曽田本その1の6英信流居合目録秘訣読み解く

2018年9月13日 (木)

曽田本その1の6英信流居合目録秘訣読み解く4居合心持之大事8獅子洞入・獅子洞出

曽田本その1
6.英信流居合目録秘訣読み解く
4、居合心持之大事
8獅子洞入・獅子洞出
 是以戸口抔ヲ入ルノ習也其外トテモ心得可有或ハ取籠者抔戸口ノ内二刀ヲ振上テ居ルトキハ容易二入ル事不能其時刀ヲ抜テ背二負タル如ク二右ノ手二而振リ上ケ左ノ手ニテ脇差指ヲ提ゲウツムキテ戸口ヲ入ルベシ上ヨリ打込メバ刀ニテフセキ下ヲナクレバ脇指二而留ル向フノ足ヲナグ可シ獅子洞出是以同出入ノ心得ヲ知ラスル也
以上
居合目録口□(受)覚終
 読み及び読み解く
 是を以て戸口などを入る習いとする その外の状況でも心得て置くべきである 或いは取籠り者などが戸口の内に刀を振り上げて居る時は容易に入る事は出来ない その時刀を抜いて背に負う様にして右の手を振り上げ左の手に脇差を下げて俯いて戸口を入るのである 上より打ち込んで来れば背に負った刀で防ぎ下を薙ぐって来れば脇差で留めて 相手の足を刀で薙ぐのである 獅子洞出である 是を以て同じく出入の心得を知らすのである
 第17代大江正路先生は奥居合立業の部に「門入」と云う業名の業を独創されています。門入の呼称ですから門の出入りの業だろうと現代居合では第20代河野百錬先生が「門入」の解説をしています。(昭和17年大日本居合道図譜より)
 門入の意義「我れ門の出入に際し、門の内外に多数の敵を受けたる時(前後に多敵を受けたる場合と同意)我れ門の真中に進み内外の敵を仆の意なり。」
 門の内外から敵を受けたと場の想定を河野先生は附け加えてしまったのですが、(本来前後に多敵を受けたる場合)が元なのです。
 業名の過剰反応が後世の「門入」に更に付加されたのです。「頭上に鴨居又は門等ありて刀先の閊える場合に行う業也」(昭和58年第21代福井聖山先生著無双直伝英信流居合道第二巻より)
 第22代も之を引き継いで居ます。無双直伝英信流正統会の「門入」は門の鴨居を意識した動作が優先してしまった様です。動作のポイントは棚下の上に当たらない様な抜刀と振り冠り及び、切先が上に当たらない打ち込みにあるようです。手打しか出来ない居合では棚下での打下は殆ど無力です。
 恐らく、大江先生は古伝は伝承していないでしょう。奥居合も下村茂市に指導を受けられたか疑問です。
 独創された事は間違いないと思いますが、その後の河野先生の探求心がポイントを外してしまい、次代に引き継がれて門がメインになってしまったのでしょう。
 古伝英信流居合目録秘訣上意之大事
 門入「戸口を出入するの心得也戸口の内に刀を振り上げて待つを計り知る時は刀の下緒の端を左の手に取刀を背負いて俯き滞り無く走り込むべし我が胴中に切りかくるや否や脇指を以って抜き付け足を薙ぐべし」
 棚下
 「二階下天井の下などに於て仕合うには上へ切りあてゝ毎度不覚を取ものなり故に打込む拍子に膝(脛)を着いて打込むべし此の習を心得る時は脛を着かずとも上に当たらざる心持ち有り 
 大江先生の門入
 「(進行中片手にて前を突き後を斬り前を斬る)右足を出したる時、刀を抜き、左足を出して、刀柄の握りを、腰に當て刀峯を胸に當て、右足を出して、右手を上に返し、刀刃を左外方に向け、敵の胸部を突き、其の足踏みのまゝ體を左へ振り向け、後へ向き、上段にて斬り、直に右へ廻り前面に向き上段にて斬る」
 この動作は、前面の敵を刺突する初動に掛かっています。ただ動作のみ追ったのではただの体操です。
 門入の業名に捉われてしまうか、前後の敵に応じる緊迫した状況を充分学ぶかは指導者の居合哲学に因るかも知れません。
 しかし現代居合は場の想定を重要視していますが却って動作を複雑にしている様です。
* 次いでですから細川義昌先生の奥居合には立業の「門入」は無く居業の「棚下」があります。
 「(上の閊へる所にて前の者を斬る)・・右手を柄に掛け体を前へ俯け腰を少し浮かせ、左足を後へ退き伸ばし、其膝頭をつかへ、刀を背負う様に左後頭上へ引抜き、諸手を掛け、前者へ斬込み、其のまま刀を右へ開き納めつつ、体を引き起こし右脛を引き付ける也・・」
 是は大江先生も習われたか見たことがある下村派の奥居合です。棚下から這い出る動作は見られず棚下での抜刀及び斬り込む事がポイントです。(昭和49年貫汪館発行尾形郷一先生の無双神殿抜刀術兵法より)
Img_2129_3
                  曽田先生の写し
                  土佐の居合は腰布一枚の絵がほとんどです。
                  着衣から武士と百姓の間に位置する人の武術の様に
                  思えます。
以上
居合目録口□(受)覚終わり

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2018年9月11日 (火)

