて、左の肩腰共後ろへ捻り開き、右の肩はぐっと締めて、顎を引いて俯けにならず、のびやかにして、右手の力六分左手の力四分の心持ちで何の懸念も無く左右の手で引き分けて抜き付ける。

 抜き付けた時は、体は胸を張り、腹を出し、半身ならず正面向きにならず、いわゆる三角の曲尺(まがりかね)で半開半向となる。
 さて抜き付けの際、顔色に今から抜くぞとばかりに柄を握り抜き出すなど甚だ悪く、何事も無き様に柔和に抜き出すべし。

 抜き付けは臍の底に心を鎮め、敵の乳通りを無心に抜き付けるもので、敵が屈んで脛を立てた時は我も同じと心得、抜き付けた刀は肩から拳刀の切先へと水走りするものとする。しかし、水が滞り無く流れてしまうように切先が下がり過ぎてはいけない。この処は筆に述べ難い。

 左右の足は真直ぐに踏み、後ろの脛が床から浮かないように。前の脛が内側に倒れては甚だ弱くなる。

 抜き付けの、切り上げる様な、かまぼこの様な刃筋は鞘の引き方に問題が有るので充分工夫すべきだ。

 業のポイントは第一に目付けである。首を左へ傾けて抜き付けた刀を覗き見するようにしていてはいけない。気脈が切れてしまう。打ち込むまでは敵の面より拳を見、打ち込みに連れて斬り付けた所へ目を移していくものだ。納刀が終わり座を立つまで目付けは敵に付けておく事。

 振り冠りは後ろ足を進める心持で冠り込む、切先倒さず左の肩の上へ突き込む心持で、冠る拍子に拳を下げるのは気脈が切れるようで甚だ悪い。振り冠った時ちょっと上目使いするのも気脈の切れるのでよくない。

 打ち込みは手の内を柔らかに冠り、体をよく伸ばし腰に気を入れ、小指より順に締めて打ち込む。刃筋狂わず、強く打ち込むのがよい。

 右手が勝って右の小鬢より打ち込んでいるのは曲芸と言うものだ。拳を揃え絞まりよく調えば刀刃は真直ぐに下りて切れ心知よい。」


 この童蒙初心之心持を読んでいますと、昔から同じ事を言われていたのかと少しも変わらない修行途上の事をほほえましく思います。

 童蒙とは初心者の事で、「初心の者への修行の考慮の一助になればとあらましを書いた」、としています。
 大いに参考になるもので、原文のままでも十分意味は伝わってきます。

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