曽田本その1の6英信流居合目録秘訣読み解く4居合心持肝要之大事7泳之大事

曽田本その1
6.英信流居合目録秘訣読み解く
4、居合心持肝要之大事
7泳之大事(潜り之大事 曽田メモ)附戸脇
 旅ニテモ常ニテモ夜寝ルニ気ガゝリ成ル時ハ其家二戸樞(框 曽田メモ)抔アラバ其戸樞ノ内二手水鉢カ亦桶ノ類ニテモ置クベシ不意二入来ル者ハ是二ツマツキ騒動スルナリ其所ヲ仕留ル也惣而首ヨリ先キへ入ヲキロウ足ヨリ先ヱ入ルベシ
 附けたり
 戸脇ト云ハ夜中二戸口ヲ入ルニ必内裏我ヲ切ラント心懸テ戸脇二振リ上テ居ルト思フトキワ直二戸口ヲ入事無ク杖抔ヲ持合タラバ其レヲチラリト内ヘ差シ出シ見ベシモシ内二待設ケテ居ルトキハ夜中ノ事ナレバ必其レ二切付可シ杖ヲ出シテ見テカッチリト何ンゾ當ラバ其侭内二飛入ル可シ猶豫否ヤスル時ハ害有リカッチリト當ルヤ否ヤ飛入ルトキハ二ノ太刀ヲカヱス二暇無故害セラルゝ事ナシ
読み及び読み解く
 この「泳之大事」にしても「潜り之大事」にしても題名と内容がつながらない様な気がします。
 何か、すでに失念してしまった要件か、題名と誤った内容を記述してしまったか、私の知識不足か判りません。
 旅に出た時でも常のことでも夜寝るに気がかりなことがある時は、其の家に戸框(樞?)があるならば其の戸框の内側に手水鉢か桶の類を置いておくのが良い、不意に入って来た者が是に躓き慌て騒ぐであろう、その處を仕留めるのである、総じて首より先に入らず足より先に入るべきである。
 附けたり
 戸脇と云うのは夜中に戸口を入るのに、必ず戸口の内側又は裏側に我を切ろうと心懸け戸脇で刀を振り上げて居ると思う時は、直ぐに戸口を入る事無く、杖などをたまたま持っているならば、それを先にチラリと内へ差し出して見る もし内に待ち受けている時は 夜中の事ならば必ず其れに斬り付けて来るものである。
 杖を出して見てカッチリと何ぞ当たれば其の侭内に飛び入るものだ、猶予否やする時は害有り、カッチリと当たるや否や飛び入る時は二の太刀を返す暇は相手に無いので害せられる事は無い。
 さて、カッチリと直ぐに来ないと判断した場合はどう対処しましょう。
 英信流居合目録秘訣の2上意之大事5門入
 「戸口を出入するの心得也戸口ノ内に刀を振り上げて待つを計知る時は刀の下緒の端を左の手に取刀を背て俯き滞りなく走り込むべし我が胴中に切りかくるや否や脇指を以って抜き付けに足を薙ぐべし」と教授を受けています。
 現代居合では大江先生の奥居合立業門入りがそれらしき雰囲気を残していますが、この門入りは前後を多敵に攻められた場合の応じ方から、門を入る場合の運剣を付け足した替え技でしょう。
 古伝は「獅子洞入・獅子洞出」として英信流居合目録秘訣の最終に記述されています。次回はその「獅子洞入・獅子洞出」となります。
 
 

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2018年9月 9日 (日)

曽田本その1の6英信流居合目録秘訣読み解く4居合心持肝要之大事6閨之大事

曽田本その1
6.英信流居合目録秘訣読み解く
4、居合心持肝要之大事
6閨之大事
 旅抔二泊ル時夜中気遣敷時カ又常ニモ用心有トキワ先ツ笄隠レヲ用ベシ笄隠レト云フワ行燈ノ土器二楊枝ヲ横二渡シ笄ヲ火ノ上二ソット置ク也火消タル如シ入用ナレバ笄ヲ除クレバ火明カ也扨其間二戸口アラバタゝミヲ一枚ハギテ其戸二モタセ楊枝ヲツカ二シテ置クベシ外ヨリ戸ヲ明クレバ楊枝二タゝミモタセテ有故二タゝミ速カ二倒ルゝ也寝て居ルト云へ共其音二不驚ト云フ事ナシマダ急ナルトキワ我ワ座ノ隅二座シ寝床ハ座ノ真中二我カ伏〆居如ク二見セテ置クベシ亦ユルヤカナル時ハ四方ヨリ糸ヲ十文字二引渡シ其ノ糸ヲ入口ノ戸二付ケ置ク茶碗二茶ヲ入レ其茶碗ヲ糸ノ十文字ノ違目二カラメ付我カ顔ヲ其茶椀ノ下ヱヤリテ寝ベシ外ヨリ戸ヲ明ル時ハ糸ウゴク故其水コボレテ我面二落ル故驚クナリ是ヲ夢間ノ寝覚ト云也又常二イタメ帋ノ水呑ヲ拵テ四方二穴ヲ明テ懐中スベシ右の茶碗之代二用ル也尤枕本二大小ヲ置クコトナク刀ノ下緒二脇差ノ下緒ヲ通シ刀ノ下緒ノ端シヲ手二持テ寝ベシ火急ノトキワ大小ヲ否ヤ取ッテ指ス二宜シ
 イタメ帋水呑
 茶ヲカクル風袋ノ小キ形二スベシ四隅二乳ヲ付置クベシ水無キ所ニテハルカ二深キ井戸亦谷水抔汲む二ヨシ長キ糸ヲ付ケテ瓶ノ如クニ汲也尤水呑ノ中二石ヲ入レオモリ二シテ汲ム也
 読み及び読み解く
 この居合心肝要之大事の閨之大事は書かれている様な事で満足いくものなのか、江戸時代前期がこの程度の事であったか判りません。然し大切な教えは、旅などで何となく物騒な気配を感じる事は現代人より遥かに敏感だったと思われます。
 安易に夜を迎えてはならないという戒めを先ず教えています。それは笄隠れの業を以て明かりを細め寝たふりをし、戸口に畳を楊枝にもたせかけて仕掛けをする。本当に害意を持った敵が居るならば寝静まってから戸を開けて攻め込んで来るでしょう。其の時畳が倒れるので寝ていても音に驚いて飛び起き対応できる、と云っています。方法論に取らわれず如何に夜を眠って過ごせるかその用心をしておきなさいと云うことでしょう。
 現代の企業活動にもそれ程の用心があればと、ふと思ってしまいます。
 どうかな~と云うことでなく、今夜襲って来ると察したならば、寝床を真中に敷いて寝たふりをして、自分は部屋の隅に座し襲ってきたら即座に応じる態勢を作れと云います。
 いつ来るかよくわからないが来るであろうという様な場合は、眠りを一気に覚ます方法を考えろと云っています。この処の地震や台風の予告に応じる対策を思い描いてしまいます。
 それが茶碗に水を入れて顔の上に吊るし、水が顔に掛れば驚いて応じられると云います、この糸で茶碗を釣るなどとても現実的では無さそうです。方法論よりも心がける中で何が有効かを考えろというのです。
 イタメ帋はいため紙ですが、当時の紙は楮やミツマタを漉いた和紙です。和紙を張り合わせた紙ですからとても丈夫で水呑みなどに作っても水に容易に溶けません、代用品と其の使い道は豊富にありそうです。
 それで水呑み茶碗を作って代用にしたらと云っています。あるものを有効に使うという教えとも取れます。
 大小の刀を下緒でつなぎ、事有れば即座に刀で応じられる様にする事、最も重要な教えは是でしょう、刀を手に持って寝ることが出来、事有れば即座に起きる感覚を磨き、刀は切るのではなく突刺すことをも示唆しています。
 イタメ帋の水呑みは代用品の取り扱いの効用をさらりと流しています。何でも特定な道具や  容器が無いと戸惑ってしまう現代人から見れば生きのびることは大変かもしれませんが、考えて実行する楽しさは何十倍だったことかと、ふと思ってしまいました。
 
 

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2018年9月 7日 (金)

曽田本その1の6英信流居合目録秘訣読み解く4居合心持肝要之大事5夜之太刀

曽田本その1
6.英信流居合目録秘訣読み解く
4、居合心持肝要之大事
5夜之太刀
 夜中ノ仕合ニワ我レワ白キ物ヲ着可シテキノ太刀筋能見ユルナリ場合モ能知ルゝモノナリ放レ口モナリ安シ白き肌着抔ヲ着タラバ上着ノ肩ヲ脱クベシカマヱハ夜中二ハ下段宜シ敵ノ足ヲ薙ク心得肝要ナリ或ハ不意二下段二ナシテ敵二倒レタルト見セテ足ヲ薙ク心得モ有可シ
読み及び読み解く
 夜中に仕合う様な時には、白い着物を着ていくのが良い 敵の太刀筋が良く見えるのである 場の状況も良くわかるのである 「放し口もなりやすし」は間合いが十分読めるので相手の太刀を外す頃合いも易々できる 白い肌着など着ている場合は上着の肩を脱ぐと良い 構えは夜中は下段が剣先が相手に見えにくくて良く 相手の足を薙払う心得が肝要である 或いは中段か上段から不意に下段にすると相手が我が倒れたと錯覚して打込んで来るのでその足を薙ぐダマシの術も心得ておくのが良い
 この白衣の効用は、相手から我は見やすそうに思えるのですが、我が白衣で相手が地味な色物ではどうなのでしょう。真っ暗闇と月明かりなど有る場合はなど、首を捻ってしまいます。
 想像の世界なのか実戦の中で培われたものか、剣友と実験してみる価値があるやなしやです。
 足を薙ぐ運剣については、下段での業手付は古伝の業手附に見当たりません。せっかく下段に構えているのですから、構えを変えたりせずに下段のまま左右何れかに筋を替りすれ違い様に薙ぎ払うのが良さそうです。
 古伝神傳流秘書抜刀心持之事では「行違」が使えます。
 「行違に左の脇に添えて拂い捨て冠って打ち込む也」この業は大江先生の改変により奥居合立業の「袖摺返」の原形です。
 大江先生の袖摺返は前方に敵を見出し、抜刀して群衆をかき分けて正面の敵を切るものです。
 第21代福井聖山先生のビデオの中に替え技として古伝の「行違」を「袖摺返替え業」の呼称で演じられていますが、最近の高段者でも知らない人が多そうです。
 横道ですが、元々群衆の中で抜刀して敵を切る業は古伝では「人中」の業がありました。大江先生はこの業も「壁添」の業に変えてしまいました。
 「人中」は「足を揃え立って居る身にそえて上へ抜き手をのべて打込む納るも体の中にて納める」
 左右に壁などあって横一線に抜き放てない場合の抜刀法に場の想定を変えてしまったのです。大江先生は、想定が敵と我と云う人を対象にした居合から、場所或は正面に座す我と云う、人を元にしていない技の運用が目立ちます。
 現代居合を習って、古伝を身に着ければ居合に息吹が吹き込まれる様に思えてきます。袖摺返で群衆をかき分けるなどやって見れば誰もどいてくれません。抜刀して打込む前に群衆をかき分ける稽古が必要です。
 壁添の爪先だった抜刀も爪先立ってから抜き上げたのではふらつくばかりです。武的身体の運用の欠如はひどすぎます。
 
 

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2018年9月 5日 (水)

曽田本その1の6英信流居合目録秘訣読み解く4居合心持肝要之大事4野中之幕

曽田本その1
6.英信流居合目録秘訣読み解く
4、居合心持肝要之大事
4野中之幕
 取籠者抔ノ有之時杖ノ先キ或ハ竹ノ先二又横手ヲクゝリ付ヶ横手ヲ羽織之袖二通シ其竹ノ本ヲ左ノ手二持テ向ヱサシ出シ右ノ手二刀ヲ持チ生捕ナレバ木刀ノ類ヲ持チ我身ハ羽織ノ陰二隠レ羽織ヲバ相手之方へツキ付べし向ヨリ切ルト云へ共我身二ハトドク事ナシ其所ヲ持タル刀ニテ相手ノ足ヲ薙グベシ亦矢玉ヲ防ク二至テ宜シ
読み及び読み解く
 竹の棒か杖に十文字に横手を付けて、羽織の袖に横手にを通してを、他家の棒を左手で持ち右手に抜き身の刀を持ち、取り籠っている処にスーと指し出す。
 この心得は、ダミーを使って相手に其れを攻めさせてその隙に生け捕るなり、切るなりの教えです。
 文章表現が少々変だろうとも、そんな事に気を使って居ては切られてしまうでしょう。「・・・右の手に刀を持ち生捕るなれば、(相手が)木刀の類を持ち、我が身は羽織の陰に隠れ・・」なども「思いつくままに・おおらかに」解釈すればいいのでしょう。
 この場面は、夜が有効か日中が有効かの議論があっても面白いでしょうが、そんな事よりも、気がたって居る取籠り者です。状況次第に相手がハッとして打込んで来る様にするだけです。打ち込んで来ても羽織と我との間に距離を取れば、斬り込まれても相手の刀は届かない。
 其処を踏み込んで相手の足を刀で横に拂って取り押さえる。矢玉ぐらいならば羽織で防ぐ事も出来るので至って宜しい。
 このままの「そっくりさん」で良いのかどうかは状況次第でしょうが、心理作戦を考えろと教えてくれています。
 

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2018年9月 3日 (月)

曽田本その1の6英信流居合目録秘訣読み解く4居合心持肝要之大事3太刀目附之事4

曽田本その1
6.英信流居合目録秘訣読み解く
4、居合心持肝要之大事
3太刀目附之事4
 ここでの目付は「敵の足に目を付けべし」でした。そのわけは「是にて場合能く知るるのみならず臆せざる也」といって、足に目を付け、相手の全身も、周囲の状況も場合もよくわかる。それによって相手の顔や眼に目付して惑わされたり、一点に執着して切先に目付するのと違い、自然に遠山の目附となり、真剣勝負での臆する心が無くなる。
 更に「上見ぬ鷲の位」によって心は下に有って、動作は上となり迅速に応じて油断ない心を得られる。とするのでしょう。
 ここでの目付は居合にも通じるでしょうが、仕合う場合の相手を見る目の見、心を感じさせるところです。
 しかし、参考の教本からは、足に目を付ける教えは見当たりませんでした。
 足への目附などで昇段審査や競技会で演武すれば、即座に飛んで来る物知り顔の古参がおられるでしょう。
 武蔵の三十五箇条や五輪書によれば、ありうる、とも云えます。うなじを直ぐにして目を細めてうらやかに、足に目付けが出来るでしょうか。
 多くの教本は、先師の教えを「かたち」ばかりトレースする事で終わっています。仮想敵相手で切られない居合ではそれでもいいでしょう。本物を求めなければ武術にはなりません。
 前後左右に気配りし、相手の動きをとらえられる目付などやって居ると、「かたち」ばかりの者が「違う!」と一点凝視の目附を要求してきます。
谷田左一著高野茂義校閲昭和10年「剣道真髄と指導法詳説」目付の事
 「己の眼をば大体敵の顔面に注ぐのが常である。これ自然の理であって、我々が人に対しては先づ其の面を見るものである。然れども敵の顔面に固定することなく、古人の教の如く遠山を望むと同じく、接近した敵をも遠方を見ると同じ眼で見、爪先から頭上、手先の末に至るまで、一挙一動瞭然として己の眼中に映ぜしめるのである一部分のみに注目する時は其の部分はよく見えるが、全体の挙動を知ることが出来ない。必要に応じて一部分を見ながら全体を見、全体を見ながら一部分を見逃さないやうにせねばならぬ。
 目付に就いては、古来各流派に因って其の説を異にしている。圓明流では「心は顔面に表はれるものであるから目の付け處は顔に及ぶものはない」といひ、又一刀流では二つ目付と称して、敵を一体に視る中にも特に重きを置く處が二つある。一つは剣尖に目を付け、一つは拳に目を付け、又我を忘れることなく、彼我二つ目を付ける必要があるので、旁々之を二つ目付といっている。又四つ目付の教えもある又見当の目附の事がある。或は又撃突の意志は、悉く眼に現はれるものであるから、敵の眼に目を付けて一挙一動を見抜くといひ或は之と異なって激突の意志は眼に現はれる故に、敵の眼と我が眼を見合せないで、わざと臍の辺りなどに注目して迷はす流がある。之を脇目付或は帯の矩といっている。その他腕に眼を付け足になど付ける流もある。
 昔からまた観と見との教がある、観の目は強く、見の目は弱い。観の目は敵の心を見、其の場の位を見、大きく目をつけて其の戦いのけいきを見、折節の強弱を見て正しく勝つ事。
 古語に「眼を開けば則ち誤る」と云っているが、これは其の視る所に著するの謂である。吾人の注意する所に惹かれ易く、注目する所は変化あるものに惹かれ易い。眼で視る時は其の視る所に著して迷を起こす事となる。即ち敵の手を視れば心は手に惹かれ、足を視れば足に偏るものである。敵の色に付き、動作に心を奪はれては意外の失敗を招くに至るから、宜しく大観して偏見すべきではない。敵の色と形との観察を聴き、無形に見、敵の意志が色形に現はれない先に我が心に感じ、我が耳に聴き、我が眼に視、我が鼻に嗅ぐものである。山岡鉄舟は心を以て心を撃つと云っている。斯くの如きは長年月の工夫鍛錬の後にここに達するものである。一朝一夕にして企て及ぶべきものではないが、平素此の心掛けを以て練習すべきである。」
 各流派の伝書が公になって来た昭和の始めにここまで読み込んで纏められたものは少ないでしょう。長文ですが掲載させていただきました。
 なお、谷田左一先生は無双直伝英信流を大江正路先生に習い、山内豊健子爵と共著で「図解居合詳説」を昭和13年に出されています。

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2018年9月 2日 (日)

曽田本その1の6英信流居合目録秘訣読み解く4居合心持肝要之大事3太刀目附之事3

曽田本その1
6.英信流居合目録秘訣読み解く
4、居合心持肝要之大事
3太刀目附之事3
 この英信流居合目録秘訣の居合心持肝要之大事にある太刀目附は「敵の足に目を付けべし」でした。
 是は居合心持肝要之大事ですから居合の際の目付けになります。
 そこで、無双直伝英信流及び夢想神傳流の目付けはどうなっているのでしょう。
 教本によってどのように捉えていたかを見て見ましょう。
木村栄寿著昭和57年「林崎抜刀術兵法夢想神傳重信流伝書集及び業手付解説」
 抜刀術童蒙初心之心持「指體容を直に胴のぬけざるようにして両手を膝に置打向ふ敵を見定める心持にて向へ・・」
大江正路・堀田捨次郎著「剣道手ほどき」視線
 「両手を膝上に置き心を安静にし丹田に気力を整へ四肢を緩やかにし眼の視線は正座前方七尺の所を凝視し・・
 河野百錬著昭和13年「無双直伝英信流居合道」
 居合の作法並に心得「着眼」
 「1、坐したる時の着眼は目の高さに於ける前方空眼(9尺位ひの辺り)(一定の箇所に留むるにあらず、八方に心眼を注ぐの意)遠山を望む気持ちたるべし。
  2、動作中の着眼は、仮想の敵になす。(対敵の場合は6尺位ひの辺り)業によりて一定せざるも、横一文字の抜き付けは敵未だ仆れざるの態にて、坐したる時の着眼の高さに於いてなし、最後の打下したる時は其の打下す太刀の後を追ひて約6尺位に前方(仆れたる敵の体を見越したる点)の床を注視するを適当とせん、是は正座一本目の業を中心としての着眼なるも、業に依り種々相違あるは言をまたず、要は抜刀の真意を解し、臨機自然の着眼を為すを本旨とす。
  3、動作中は妄りに瞬きをせぬ様心すべき事。」
 河野百錬著昭和17年「大日本居合道図譜」
 「打向ふ敵を確かに見定むる心持にて向ひ・・」
 河野百錬著昭和37年「居合道真諦」無双直伝英信流嘆異録
 目付の事:「目付は常に敵に、とワカリキッタ事が実行されて居ない人を多々見受けるが之は業の真意を解さぬ証左である、武道はすべて目付が肝要である。」
 政岡壱實著昭和49年「無双直伝英信流居合兵法地之巻」
 英信流居合道の作法と心得座り方
 「座し終わった時親指は重ねず接す。膝頭は両拳を入れる程に開く(膝の巾が肩幅と同じともいわれている)腰は押し出す気持ちで臍下丹田に力を充たし、腹は出さないで腰をはる。上体は真直に、両肩は自然に下げて胸ははらず顎を少し引きうなじをのばして頭は真直に保ち、口は軽く結び奥歯をかみしめる気持ちで、眼は半眼に開き、3mほど前方にそそぎ遠山の目附をなす。対手のある時はその周囲にも目をくばる(敵の一部を見つめることなく敵全体を中心として周囲にも目をくばる)勿論左右前後にまでも心眼をそそぐべきである。両手は肘に力を入れることなく股の基部にハの字に軽くおき、肘は柔かく自然に張る。この時の気持は極めて自然であり、武張らず柔かで而も臍下丹田に気力を充実していることが大切である。然しこの気力は決して外に露わざず物静かなるを要す。」
山蔦重吉著「夢想神傳流居合道」着眼(目付け)
 「正座、立膝いずれの場合でも前方三メートル下に着眼するものであるが、これを遠山の目付けといい、目標の一点に着眼はするが遠くの山を望むごとく目を半眼にして、全体を見るように左右の視野を広げる心持が大切である。動作中は常に敵に目を付け、斬下した場合には、倒れた敵(その倒れた敵を含めた三メートル位前方)に目を付ける。あまりうつむきすぎてはならない。」
檀崎友影著「居合道教本」着眼
 「正座の時も立膝の時も、眼付けは、前方凡そ九尺(2.7メートル)とする。一ケ所に着眼するといっても八方に心眼を注ぎ遠山を望む気持ちになることである。動作中に対敵およそ六尺(1.8メートル)斬下した場合、その刀のあとを追うように又、倒れた場合敵を見越した点になるが、その場合の臨機自然の着眼となるのを本旨とする。目は半眼になるのを常とする。」
加茂治作著「無双直伝英信流居合道」目付け
 「ほぼ九尺(270センチ、3メートル弱)の距離をおいて相手を見るのが、ふつう、居合の目付けである。施術後、敵が倒れたとき、これを目付けにする。ただし、他敵の来襲に心をくばり、遠山の目付けもたいせつである。目付けは、特殊の業以外に首を動かしてはいけない。いわゆる落とし目、流し目を理想とする。」
池田聖昂著平成17年「無双直伝英信流居合道解説」一般基本事項
 「正座したる時、其の眼付けは約3m位(約十尺位)先に付けるが、一定箇所に目付けを固定するに非ず、八方に心眼を注ぐ意、即ち遠く山を望む心持ちにて見る事が肝要である。」
* 
 まだまだ、居合の資料はあるのですが、この辺にしておきましょう。河野先生、政岡先生の十分突っ込んだ解説で「かたち」は出来上がるでしょう。しかし、本来武術です。
「かたち」は似ていても術になるかは、その人の哲学によるもあり、更に心と身体の奥へ踏込まなければ、切るも、切らずにおさめるにも、仮想的相手の武的演舞はともかく、実場面では役に立たないものでしょう。
 次回はもう一度古流剣術に戻って目付を考えて見ます。
 
 

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2018年9月 1日 (土)

曽田本その1の6英信流居合目録秘訣読み解く4居合心持肝要之大事3太刀目附之事2

曽田本その1
6.英信流居合目録秘訣読み解く
4、居合心持ち肝要之大事
3太刀目附之事(その2)
 古伝英信流居合目録秘訣では太刀目附之事
 「敵の足に目を付けべし是にて場合能く知るるのみならず臆せざる也是を上見ぬ鷲の位とも云なり心は下に有って事サ上に速に応ずる油断無の心なり」
そこで古来からどの様に目付について言われているのかを探ってきました。もう少し捜してみましょう。
 何も考えずに、習ったままに他にはやった事も無く、習ったままに相手の顔や眼を見るのが目付でしょうか。其のまま後輩に嘘を教えていいのでしょうか。
 前回まででも随分納得されたと思いますが習っただけしかやっていなかった方は、教えのどれか自分のと違うものを一年ばかり稽古してその意味を学び飛躍できればしめたものです。
笹森順造著昭40年「一刀流極意」
 一刀流兵法十二ヶ条目録「二つ之目付之事」
 「人に目が二つある。一つの物を見るのにも二つの目をつかう。片目で一方から見たのでは物が平面に見えて立体の遠近や真相がはっきりわからない。両眼で見て始めて実体が正確にわかる。物を見る時に目についた表面の一部分だけに気をとられたのでは本当の物を見そこなう。特に目に付いた部分が全体の中でその一部分と最も関係の深い他の要な部分を見のがしてはならない。
 一部分と全体を見るべきである。
 相手の体と心理を見る。相手の眼中と心中とを見る。即ち有形と無形とを見る。
 相手の技の起る所と納まる所とをともに見て応ずるべきである。
 相手と己れを見る心がけが必要である。
 眼も心も居付いてはならない。
 大局に一局を見、一局に大局を忘れず。活眼を開いて彼我の有無と一切の一円を見る事を本旨とする。」
 目心之大事:「目心の極致は目に見えた形の窓から奥の院の心の扉を開いて霊眼を以て不動妙智を看破することである。有形を通して無形を見、万象の実相に即応して中らざるなきに至るのは目心の至極である。」
 捨目付:「形に見える目付を捨て心にて過現未の三色を透見し万全の真相を直観する明哲至極の位に登る目付、思無邪の目付。」
千葉栄一郎編「千葉周作遺構」(オンデマンド版)
 北辰一刀流十二箇条釈
 二之目付之事:「二の目付とあるは、敵に二つの目付あると云事也。先敵を一体に見中に目の付所二つ有となり。切先に目を付、拳に目を付るなり。是二つなり。敵の拳動ねば、打事叶はず。切先動ねば打事叶はず。是二の目付也。又敵に耳目を付て己を忘れてはならず。故に我も知り、彼も知るべき事を、為がため、二之目付也」
 目心之大事:「目心とは目で見るな、心で見よと云事なり。目に見るものは迷ひあり、心より見るものは迷はず、目は目付役に使、心の目にて見るなり。目の用も速かなるものなれども、心にて主宰するものなれば、未だ動止せざる前に動止を知るは心の功なり」
*
高野澄編訳平成15年「山岡鉄舟剣禅話」
阿部正人編山岡鉄舟筆記「鉄舟随感録」一刀流兵法箇条目録
 ニ之目付之事:「ニの目付とは、敵に二つの目付ありと云ふ事なり。先ず敵を一体に見る中に、目の付け所二つあり、切先に目をつけ、拳に目を付く、是れ二つなり、故に拳うごかねばうつことかなわず、切先うごかねばうつことかなわず。是れ二目 をつくる所以なり。敵にのみ目を付け、手前を忘れてはならぬ故、己をも知り彼をも知る必要あるを以て旁々之を二の目付けと云ふなり。」
 山田次郎吉大正12年心身修養剣道集義
 源清音剣法初学記「物見」
 「物見は俛く(うつむく)にも非ず仰くにも非ず平かなるを要す。俛くも仰くも皆病なり。又左右に傾くべからず、傾くも亦病也」
 源清音剣法性格「物見」
 「物見は目を謂ふ、目の官は則ち見るなり。其の大略は高下左右を見るの外なし。又其の元とする所は、初めに目を著けたる處、即ち直ちに見る所にして、例えば人に対し先づ其の面を見るが如し。是教へを待たずして然るものなり。蓋し面は見る所の元なれば、其の元を見れば其の心の変化より動作に分るる處も、自ら明らかなるべし・・目は見るの官なれども心を主として目を用ひざれば目に見て気に移り、心は空と為るを以て動作する所前後と為り、別れたる末のみを見ること多し。目見の作用宜しきを得ざるより、手足の動止亦意の如くならず。」
 源清音剣法規則据物枢要「目附の事」
 「目に初、中、後の三段あり。第一其所に対し當に切るべき所に剣を配るとき、正しく其の所を見定むべし。第二剣を蒙るに随ひ目を放ち、中眼にして其の所を見。第三身の反り体と共に上眼に移し中眼は遠きを見渡し上眼は高山又は日月等を仰ぎ見る形を謂う、目見る所を失わず、打ち込に至り、太刀よりも目の早く下るを嫌ふ。 目其の切る所を見んことを思はず、打ち込と共に目の下るに非ざれば気二つに分れ、身の権衡 を失ひ、気と刀と相離れて業を為すこと能はず。目の早きは心気の調はざるなり、早く其所を見るも益なけれど心調ははざる者は早く見んことを思ひ是より心気離るるなり。心気正しからずして体を離るるが故に、心気目に移りて見んことを欲し、目早ければ全体撓みを生ず。打ち下す刀の跡を追ひて見る心を以て権衡と為し、体と気と一ならざるべからざるなり。」
 目付の事は大変面白いもので、これらのそれぞれの教えに微妙な違いも見られます。顔に付けろ、眼に付けろ、足に、いや体全部だ、動いていれば変化極りない、心で見るのだ。
 次回にも、もう少し目付けを勉強してみます。

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2018年8月31日 (金)

曽田本その1の6英信流居合目録秘訣読み解く4居合心持肝要之大事3太刀目附之事1

曽田本その1
6.英信流居合目録秘訣読み解く
4、居合心持肝要之大事
3太刀目附之大事(その1)
 敵ノ足二目ヲ付ケベシ是ニテ場合能ク知ルゝ而巳成ラズ臆セザル也是ヲ上見ヌワシノ位トモ云ナリ心ハ下二有ッテ事サ上二速二應ズル油断無ノ心ナリ
読み及び読み解く
 敵の足に目を付けるべきである、是に依って場の状況が能く知れる のみならず臆する事も無い 是を上を見ざる鷲の位とも云うのである 心は下に有ってするべき事は上にあり速やかに応ずることが出来る 油断の無い心である。
 目付けについては剣術の各流派によりそれぞれの考えがあるのか一定したものは無さそうです。
 この敵の足に目を付けていますと、すっ飛んできて注意が飛ぶでしょう。一般には遠山の目付けと称する相手の目から肩、胸、肱、拳の辺りを遠い山を見る様に、一点に居付かない目付けを推奨されます。
*
 そこで目付についてどのように心得が伝えられているか現代のテキストを調べて見ました。
 古伝研究の為に先生方のテキストを引用させていただきます。
椎木宗近先生著2012年発行「天真正伝香取神刀流」
 「二之目付之事:二之目付とは敵に二つの目付有と云う事なり。先づ敵を一体に見る中に目の付け処二つあり。切先に目をつけ拳に目を付く是れ二つなり。故に拳うごかねばうつことかなわず、切先うごかねばうつことかなわず、是れ二つの目をつくる所以なり。
 敵にのみ目をつけ手前を忘れてはならぬ故、己をも知り彼をも知る要心あるを以てかたがた之を二つの目付と云うなり。」
大竹利典先生著平成26年発行「平法天真正伝香取神道流」
 「観見二つのこと」見るということは、肉眼で見ること・・観とは心で見ることであって、これを心眼といいます。心眼とは、種々の事を分析して心に留めることです。・・それらの一つひとつに心をうばわれてはなりません。状況は常に変化しているので、とらわれてはいけないのです。・・」
樋口一著昭和11年「念流の伝統と兵法」
 「目付と云ふあり。目付は敵の顔を第一とし、次に拳に目を付けべし、拳に目を付ける時は遅く見へて凌ぎ易き處なり。勤め知るべし。
柳生宗矩著寛永9年1632年「兵法家伝書」渡辺一郎校注岩波文庫
 「兵法家伝書の殺人刀では、二星・嶺谷・遠山の三ヶ条は目着也。二星は敵の柄を握った両手の拳の動き。
 嶺谷は腕のかがみ、両腕の伸び縮み、上段に構えている相手に対する目付.右肱を嶺、左肱を谷とよぶ。
 遠山は両の肩先、胸の間をいう。うちこむ時は嶺の目付け、切合わせ、組物との時は遠山の目付けを心によくかくべし。二星は不断はなれざる目付也。
 二目遣之事:見る様にして見ず、見ぬようにして見て、間々に油断なく、一所に目をおかず、目をうつしてちゃくちゃくと見る也。
 兵法家伝書活人刀では、神妙剣見る事、三段の分別で心にて見るを根本とす。心から見てこそ目もつくべきものなれ。然れば、目にて見るは心の次也。目にて見てその次に身足手にて見るべし。身足手にて見るとは、敵の神妙剣にわが身足手のはづれぬ様にするを身足手にて見ると云ふ也。心にて見るは、目にて見む為也。目にて見るは、足手を敵の神妙剣の座にあてんと云ふ事也。」
*
 柳生新陰流の柳生宗矩による兵法家伝書をそのまま読んでも独特の用語が先へ進ませてくれません。渡辺一郎先生の校注によって読み進みます。
 柳生十兵衛による「月之抄」は宗矩・宗厳の伝が平行的に書かれていて、其の上十兵衛の考えが述べられていて面白いものです。たとえば
「目付三之事 二星 嶺谷 遠山 ニ星之目付之事 
 老父の云く敵の拳両の腕也。此の働きを得る事肝要也。
 亡父の目録には二星不断の目付左右の拳と書せる也。
 私云、二星付けたり色と云心持あり是は二星はあて処なり二星の動きを色と也二星を見んと思ふ心より色々心付く心第一なり重々の心持至極まで是を用る也。亦云二つの星と云心持も二つを一つに見る心持二つは一つなり。亦云目付八寸之心持と云事あり。是と太刀の柄八寸の動きを心懸れば二星色も其内にあると云心を以てなり。此ニ星の習い第一也。是より種々の心持有により初めて心を知と云々・・・」
宮本武蔵の目付はどうでしょう。
円明流三十五箇条
赤羽根瀧夫・大介著 武蔵「円明流」を学ぶより
 「目付の事 目を付くと云う所、むかしは色々あることなれども、今伝うる所に目付けは、大抵顔に付けるなり。目の納めようは、常の目よりも細きようにして、うらやかに見るなり。目の玉、動かさず、敵合ちかくとも、いか程も遠く見る目なり。その目にて見れば、敵のわざは申すに及ばず、左右両脇までも見ゆる目なり。
 観見二つの見よう、観の目強く、見の目よわく見るべし。若又、敵に知らすると云う目あり。意は目に付、心は付かざるもの也能々吟味あるべし。奥の目付け別なり。」
宮本武蔵著渡辺一郎校注 五輪書
 「兵法の目付といふ事 目の付けやうは、大きく広く付くる目也。観見二つの事、観の目つよく、見の目よはく、遠き所を近く見、ちかき所を遠く見る事、兵法の専也。敵の太刀をしり、聊かも敵の太刀を見ずといふ事、兵法の大事也。工夫有るべし。此目付、ちいさき兵法にも、大きなる兵法にも、同じ事也。目の玉うごかずして、両わき見る事肝要也。かやうの事、いそがしき時、俄にはわきまへかたし。此書付を覚へ、常住此目付になりて、何事にも目付のかわらざる所、能々吟味あるべきもの也」
宮本武蔵慶長十年落合忠右衛門尉への兵道鏡 
赤羽根瀧夫・大介著 武蔵「円明流」を学ぶより(底本森田栄、魚住孝至翻刻「宮本武蔵」)
 「目付の事 目の付け所と云うは、顔なり。面を除け、よの所に目を付ける事なかれ。心は面にあらわれるものなれば、顔にまさりたる目の付け所なし。敵の顔の見様の事、たとえば一里ばかりもある遠き島に、薄かすみのかかりたるうちの、岩木を見るごとし。また雪雨などの、しきりに降る間より、一町ばかりも先にある、やたいなどの上に、鳥などのとまりたるを、いずれの鳥と、見分くる様なる目つきなるべし。やたいの破風の懸漁、瓦などを見るに同じ。いかにも静まりて、目を付くべきなり。打ち所を見る事悪しし。わきは首を振る事なかれ。うかうかと見れば、五体一度に見ゆる心あり。顔の持ち様、眉間に、皺を寄すべし、額に、皺を寄する事なかれ。教外別伝たり。」
中山博道著剣道手引草
 「眼の付け方 眼は必ず遠山を望見する心持ちにて、一瞥敵の全体に注がねばならないものである。故に何処の点にも注意の欠くる事なく、又何処の点にも注視する事なき眼の練習をしなければならぬ。・・しかしながら一局部のみを注視してはならぬ。尚敵の眼に対しては、特に注意を要するものである。人の心は眼に表はるゝものであるから、敵の虚実を知るには最もよく其の眼に注意する事が必要である。」
高野佐三郎著剣道
 「目の附け方は大体敵の顔面に着目すれども敵の眼・拳等一定の部位に固着するは可ならず。恰も遠山を望むが如く接近せる敵をも成るべく遠く視、敵の頭上より爪先までを一目に見て注意の及ばざる隈なきやう勉むるを要す。
 敵を一体に見る中にも特に重きを置く点二つあり(注目するにあらず)一は剣尖にして一は拳なり。此の二点が動かざれば打出すを得ず。敵下段なれば動作の起りがまづ剣先に現はれ、上段八相の如きにありては拳に現はる、此の二点に注意し、早く敵の動作の起りを察して之を押さへ、又は先を撃つ等敵宜の処置に出べし(古来これを二の目付けと称せり。又敵にのみ目を付け我を忘るべからず、彼我の二つに目を付くる要ありとて之をも二の目付けといへり)撃たん突かんとする意志は悉く眼に現はるるものなるが、殊に我が敵よりも未熟なる時は忽ち我が眼によりて看破せらるるものなり、故に態と敵の眼を見合はずして帯の辺りなどに注目し敵を迷はすことあり(これを脇目附といひ又帯の矩と称して教へたる流儀あり)。」
 この太刀目附を集めているうちに面白くなってきました。今回はここまでとして次回にもう少し捜してみます。
 口伝と称して出鱈目な教えも多く、何故と聞かれても「そのようにならった」と答えるだけの諸先輩や、目付けの瞬間だけをとらえて「めつけがわるい」と云う形ばかりの、「のうなし」も多いものです。
 
 
 
 
 
 
 

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2018年8月29日 (水)

曽田本その1の6英信流居合目録秘訣読み解く4居合心持肝要之大事2太刀組附位

曽田本その1
6.英信流居合目録秘訣読み解く
4、居合心持肝要之大事
2太刀組附位
 互二太刀ヲ打下シ組付ケタル所二勝アリ敵ノ太刀ヨリ遅キト見ヱテモ上太刀ト成位アリ唯肝要ハ拳也
 組付タル処ニテ其気先ニテスク二突ベシ
*読み及び読み解く
 互に太刀を打ち下し組付けたる処に勝ちあり敵の太刀より遅きと見えても上太刀(うわだち)となる位あり 唯肝要は拳である
 組付けたる処にて其の切先にて直ぐに突くのである
 「互に太刀を打ち下ろし」ですから、上段から真向に互に打ち込むのであれば、新陰流の「合し打ち」と取れます。
 相手が真向に打ち下ろして来るのを我も真向に打ち下し、相手の太刀に上太刀となって、相手の太刀は我が頭上から外され、我が太刀は相手の真向をとらえています。
 「肝要は拳也」ですからこの合し打ちでも拳を捏ねないなどの口伝もあるのですが、此処では「合し打ち」で相手の太刀を打ち外して相手の拳を打ち、即座に切先を摺り込んで相手の胸を突く、と読み取れば良さそうです。
 或いは、相手の打ち下して来る太刀を新陰流の「和卜」で打ち外し拳に乗って勝のもありでしょう。
 古伝では江戸で習ったか土佐で身に着けたか柳生新陰流を第九代林六大夫守政は、此の居合に組み込んでいます。この伝書が学ぶ者に伝わっていれば無双直伝英信流も総合武術として格調高い武術として伝承されたでしょう。
 しかし、折角土佐に持ち込まれたこの「太刀組附位」は、この教えだけであって、稽古として業手附がすっぽ抜けています。林六大夫は恐らく大森六郎左衛門より真陰流の目録も伝授されなかったのでしょう。
 大森六郎左衛門もかなりの使い手であったかもしれませんが業技法の実技指導者であってもそれ以上では無かったと推察します。
 残念ながら、秘されたまま是等は伝承せずに、居合抜ばかりが伝承されたと云えるでしょう。
 この事は第17代大江正路先生によると云うよりも、大江先生に正しく伝承できなかった江戸末期から明治半ばの空白期間と人脈の疲弊状況によるものと思われます。
 従って現代居合が居合に片寄り武術論すら認識できない居合人を育ててしまったのもやむなしと云えるでしょう。
 一つの業から幾つもの想定すらも描けずに、決められた稽古順序に従って常に同じ想定での形ばかりの居合に拘り、武的演舞を良しとせざるを得ないのもやむおえないかもしれません。
 それでは、武術を語る事も、武術から学ぶべきものも少ないものと思えて仕方がありません。
 

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